勉強以前の心理学

①まずはまずは「あきらめ」が肝心
 「あきらめること」は途中で断念すること、努力を中断することの意味で使われていますが、元々仏教では「四諦」という言葉があるように、「諦め」とは「真実を明らめること」を指しています。つまり「現実を直視すること」です。
 「何が分からないのかが分からない」「何に不安なのかも分からない」という混沌とした状態によくなるものですが、迷っている時、やる気が出ない時は誰しもこんなものです。まずは問題点をはっきりさせることです。不思議なもので、問題点がはっきりすると解決の道は自動的に出てくることがほとんどです。あとは実行あるのみといったところですが、現実を直視し、問題を明確にすることで、問題の半分は解決したも同じと言えるでしょう。

②「成功者の体験談」にのみ耳を傾けましょう
 友達と群れることはそれなりの安心感を与えてくれますが、下手をすると「なあなあのぬるま湯」といったことも起こってきます。「朱に交われば赤くなる」と言いますが、友達も1つの人的環境なので、当然、自分にとっていい環境もあれば悪い環境もあるわけです。特に予備校などに通うと未合格であるにもかかわらず、耳学問だけは豊富で、物知り顔にいろいろ話してくる人がいっぱいいます。これは全て聞き流す、最初から相手にしない、仲間に入らないのが「鉄則」とされます。なぜなら、自分の貴重な時間を確実にムダと分かっていることのために費やされてしまうからです。

③「自信」がなくとも「確信」は持てる
 実は自分に「自信」があるという人はそういません。例えば、相当美人の女性でも顔、髪、身長、スタイル、体重に至るまで不満だらけで、「自分に自身満々」という人はなかなかいないものです。男性でも顔、身長、体重、運動能力、学力、対人関係といったところでなかなか自信が持てないものです。そこで自分に無いものを持っている人に対して非常に執着したり(同一視)、こじつけで無理やり自分を納得させようとしたり、余りに自信を失った場合には「逃避」といったことも起こってきます。
 ところが、「自信」を持つことはなかなか難しくても、「確信」を持つことは誰にでもできるのです。「確信」には「知的確信(頭で納得する)」「意的確信(実際にやってみて納得する)」「情的確信(心の底から納得する)」の3段階がありますが、どの分野でも「知的確信」からなら入っていけます。「いろいろ情報を集め、考え、検討してみたけれど、やはりこの結論しかない」と判断することは特定の優秀な人にしかできないことではなく、誰にでもできる(というより普通に行なっている)ことなのです。主婦の値引きに対するあくなき執念、バーゲンセールに対する限りない情熱も、この「知的確信」に基づく行動なのです。「知的確信(いろいろチラシを見た結果、このお店のこのセール期間中が一番安い!)」→「意的確信(実際に買ってみてやっぱり良かった、満足!)」→「情的確信(使ってみてますます納得、このモノにこの値段は絶対安い、やっぱり自分の判断に間違いはない!)」という「確信のプロセス」は誰にも経験があることでしょう。「世界で最も優秀なコンピュータ」とされる自分の頭を使って、まずは考えてみることから始めましょう。「合理的判断力」(その一番シンプルなものは「損得勘定」「損得計算」です)は誰でも身につけられます。

④「最も失敗した人」が「最も成功する人」
 「最も失敗した人」が「最も成功する人」となるのです。挫折し、メゲるような失敗の数々、連続の中で、「やっぱり自分にはムリだ」「自分にはこの道は向いていないんだ」と投げてしまえば、失敗は失敗のままで終わってしまうだけですが、「それでも、それでも」といって止めてしまわず、「こうすればいいんだ」という所まで到達すると、「失敗は失敗でなくなり、成功のための肥料、かけがえのない貴重な財産となる」ということです。さらに言えば、苦しみ、もがき、そしてそこから這い上がった人は、自分が苦しんだレベルにいる人までは「道」を教えてあげることができるようになります。カウンセラーや教育関係者はたいていこうした「原点」「原体験」を持っているものなのです。したがって、ある程度の精神的強さを持っている人へのアドバイスは「もっと失敗しろ、もっと苦しめ、もっともがけ、もっと悩め、そして何とかそこから這い上がれ、それが後々貴重な財産となる」ということになるのです。
 こうしてみると、「敗北」と「成功」の分かれ目は「忍耐力」にあるということになるでしょう。頭を急激に良くする、運動能力をプロ並みにするなんていうことは誰にでもできるわけではありませんが、「忍耐すること」なら誰にでもできます。発明王エジソンは電球を作る時、電流が流れるフィラメントの材質に悩み、6,000種以上の材料を試した結果、ついに完成することができたといいます。「天才とは1%の霊感と99%の汗である」という有名な言葉がありますが、「99%の汗」の部分は凡人でも真似ができる所です。
 したがって、「1日でも早く成功したければ、たくさん失敗することだ」ということになるでしょう。よく、勉強するにも「これだけやればいいという本はないですか」「英単語はどれだけ覚えたらいいんですか」と言って、ムダを無くして効率よくやることばかり考え、結果的に参考書や単語集をしょっ中買って「積ん読」になっているだけの人がいますが、逆に「たくさんムダをした人ほど最も効率的にできる」ということを知っておくとよいでしょう。もっと言えば、「すべきムダ(試行錯誤)」と「してはならないムダ(完全主義・完璧主義)」があるといういことです。勉強でもよく「自分は英語と数学は基礎の基礎からやらないとダメなんです、それこそ中学校と言わず、小学校まで立ち返らないと」と悩む人がいますが、行き過ぎると一生「自分は基礎ができていない、基礎からやり直さないとダメ」という強迫観念に追われて終わることになりかねません。基礎どころか、英語学者、数学者並の細かさを自分に要求していることがあるので、注意を要します。

⑤失敗したら何度でも戻ってやり直す
 「失敗に対する恐れ、不安」は誰にでもありますが、肝心なことは「失敗すること」にあるのではなく、「失敗した後の対処の仕方」にあります。失敗したことによって、このやり方ではダメだということが分かっただけでも良しとし、前の選択肢に戻って別な道を行けばいいということです。10の選択肢があるとして、2~3つ試してみてダメだった場合、「やっぱりダメだ」と簡単に結論づけるのではなく、10の選択肢全てを試してみた上でやっぱりダメだった時に、「本当にダメだ」と結論づけるべきです。これが「絶対的確信的ダメ出し」です。社会生活やビジネスでも失敗はつきものですので、「失敗しないことがいい」のではなくて、「失敗した時にちゃんと責任を取ればいい」ということを知っておくべきでしょう。
 よく「昔に帰れるとしたら、いつの頃に帰りたいですか」という質問がありますが、これに対して「小学校の頃」「中学校の頃」といった答えが返ってきます。そうすると、その時代が一番幸福で、それ以降、今に至るまで不本意な状況が続いていることになり、ある意味では悲しい話です。「生きていればリセットは何時でも何度でも可能」なのですが、「失敗したらやり直せばいいんだ」という基本姿勢が身についてくるようになると、次第に「今が一番いい」と思えるようになってきます。

⑥迷ったら前に出る
 これは阪神時代の星野監督が広島の金本選手を説得した際の決めゼリフです。実際、「やったことのないこと」「まだ見ぬ世界」に対して迷いが出るのは当然で、全てを予測し尽くすことなど不可能です。ここで重要なのは「考えるべきこと」と「考えてもムダなこと」の2つがあるということです。「事前に徹底的に考えなければならないこと」があるのは当然ですが、「やってみるまでは分からないこと」があるのもまた事実です。金本選手だって、阪神に行って成功するかどうかなど、実際に行ってやってみるまでは分からなかったでしょう。こんな時、移籍して成功したケースは◎◎%などというデータがあっても、余り役に立ちません。「やってみて初めて確定すること」なのです。

⑦「全力は美なり」よりも「継続は力なり」
 「全力は美なり、そして継続は力なり」とはよく言われますが、どちらを取るかと言えば、当然、「継続は力なり」になります。大体、人間の集中時間は幼児なら15分、大人でも1~2時間集中を続けることは決して簡単なことではありません。ましてやそれが毎日となればなおのことです。例えば、英語を勉強しようと思った人が、「よし、じゃタイムを買って読むぞ」と決意したとします。ところが、800円出して1冊買ってきたはいいものの、1ページ目から悪戦苦闘、辞書を引き引き、どうにか最初の記事は読み終えたものの、すぐには次の記事に移れず、2~3日遠ざかっているともう次の号が店頭に並んでいるということになります。真面目な人、完全主義の人ほどあっという間にこうなります。どうしてこうなるのでしょうか?それは「いい加減に」「適当に」読むことができないからです。1冊、2冊、徹底的に精読してそれで終わりになるより、3年、5年といい加減に適当に読んでいる人の方が力がつくのは目に見えているでしょう。勉強も同じです。最初からすごい勢いで取り組もうとする人がいますが、最初はむしろのんびり構えて「とりあえずやりゃいいんだ、続いた方がいいんだ」という感じの方がいいのです。塾や予備校に通う場合でも、最初の1~2ヶ月は「朝起きて、学校に行って、授業に出て、ノートを取って、分からない所は聞く」ことができれば上等と考えましょう。授業の内容がどんどん分かる、やる気があふれて仕方がない、という必要はどこにもありません。一時的に高いテンションで勉強するより、最初は低いテンションでも最後まで続いた方がいい結果に結びつくものなのです。

⑧「いい加減に」「適当に」やる
 勉強はやらないと意味がありませんが、追い詰められたようにやっても逆に心身を損なうことがあります。やり過ぎず、やらなさ過ぎず、「良い加減で」「適当なあんばいで」やることを心がけましょう。完全主義、完璧主義もよくありません。いわゆる「試験・資格の達人」と呼ばれる人達は「満点狙い」「高得点狙い」など考えていません。「合格ラインを少し超える位狙い」で行くのです。「要は合格すればいいんだ、取れりゃいいんだ」という発想です。そうすれば、努力は最小限で済み、気負いも減り、必要以上に自分を追い詰めることも無くなってきます。