進路アドバイス:学部選択~教育学部


 教育学は教育学部で学ぶことになりますが、教育学部には「教育学研究」を目的とするものと「教員養成」を目的とするものと、大きく2つに分かれます。前者は学問的に研究するためのものであり、後者は教育の現場で実践するためのものであると言ってよいでしょう。したがってしたがって、先生になりたい人は教育学部ということになりますが、どの学部でも教職単位を取れば、教員免許は取れます。小学校・中学校・高等学校・養護学校など校種がいろいろありますが、取れるものは取っておきたいところです。また、教育学部に行っても教員にならないケースも増えてきていますので、その場合、何かウリを作ることも大切になってきます。そもそも文系学部の場合、4年間学んだと言っても専門家とはまず見なされず、学部と無関係に就職する人が多くいます。

 ところで、カントは「教育」に関して、「人間は教育されなければならない唯一の被造物である」「人間は教育によって初めて人間になることができる」(『教育学〔講義〕』)という卓見・名言を残していますが、「教育」について学ぶということは「人間」の本質に迫ることに他なりません。

 実際、人間は「1年早産で生まれる動物」(ポルトマン)と言われるほど、誕生直後は無力な状態にあり(馬なら生後数時間で自力で歩きます)、親の庇護を絶対的に必要とします(むしろ、それを前提として生まれてくると言っていいでしょう)。さらに狼少女のケース(犬が狼を育てても狼は狼のままだが、狼が人間の女の子を育てたら、人間にはならずに狼になった)から、言語の習得には「臨界期」(2~3歳頃まで)と呼ばれるものがあり、その時期を過ぎると言語の習得そのものが困難になることが指摘されています(したがって、福祉センターなどで発達障害の疑いがある子へのケアは2歳児に集中しますが、これは年齢が高くなっていくと、臨界期の存在ゆえにだんだんとケアの効果が落ちていくためです。ちなみに2歳児までは変化が激し

いので、3歳以上にならないと診断しても病名が付けられません)。こうした「親の庇護」や「言語の習得」は教育の原点にあるといってもいいものであり、カントが言う如く、人間は最初から人間なのではなく、「教育」によって人間に「なっていく」、あるいは「させられていく」存在であるということが理解されます。そして、孟子やルソーのような「性善説」の立場に立てば、「教育には無限の可能性がある」ということになり、荀子やマキアヴェリのような「性悪説」の立場に立てば、「教育にも限界がある」となって、これまた見逃せない「教育の二重性」であると言えましょう。

 結局、「教育」は著しく社会的なテーマ(公教育)であると同時に(例えば、公教育の要は初等教育にあります)、自分が親となればすぐに直面する個別的なテーマ(家庭教育)でもあり(例えば、教育心理学の中の発達心理学の知識は、子を持つ親にとっては必須不可欠です)、何人もその影響を受けつ与えつしながら、人間形成・家庭形成・社会形成をしていくわけです。


【教員免許】

 大学で教職単位を揃え、教育実習に行けば取得できます。卒業後に改めて取ろうとすると、手間がかかるので、取れる時に取っておきましょう。実際に教員になるには各都道府県で教員採用試験を受験しなければなりません。ただし、これは公務員としての場合で、私立学校に関しては私学教員適性試験を受験する場合もありますが、基本的には学校ごとに採用試験を受けることになります。

 具体的には、教員採用試験における教職教養では「教育原理」「教育史」「教育心理」「教育法規」「教育時事」といった科目を受験することになりますが、一般的に教育学を学ぶ場合、「教育哲学」「教育史」「比較教育学」「教育心理学」「教育社会学」「教育行政学」といったジャンルが主要分野となります。


教育哲学

 教育の本質を追及し、人間と教育の関係や人間形成の仕組み、様々な教育観などを哲学的な立場から考察していきます。


教育史

 西洋教育史と日本教育史の2分野からなり、東洋教育史が独立することは稀です(逆にニッチな分野として狙い目かもしれません)。「ユダヤの教育」「イスラムの教育」といったテーマがあってもいいようなものですが、大学で専門的に取り上げている所はありません。ある意味では教育思想も教育制度も教育法規も全て教育史に取り込まれますので、「教育」を歴史的大局的にとらえる上で欠かせない分野と言えるでしょう。


比較教育学

 世界各国における教育目的、教育制度などを比較検討します。アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスといった西洋主要国と韓国・中国といった東洋主要国に関しては、知っておくと得します。


教育心理学

 いわゆる教育心理学のみならず、発達心理学、性格心理学、学習心理学、臨床心理学、社会心理学、産業心理学といった分野を含みます。「教育」は「対人」的「実践」的なものであるので、こういった心理学の知識は欠かせません。


教育社会学

 教育の場における個人及び集団の社会関係の研究を行い、教育調査、教育統計といった分野を含みます。ちなみに生涯教育など、学校外社会で行われる教育について総合的に研究する分野は「社会教育学」と言います。


教育行政学

 教育法規、教育制度、学校運営といった行政面から教育を捉えていきます。「教育は国家百年の大計」と言われ、国策的要素を強く持つので、行政的研究は不可欠です。ちなみに文部科学省は国家公務員Ⅰ種試験で「教育学部出身者」よりも「法学部出身者」を好みますが、これは「教育の専門家」よりも「法律の専門家」を欲するからです(教育学部を出たからと言って教育の専門家とは言えないし、法学部を出たからと言って法律の専門家とはとても言えないのですが)。


【大学教員・研究員】

 専門家としての道を行くならば、大学院で博士課程まで進み、その後、大学に残ることとなります。講師・助手から准教授、教授へ至る道ですが、決して簡単ではありません。


【社会教育主事】


少年教育・青年教育・成人教育・高齢者教育など、社会教育全てについて、各種の援助活動に当たる自治体職員で、活躍の場は広いと言えます。


【司書】

 公立図書館等で図書資料の選択・購入、図書案内や指導などを行います。教員免許同様、単位を揃えれば取得できますが、大学・学部の設定によるので、確認が必要です。また、最近では学校図書館司書教諭のニーズも高まってきました。


【学芸員】

 博物館・美術館等で資料の収集、保管、調査研究などを行います。単位取得によって資格が発生しますが、実務経験からの道もあります。


【公務員】

 国家公務員採用総合職試験では人文系コースの追加があり、地方自治体でも毎年人事・教育・臨床・福祉関係などの職員を募集しています。、地方自治体でも毎年人事・教育・臨床・福祉関係などの職員を募集しています。公立学校の事務職員という道もあります。


【日本語教師】

 民間の日本語学校で教えるケースが最も多く、機関数も学習者数も多いのですが、日本語学校の教師募集では、そのほとんどが「日本語教育能力検定試験合格」「420時間修了」を挙げています。


<スイスの日本人学校で働いた人のケース>

 ツトムさんは地方の小学校で真面目にコツコツと勤めていましたが、研修で東南アジアやヨーロッパの日本人学校を見学しているうちに、「自分もいつか行ってみよう!こういう所で1度は働いてみたい!」と思ったそうです。やがて、教頭先生になった時、試験を受け、念願叶って海外日本人学校の校長先生として赴任することが決まりました。任地校は前から目をつけていたジュネーブの学校です。ツトムさんは用意周到に文部科学省に所属を移し、帰国してからもまた教壇に立てるにように手を打ってから、出国しました。勢いで学校を辞めてスイスに行っても、水が合わなければ全てが水の泡になってしまいますから、これは賢明でした。

 ちなみにスイスの親達は金も出すが、口も出すそうで、なかなかうまくやっていくのは骨が折れるようです。フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロマンシュ語の4つを公用語とするスイスですが、ツトムさんは3年いて、語学がそれほど上達したわけでもなく、ただ「アウトバーンをぶっ飛ばして走れるようになった」と意気揚々と帰国し、再び地方の小学校で校長先生として勤務を再開しました。

 ちょっとうらやましいような、貴重な体験ですね。





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