情報武装講座~基礎知識編

1000冊読んで教養を豊かにしましょう。

<目次>

第1章 基礎科学

(1)人生論

(2)語学

(3)学問論

(4)情報科学

(5)生活科学

(6)健康・スポーツ科学


第2章 人文科学

(1)文学

(2)哲学

(3)宗教学

(4)心理学

(5)教育学

(6)美学・芸術論


第3章 社会科学

(1)社会科学全般

(2)法学

(3)政治学

(4)経済学

(5)社会学

(6)歴史学


第4章 自然科学

(1)科学論・科学史

(2)数学

(3)物理学

(4)化学

(5)生物学

(6)医学




第1章 基礎科学

(1)人生論

①『世界の伝記自叙伝・総解説』(自由国民社)

 自由国民社の総解説シリーズは概略をつかむ上で、きわめて便利なシリーズです。通読しないまでも、座右にそろえておくと役に立つことが多いでしょう。

②『世界の故事・名言・ことわざ 総解説』(自由国民社)

③『ギリシア人ローマ人のことば 愛・希望・運命』(中務哲郎・大西英文、岩波ジュニア新書)

④『ギリシア・ローマ名言集』(柳沼重剛編、岩波文庫)

 ことわざ、故事成語、名言の数々は「人生論のエッセンス」と言ってもよいでしょう。「座右の銘」もその人の人となりを表わすものです。

「『暇になったら勉強しよう』と言うなかれ。君は暇を見つけることなく、ついに一生を終えるかもしれない」(ユダヤの格言)

「幸運を願ってもよい。しかし、幸運に頼ってはならない。」(ユダヤのことわざ)

⑤『人間であること』(時実利彦、岩波新書)

 言葉を話し、笑い、手を使ってものを造る、また群れをなして社会を形成し、時間を考え、学習し、死の恐怖を知ることはいずれも人間にのみ備わった能力ですが、その人間としての機能を司る中枢、すなわち脳の働きと知性、感情、行動との関連をとらえ、人間の全体像を明らかにしています。教育をはじめ、あらゆる領域に対する問題提起の書として読み継がれています。

⑥『お母さん、ぼくが生まれてごめんさない』(向野幾代、扶桑社文庫)

 養護学校で、言葉も十分に話せず、手足も不自由な子供たちに言語教育をしていた向野先生が、脳性マヒの「やっちゃん」と一緒に作った詩です。

⑦『自分の花を精いっぱい咲かせる生き方』(鈴木秀子、致知出版社)

「みっちゃんは中学に入って間もなく白血病を発症し、入院と退院を繰り返しながら、厳しい放射線治療に耐えていました。家族で励まし合って治療を続けていましたが、間もなくみっちゃんの頭髪は薬の副作用ですべて抜け落ちてしまうのです。

 それでもみっちゃんは少し体調がよくなると、「学校に行きたい」と言いました。不憫(ふびん)に思った医師は家族にカツラの購入を勧め、みっちゃんはそれを着用して通学するようになりました。

 ところが、こういうことにすぐに敏感に気づく子供たちがいます。皆の面前で後ろからカツラを引っ張ったり、取り囲んで「カツラ、カツラ」「つるつる頭」と囃(はや)し立てたり、ばい菌がうつると靴を隠したり、悲しいいじめが始まりました。担任の先生が注意すればするほど、いじめはますますエスカレートしていきました。見かねた両親は「辛かったら、行かなくてもいいんだよ」と言うのですが、みっちゃんは挫(くじ)けることなく毎日学校に足を運びました。

 死後の世界がいかに素晴らしいかを聞いていたみっちゃんにとっては、死は少しも怖くありませんでした。反対に亡くなったお祖父さんと再会できるのが楽しみだとさえ思っていました。しかし、何より辛いことがありました。それは、かけがえのない友だちを失うことだったのです。辛いいじめの中でも頑張って学校に通ったのは「友だちを失いたくない」という一心からでした。

 二学期になると、クラスに一人の男の子が転校してきました。その男の子は義足で、歩こうとすると体が不自然に曲がってしまうのです。この子もまた、いじめっ子たちの絶好のターゲットでした。

 ある昼休み、いじめっ子のボスが、その歩き方を真似ながら、ニタニタと笑って男の子に近づいてきました。またいじめられる。誰もがそう思ったはずです。ところが、男の子はいじめっ子の右腕をグッと掴(つか)み、自分の左腕と組んで並んで立ったのです。そして「お弁当は食べないで一時間、一緒に校庭を歩こう」。毅然(きぜん)とした態度でそのように言うと、いじめっ子を校庭に連れ出し、腕を組んで歩き始めました。

 クラスの仲間は何事が起きたのかとしばらくは呆然(ぼうぜん)としていました、やがて一人、二人と外に出て、ゾロゾロと後について歩くようになったのです。男の子は不自由な足を一歩踏み出すごとに「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にしていました。その声が、仲間から仲間へと伝わり、まるで大合唱のようになりました。みっちゃんは黙って教室の窓からこの感動的な様子を見ていました。

 次の日、みっちゃんはいつも学校まで車で送ってくれる両親と校門の前で別れた直後、なぜかすぐに車に駆け寄ってきました。そして着けていたカツラを車内に投げ入れると、そのまま学校に向かったのです。

 教室に入ると、皆の視線が一斉にみっちゃんに集まりました。しかし、ありのままの自分をさらす堂々とした姿勢に圧倒されたのでしょうか、いじめっ子たちは後ずさりするばかりで、囃し立てる者は誰もいませんでした。

 「ありがとう。あなたの勇気のおかげで、自分を隠したり、カムフラージュして生きることの惨めさが分かったよ」。みっちゃんは晴れやかな笑顔で何度も義足の男の子に御礼を言いました。

 しばらくすると、クラスに変化が見られ始めました、みっちゃんと足の不自由な男の子を中心として、静かで穏やかな人間関係が築かれていったのです。

 みっちゃんに死が訪れたのはその年のクリスマス前でした。息を引き取る直前、みっちゃんは静かに話しました。「私は二学期になってから、とても幸せだった。あんなにたくさんの友だちに恵まれ、あんなに楽しい時間を過ごせたことは本当の宝でした」と。」

⑧『あしあと<Footprints>―多くの人を感動させた詩の背後にある物語』(マーガレット・F.パワーズ著、松代恵美訳、太平洋放送協会<BPA>)

One night I dreamed a dream.

I was walking along the beach with my Lord.

Across the dark sky flashed scenes from my life.

For each scene, I noticed two sets of footprints in the sand,

one belonging to me

and one to my Lord.

When the last scene of my life shot before me

I looked back at the footprints in the sand.

There was only one set of footprints.

I realized that this was at the lowest and saddest times in my life.

This always bothered me and I questioned the Lord about my dilemma.

"Lord, you told me when I decided to follow You,

You would walk and talk with me all the way.

But I'm aware that during the most troublesome times of my life there is only one set of footprints.

I just don't understand why, when I needed You most,

You leave me."

He whispered, "My precious child,

I love you and will never leave you

never, ever, during your trials and testings.

When you saw only one set of footprints

it was then that I carried you."

ある夜、わたしは夢を見た。

わたしは、主とともに、なぎさを歩いていた。

暗い夜空に、これまでのわたしの人生が映し出された。

どの光景にも、砂の上にふたりのあしあとが残されていた。

ひとつはわたしのあしあと、もう一つは主のあしあとであった。

これまでの人生の最後の光景が映し出されたとき、

わたしは、砂の上のあしあとに目を留めた。

そこには一つのあしあとしかなかった。

わたしの人生でいちばんつらく、悲しい時だった。

このことがいつもわたしの心を乱していたので、

わたしはその悩みについて主にお尋ねした。

「主よ。わたしがあなたに従うと決心したとき、

 あなたは、すべての道において、わたしとともに歩み、

 わたしと語り合ってくださると約束されました。

 それなのに、わたしの人生のいちばんつらい時、

 ひとりのあしあとしかなかったのです。

 いちばんあなたを必要としたときに、

 あなたが、なぜ、わたしを捨てられたのか、

 わたしにはわかりません。」

主は、ささやかれた。

「わたしの大切な子よ。

 わたしは、あなたを愛している。あなたを決して捨てたりはしない。

 ましてや、苦しみや試みの時に。

 あしあとがひとつだったとき、

 わたしはあなたを背負って歩いていた。」

⑨『マザー・テレサ あふれる愛』(沖守弘、講談社青い鳥文庫)

 インドの貧しい人々のために生涯を捧げたマザー・テレサは、数時間後には亡くなってしまうような人のために「死を待つ人の家」を開設しています。また、ノーベル平和賞の授賞式で記者から「世界平和のために私達ができることは?」と聞かれた際には、「今すぐ家に帰って、家族を大切にして下さい」と答えています。

「人間にとってもっとも悲しむべきことは、病気でも貧乏でもない。自分はこの世に不要な人間なのだと思いこむことだ。そしてまた、現世の最大の悪は、そういう人にたいする愛が足りないことだ。マザー・テレサはそう確信している。

 だからマザーは、世間に見捨てられ、身も心もズタズタになって路上に倒れ伏し、死の寸前にはこびこまれてきた、ボロ切れのようなひとりひとりのからだを丹念に洗い清め、髪を短く刈ってやり、粗末ながらも清潔な衣服に着かえさせて、ベッドにそっと横たえてやる。しっかりと手をにぎり、話すこともできない瀕死の人には目で語りかけながら、ゆっくりと温かいスープを口にはこんでやる。

「あなたも、私たちとおなじように、望まれてこの世に生まれてきた大切な人なのですよ」

 マザーは、そう話しかけながら、もう一度力をこめて手をにぎる。

 だれにもみむきもされなかったかもしれない。路上で生まれ路上で死ぬ身かもしれない。でもせめて死の瞬間だけでも人間らしくさせてあげたい……いままさに息をひきとろうとしている〝見捨てられた人びと〟をみとりながら、マザー・テレサの心はその想いでいっぱいなのだ。」

⑩『達人観』(谷沢永一、五月書房)

 人格形成の根本にあるのが家庭であり、ここに親子関係、兄弟姉妹関係といった基本的人間関係があります。ここが正常で愛情に満ちたものであれば問題ありませんが、欠落や歪み、痛みがあった場合、社会的関係の中などで修復しなければ人格形成に支障が生じることは言うまでもありません。

⑪『生きるために大切なこと』(A・アドラー著、桜田直美訳、方丈社)

⑫『人生を変える勇気  踏み出せない時のアドラー心理学』(岸見一郎、中公新書ラクレ) 

 アドラーはオーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家で、フロイトやユングと共に現代のパーソナリティ理論や心理療法を確立し、個人心理学を創始しました。近年、その功績が注目され、個人を中心に据えた実践的な心理学は多くの人々の共感を呼び、アドラー・リバイバルとも言うべき流行を生んでいます。『生きるために大切なこと』は「今、ここにある自分」から出発し、分かりやすい言葉で語りかける、アドラー自身による、アドラー心理学入門です。

⑬『夜と霧』(ビクトル・エミール・フランクル著、池田香代子訳、みすず書房)

 第二次世界大戦中のナチスによるアウシュビッツ強制収容所での体験を、精神科医の目で記しています。フランクルはウィーン大学でフロイトとアドラーから精神分析を学んでおり、人間が耐えられない極限状況に置かれた場合、精神はどのような変化をとげてゆくかを最後まで見届けて、その記録を残そうとひそかに準備したのであり、この「死の記録」を実存哲学者ヤスパースは「今世紀の最も重要な書物の1つ」に挙げています。アメリカ図書館協会も、本書は「歴史上これまで最も多く読まれてきた10冊の書物のうちの1つ」と発表しました。

⑭『武士道』(新渡戸稲造著、岬龍一郎訳、PHP文庫)

⑮『逆境を越えてゆく者へ 爪先立ちで明日を考える』(新渡戸稲造、実業之日本社)

 新渡戸稲造はクラーク博士の薫陶を受けた札幌農学校2期生で、内村鑑三の同期です。37歳の時、『武士道』で国際的に名を馳せ、その後も一高校長として南原繁、矢内原忠雄、河合栄治郎ら多くの俊英を輩出しており、国際連盟事務次長も務めて、「我、太平洋の橋とならん」という言葉でも有名です。『武士道』は内村鑑三の『代表的日本人』、岡倉天心の『茶の本』と並んで、明治期に日本人が英語で書いた著書として重要であるとされます。

⑯『悩む力』(姜尚中、集英社新書)

⑰『語りきれないこと 危機と傷みの哲学』(鷲田清一、角川oneテーマ21新書)

⑱『極上の孤独』(下重暁子、幻冬舎新書)

 姜尚中は在日韓国人二世の政治学者で、格差は広がり、自殺者も増加の一途を辿る中、自己肯定もできず、楽観的にもなれず、スピリチュアルな世界にも逃げ込めない苦しみを百年前に直視した夏目漱石とマックス・ウェーバーをヒントに、最後まで「悩み」を手放すことなく、真の強さを掴み取る生き方を提唱しています。鷲田清一は阪神大震災を機に当事者の声を聴く臨床哲学を提唱した哲学者で、東日本大震災から1年を経て、心を復興し、命を支える「人生の語りなおし」の重要性を説いています。下重暁子は『家族という病』がベストセラーになった作家・評論家で、現代は「孤独=悪」というイメージが強いのに対し、そもそも孤独でいるのは周りに自分を合わせるくらいなら一人でいる方が何倍も愉しく充実しているからで、成熟した人間だけが到達できる境地でもあるとしています。

⑲『絆の構造 依存と自立の心理学』(高橋惠子、講談社現代新書)

⑳『コミュニケーション力』(齋藤孝、岩波新書)

㉑『つながり進化論 ネット世代はなぜリア充を求めるのか』(小川克彦、中公新書)

 『絆の構造 依存と自立の心理学』は、人生90年時代を迎えた日本の「人間関係」の現在を、「絆」というキーワードを軸に生涯発達心理学から読み解いたものです。『コミュニケーション力』は、今、若い人達のコミュニケーション能力が低下していることをふまえ、豊かな会話、クリエイティブな議論はどのようにして成り立つのかを明らかにしています。『つながり進化論 ネット世代はなぜリア充を求めるのか』は、物心つく頃からネットが日常にある「ネット世代」の心情や行動は、前の世代と比べて大きく変わったが、時に賢く、時に理解不能なネット世代のつながりを求める心情とは、どのようなものかを通信技術の進歩と心情の変化の両面から解読したものです。

㉒『私の嫌いな10の言葉』(中島義道、新潮文庫)

㉓『エゴイスト入門』(中島義道、新潮文庫)

 中島義道は、成功者に「嫉妬の炎」を燃やし続ける哲学者です。「哲学はまったく役に立たず、自他の幸福を望むこととは無関係であり、反社会的で、危険で、不健全なもの」であるとうそぶいています。

㉔『ひとり旅は楽し』(池内紀、中公新書)

㉕『ぼんやりの時間』(辰濃和男、岩波新書)

㉖『なつかしい時間』(長田弘、岩波新書)

 人生にはふと立ち止まり、見つめ直し、日常から離れ、じっくり考える時間も必要です。

㉗『掃除道 会社が変わる・学校が変わる・社会が変わる』(鍵山秀三郎、PHP文庫)

㉘『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』(石川拓治、幻冬舎文庫)

㉙『大局観 自分と闘って負けない心』(羽生善治、角川新書)

 どの道であれ、その道を極めた人物の体験に基づく言葉は諸芸・万事全般に通ずるものがあります。

㉚『ここまでわかった!女の脳・男の脳 性差をめぐる最新報告』(新井康允、講談社BLUE BACKS)

㉛『運がいいと言われる人の脳科学』(黒川伊保子、新潮文庫)

㉜『成熟脳 脳の本番は56歳から始まる』(黒川伊保子、新潮文庫)

 大脳生理学、認知心理学などの関連領域を統合した脳科学の進歩は著しく、激変した分野と言ってもよいでしょう。人間論、人生論にもその成果が反映されます。

㉝『日本の知恵 ヨーロッパの知恵』(松原久子、知的生き方文庫)

㉞『住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち』(川口マーン惠美、講談社+α文庫)

㉟『ニューヨークで暮らすということ』(堀川哲、PHP新書)

 欧米での生活のヒントを与えてくれます。

㊱『選ぶ力』(五木寛之、文春新書)

㊲『人生の整理術 老いをスッキリ楽しむ秘訣』(保坂隆、朝日新書)

㊳『人間にとって成熟とは何か』(曽野綾子、幻冬舎新書)

●運命~後天的要素。人生行路及び家庭環境が原因的要素となり、可変的です。

●宿命~先天的要素。遺伝要因や家庭環境が原因的要素となり、不変的です。

●天命~天が与えた使命(ミッション)です。「自分はこのために生まれて来た」という自己の存在の本質に関わる部分です。

●看命~自己の運命・宿命を見抜くことです。「運命方程式」や「ライフサイクル理論」が必要となります。

●知命~自己の天命を知ることです。孔子は50歳にして天命を知ったとされるので、50歳を知命とも呼びます。

●立命~運命・宿命を見抜いて、悪しきを抑え、良きを伸ばして、自己実現を図ることです。さらには天命を知って、その成就を図ることです。

㊴『こころの作法 生への構え、死への構え』(山折哲雄、中公新書)

㊵『死に方・辞め方・別れ方』(邱永漢、PHP文庫)

㊶『ひとりで死んでも孤独じゃない 「自立死」先進国アメリカ』(矢部武、新潮新書)

㊷『死の壁』(養老猛司、新潮新書)

 死と向き合うことは、「よく生きる」ことにつながります。

㊸『きけ わだつみのこえ』(日本戦没学生記念会編、岩波文庫)

 戦没学生の遺稿集です。死を目前にして研ぎ澄まされた「魂の叫び」に、ハッとさせられること、しばしばです。彼らは生きたかった。そして、我々は今生きているのです。

㊹『死ぬ瞬間 死とその過程について』(原著1969年、エリザベス・キューブラー・ロス著、鈴木晶訳、中公文庫)

㊺『死後の真実』(原著1991年、エリザベス・キューブラー・ロス著、伊藤ちぐさ訳、日本教文社)

㊻『「死ぬ瞬間」と臨死体験』(原著1995年、エリザベス・キューブラー・ロス著、鈴木晶訳、読売新聞社)

 1975年に医師で心理学者のレイモンド・ムーディがエリザベス・キューブラー・ロスと共に相次いで著書を出版したことがきっかけで、その後の臨死体験の科学的・体系的な研究が活発になりました。欧米での研究では、臨死体験には共通して現われやすい要素があることが指摘されています。

●体外離脱体験~自分の身体の外側に抜け出たような感覚。

●トンネル体験~暗いトンネルを光に向かって通り抜ける体験。

●光体験~光に満ちた、お花畑のような美しい世界。

●人生回顧体験~人生を走馬灯のように振り返る。

●異世界体験~境界線(三途の川など)を見る。生還者はそこを超えない。

●守護霊体験~死者の霊や神との出会い。帰れと言われることが多い。

 これらは特定の宗教・信念・文化・性別・年齢などによらず、普遍的な実在を示すものであり、これを一般的に「霊界」と呼ぶならば、そこに行く存在は「霊魂」「霊人」、こうした霊的世界に対する感性は「霊性」ということになるでしょう。

 近代医学・近代心理学は「宗教と科学の分離」のあおりを受けて、どこまでも「唯物論的説明」にこだわろうとしてきましたが、現代医学においては臨死体験の研究から「死生学」が誕生し、現代心理学では宗教体験を説明する「トランスパーソナル心理学」が誕生しました。「唯物論」と「唯心論」を統合するような「二重存在論」に立つ「統合医学」「統合心理学」が必要とされる時代に入ったと言ってもよいでしょう。

㊼『航路』上下(コニー・ウィリス著、大森望訳、ソニー・マガジンズ)

 臨死体験(NDE)をした人の多くは、トンネルや光、聖なる存在など共通したビジョンを見たと言います。本書は生と死の間にある不可解な領域を通し、人間存在そのものを考えさせる医学ミステリーです。

㊽『スウェーデンボルグの思想 科学から神秘世界へ』(高橋和夫、講談社現代新書)

 ススウェーデンボルグ(1688 〜1772年)はウェーデンの科学者、神学者、思想家で、前半生は鉱山技師、科学者として化学、地質学、天文学、解剖学など様々な分野で先駆的な業績を残しており、50代からは幻視体験をするようになって、霊との会話や霊界探訪の記録を残しています。代表的著作は『霊魂の王国』『天界の秘儀』『天界と地獄』『夢日記』などで、同時代人のカントをはじめ後代に与えた影響は大きく、ヘレン・ケラーなどもスウェーデンボルグの教説によって霊的世界の実在を確信し、三重苦を超越する希望を見出したとされます。

●聖人~世界のために生きる人です。「天運」の領域と言ってもよいでしょう。内村鑑三が信念として掲げていた「二つのJ」で、「I for Japan; Japan for the World; The World for Christ; And All for God.」(私は日本のために、日本は世界のために、世界はキリストのために、全ては神のために)と述べられているように、これより上は「神のために生きる人=神の子」となります。

●義人~国家のために生きる人です。「国運」の領域と言ってもよいでしょう。特に国家・君主への忠義を「大義」と呼びます。

●偉人~社会のために生きる人です。偉大な発明家や科学者、冒険家、政治家など、特定分野において大きな貢献を果たし、世のため人のために役に立った人たちです。「天の時、地の利、人の和」というように「時運」を得た人たちでもあります。

●善人~近隣のために生きる人です。「好運」の持ち主であるとは言えるでしょう。

●凡人~いてもいなくても影響がない人です。可もなく不可もない人のことです。

●悪人~自分のために生きる人です。「憎まれっ子世にはばかる」という言葉があるように、悪運が強い場合もあります。



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(2)語学

【概説】

①『外国語上達法』(千野栄一、岩波新書)

②『外国語をどう学んだか』(現代新書編集部編、講談社現代新書)

③『古代への情熱――シュリーマン自伝――』(シュリーマン著、関楠生訳、新潮文庫)

④『20ヵ国語ペラペラ 私の外国語学習法』(種田輝豊、ちくま文庫)

⑤『40ヵ国語習得法』(新名美次、講談社BLUE BACKS)

 これらで語学習得のコツ、あるいは主要言語の特徴をつかむことができます。

「学習の最初の段階では、正しい発音を学ぶか、よくない発音を学ぶかには努力にそれほどの差はない。しかし、後になってよくない発音を矯正するのは、困難というより不可能に近い。語学の学習では一つ一つ間違いを正していくというのがその基本的態度であるが、発音だけは例外である。」(千野栄一『外国語上達法』)

⑥『ベルリッツの世界言葉百科』(チャールズ・ベルリッツ著、中村保男訳、新潮選書)

⑦『ヨーロッパの言語』(泉井久之介、岩波新書)

 ギリシア語は、脱宗教化できないエジプト象形文字(古代宗教文字)を音節文字化したフェニキア文字を、さらに音素文字化しました。これは当時の古代宗教国家のエジプト語よりも、フェニキア語やギリシア語の方が水準が高かったためです。当時のギリシア語は無文字とはいえ、フェニキア語に比べれば比較にならないほど高度な政治的・思想的語彙と表現を持ち、かつ話し言葉の語順や発音の中に文体を盛る、高度な声言語として発達を遂げていたと考えられます。

⑧『言語学の誕生―比較言語学小史―』(風間喜代三、岩波新書)

⑨『言語学を学ぶ人のために』(西田龍雄編、世界思想社)

⑩『比較言語学を学ぶ人のために』(堀井令以知編、世界思想社)

⑪『印欧語の故郷を探る』(風間喜代三、岩波新書)

 英語、ドイツ語、ラテン語と多少なりとも関心が出てくると、必ずぶつかるのが「印欧祖語」の存在です。例えば、英語に「格」は主格・所有格・目的格の3つしかありませんが、ドイツ語には4つあり、ラテン語には6つ、サンスクリット語には8つありますから、西進の途上で次第に簡略化されていったことが分かります。逆に「原型」は何だったのか、という疑問が当然起こるわけで、これを「印欧祖語」と呼び、古来、言語学者の格好のテーマになってきました。

 比較言語学によれば、インド・ヨーロッパ語族の大本たる印欧祖語の場は大体、南東ヨーロッパ、黒海北方のドニエプル川流域からカスピ海北方のヴォルガ川・ウラル川流域当たりではないかと推察されています。ここから東に行ってサンスクリット語、南東へ向かってイラン語、西進してギリシア語・ラテン語、北東へ行ってゲルマン祖語が分岐・形成されたものと思われます。

⑫『ことばと国家』(田中克彦、岩波新書)

 近代国家は近代国語・近代国民を作るということがよく分かります。「国語」とは「国家語」なのです。

⑬『異文化コミュニケーションを学ぶ人のために』(細谷昌志編、世界思想社)

⑭『翻訳を学ぶ人のために』(安西徹雄・井上健・小林章夫編、世界思想社)



【英語】

➀『日本人はなぜ英語ができないか』(鈴木孝夫、岩波新書)

②『英語オンチが国を亡ぼす』(寺澤芳男、新潮OH文庫)

③『英語達人列伝 あっぱれ、日本人の英語』(斎藤兆史、中公新書)

④『英語達人塾 極めるための独習法指南』(斎藤兆史、中公新書)

⑤『英語の学び方 あなたの英語力をより高めるために』(渡部昇一・松本道弘、知的生き方文庫)

 英語を学ばなければならないのは、歴史の必然、時代の要請、ビジネスの基本であるかもしれませんが、その際に「アカデミックなアプローチ」と「コミュニケーションからのアプローチ」と2つがあることに注意しなければなりません。この両者を兼ね備えるのが理想です。そして、基本的に実体験に基づいた一流と呼ばれる人達の証言、あるいは「できない人」が苦心惨憺して「できる人」になっていったプロセスほど、役に立つものはありません。

⑥『私はこうして英語を学んだ 増補改訂版』(松本道弘、中村堂)

⑦『英語の達人になるとっておき勉強術 これが驚異の黒帯英語だ』(松本道弘、実業之日本社)

⑧『英検1級突破道場 英検1級から黒帯への道』(松本道弘、日本英語教育協会)

⑨『ぼくの英語格闘史 ナニワに棲む想ひ出』(松本道弘、アルク新書)

⑩『英語は格闘技だ―武蔵が英語に挑戦すれば』(松本道弘、ちくま新書)

⑪『英語アレルギーの治し方』(松本道弘、ワニのNEW新書)

⑫『血液型英語上達法』(松本道弘、実日新書)

 著者は「英語界の御意見番」的存在ですが、画期的な血液型別英語学習法を体系化しています。多分、自分の血液型の所を読んで、うなずく人が多いことでしょう。

●A型~文法はマスターし、筆記試験にも強いのに、英会話をエンジョイできない人は真面目なA型に多い。A型は計画するのが大好きな完璧主義者で、精読タイプ。O型なら計画通りにいかなくても平気だし、B型なら計画そのものが必要ない。O型は短期決戦型で、速読派になる。O型は英語を武器にし、「英語バカ」も生まれるが、A型は英語そのものが目的化し、「道」を求め、「英語の鬼」が生まれる。ちなみに著名な英語学者の80%以上がA型である。これに対して、O型はビジネス英語の達人になりやすい。A型は「英語の勉強はコツコツせねばならない」という信念を捨て、O型的「度胸」やB型的「デタラメ」を学び、完璧主義から脱却することがカギとなる。

●B型~B型の英語にはリズムがあるとされ、英語をやるとすぐ目立つ。ちなみにA型はハーモニー、O型はメロディーにたとえられる。B型は行動力があってジャーナリスティックで、A型なら演繹的発想をするに対して帰納的発想をし、移り気であきっぽいが、着眼点がユニークで話題が豊富なので、話し相手として一番楽しい。複線型の水平思考や柔軟思考、逆転思考をするB型は、時事英語にも強く、編集に向く。

●O型~O型の論理はストレートで、目的・方向性を持つと強く、一点集中型であり、何か国語もしゃべるというタイプはあまりいない。ハッタリも得意で、パブリック・スピーキングに強い。A型はインプット人間であるのに対し、O型はアウトプット人間。O型のカギは目的・方向性を持つことであり、問題意識を持ったO型は恐ろしい存在となる。

●AB型~AB型には天才的な英語の使い手も現われ、何か国語も話せたり、音感的に素晴らしかったりする。AB型はクールな合理主義者であり、B型と共に海外生活に向くとされる。AB型の英語のリズムはO型のそれよりはるかにいいが、O型の議論に飛躍がないのに対し、AB型の議論には飛躍がある。

⑬『新装版 英語のしくみがわかる基本動詞24』(小西友七、研友社)

⑭『新giveとget 英語発想のすべてがここにある!』(松本道弘、朝日出版社)

⑮『バーナード先生のネイティブ発想・英熟語』(クリストファー・バーナード、プレイス・河出書房新社)

⑯『似ている英単語使い分けBOOK』(清水建二著、William Currie監修、ベレ出版)

⑰『英語の語源物語』(今里智晃、丸善ライブラリー)

⑱『英語の語源』(渡部昇一、講談社現代新書)

⑲『ことわざの英語』(奥津文夫、講談社現代新書)

⑳『英語の名句・名言』(ピーター・ミルワード著、別宮貞徳訳、講談社現代新書)

 英単語を理解・暗記するのに有効な方法が、比較的イメージ理解と歴史的語源理解です。英語は元々100%近くゲルマン語から成り立つ語彙を持っていましたが、ノルマン・コンクェストにより、1066年から1362年までの300年間、英語は公用語ではなくなり、公用の話し言葉はフランス語で、公用の文章語はラテン語でした。英語における大和言葉はゲルマン語であり、漢語はラテン語であると言えます。

㉑『英文法を知ってますか』(渡部昇一、文春新書)

㉒『英文法を撫でる』(渡部昇一、PHP新書)

㉓『秘術としての英文法』(渡部昇一、講談社学術文庫)

 英語学史・英文法史の知識があると、英語理解は格段に深まります。これらは入門書としても最適です。

㉔『英文法の核心』(山﨑紀美子、ちくま新書)

㉕『英語は動詞で生きている!』(晴山陽一、集英社新書)

㉖『英語構文マスター教本』(石井隆之、ベレ出版)

㉗『しなやかな英文法 実践的日・米の教科書比較』(田村泰、三友社出版)

㉘『英語教師のための英文法』(吉田正治、研究社)

㉙『英文法汎論 改訂新版』(細江逸記、篠崎書林)

㉚『徹底例解ロイヤル英文法』(綿貫陽・宮川幸久・須貝猛敏・高松尚弘著、マーク・ピーターセン英文校閲、旺文社)

 日本の英語教育においては、5文型理論が100年以上も重視されてきていますが、これはアメリカなどではほとんど見られず、日本特有と言ってもよい状況です。英文法を再考することによって、より理解が深まると言えるでしょう。

㉛『講談 英語の歴史』(渡部昇一、PHP新書)

㉜『英語の歴史』(中尾俊夫、講談社現代新書)

㉝『英語の歴史 過去から未来への物語』(寺澤盾、中公新書)

㉞『英語発達小史』(H・ブラッドベリ著、寺澤芳雄訳、岩波文庫)

㉟『英語にも主語はなかった 日本語文法から言語千年史へ』(金谷武洋、講談社選書メチエ)

㊱『英語学体系13 英語学史』(渡部昇一、大修館)

 日本語の理解を深めるために古文を学ぶように、英語の理解を深めるためには古英語・中英語から始まる英語史や英文法史・英語学史の知識が必要です。

㊲『アングロサクソンと日本人』(渡部昇一、新潮選書)

㊳『日本語が見えると英語も見える 新英語教育論』(荒木博之、中公新書)

㊴『日本語の発想・英語の発想』(山田雅重、丸善ライブラリー)

㊵『日本語のうまい人は英語もうまい』(角行之、講談社+α新書)

 英語と日本語を比較すると、双方の理解が格段に深まります。例えば、英語ジャーナリズムの文章が理想的とされるように、英語の議論では冒頭に主張が凝縮されるので、反対意見もすぐに出てきて騒々しくなりますが、日本語の議論では最後まで聞かないと主張が分からないので、静かに進行します。

 また、西欧語では会話の時には省略がしょっ中起きますが、ひとたび文章を書くとなるときちっと書きます。すなわち、書いたものだけで1つ1つの世界がはっきり分かるように表現し、言語で1つ1つ世界を作っていくのです。ヨーロッパ人の発想では人間関係は契約的で、人と人とは常に利害相反する立場に立っていると考え、人と人との関係を理性的言語による契約によって確立しなければならないと考えるのです。「ロゴス」の伝統の如く、理性的なものでなければ言語的であることはできないと考えられ、理性は物事を客観的にとらえ、細かく分析的に表わしていくものとされ、ここで「タテの契約」が「ヨコの契約」に転じていくわけです。

㊶『日本人の英語』(マーク・ピーターセン、岩波新書)

㊷『続日本人の英語』(マーク・ピーターセン、岩波新書)

㊸『心にとどく英語』(マーク・ピーターセン、岩波新書)

㊹『日本人が誤解する英語』(マーク・ピーターセン、光文社知恵の森文庫)

 必読文献です。ネイティブの持つ英語感覚を知る上で貴重な本です。日本人の陥りがちな間違い、言語感覚の違いについても教えてくれます。

㊺『「英文法」を考える―「文法」と「コミュニケーション」の間』(池上嘉彦、ちくま学芸文庫)

㊻『痛快!コミュニケーション英語学』(マーク・ピーターセン、集英社インターナショナル)

 文法をきっちりふまえたコミュニケーション英語の理解です。

㊼『読んで旅する世界の歴史と文化 イギリス』(新潮社)

㊽『読んで旅する世界の歴史と文化 アメリカ』(新潮社)

㊾『アメリカ文化を学ぶ人のために』(川上忠雄編、世界思想社)

 言語の背景には歴史と文化が息づいています。



【ドイツ語】

➀『はじめてのドイツ語』(福本義憲、講談社現代新書)

②『ドイツ語のすすめ』(藤田五郎、講談社現代新書)

③『ドイツ語はじめの一歩』(上田浩二、ちくま新書)

④『標準ドイツ語 新訂版』(常木実、郁文堂)

⑤『英語と一緒に学ぶドイツ語』(宍戸里香、ペレ出版)

 入門書として役立ちます。

⑥『ドイツ語とドイツ人気質』(小塩節、講談社学術文庫)

⑦『ファウスト ヨーロッパ的人間の原型』(小塩節、講談社学術文庫)

⑧『ドイツの都市と生活文化』(小塩節、講談社学術文庫)

⑨『ドイツを探る ロマンとアウトバーンの国』(小塩節、光文社文庫)

⑩『ドイツと日本 国際文化交流論』(小塩節、講談社学術文庫)

 ラテン語を漢文とすれば、ドイツ語は韓国語に当たり、古英語は古文に当たると言えるでしょう。ドイツ語はある意味で英語の母語であり、韓国語も日本語と文法が一緒なので、元々母語であったと考えられます。したがって、いわゆる国語の授業では古文・漢文が必修であり、それらの理解を通じて日本語の奥行きを広げようとしているわけですが、同じ論理で英語の理解を深めるためにも、やはり古英語の知識、ラテン語の知識、ひいてはドイツ語の知識が必要でしょう。したがって、ドイツ語(話す人口は大体1億人前後)についても、興味・関心を深めておきたいところです。小塩節は旧西ドイツの日本大使館公使やケルンの日本文化会館館長を長く務めた人物で、ドイツ語教育の第一人者です。

⑪『日本人とドイツ人 猫背の文化と胸を張る文化』(篠田雄次郎、光文社)

⑫『ドイツ留学記』上下(渡部昇一、講談社現代新書)

 篠田雄次郎は上智大学からケルン大学へ、渡部昇一は上智大学からミュンヘン大学・オックスフォード大学へ留学して学び、帰国後、上智大学で教壇に立った人物です。ドイツに息づく「教養」の伝統、引いてはヨーロッパの伝統を知る上で、非常に役立ちます。

⑬『ドイツ流、日本流 30年暮らして見えてきたもの』(川口マーン惠美、草思社文庫)

⑭『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』(川口マーン惠美、講談社+α文庫)

 ドイツ人と結婚してドイツに暮らし、3人の娘を育てた著者による日独比較論です。

⑮『読んで旅する世界の歴史と文化 ドイツ』(新潮社)

 言語の背景には歴史と文化が息づいています。



【フランス語】

➀『はじめてのフランス語』(篠田勝英、、講談社現代新書)

②『フランス語のすすめ』(小林正、講談社現代新書)

③『フランス語はどんな言葉か』(田辺保、講談社学術文庫)

④『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』(藤田健、かんき出版)

⑤『日本人とフランス人 「心は左、財布は右」の論理』(舛添要一、光文社)

⑥『フランス語史を学ぶ人のために』(ピーター・リカード 著、伊藤忠夫・高橋秀雄訳、世界思想社)

⑦『フランス学を学ぶ人のために』(田辺保、世界思想社)

 国連国連の公用語は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語の6つですが、事務局の常用語は英語とフランス語で、業務を遂行できるレベルの英語またはフランス語力が求められます。

⑧『読んで旅する世界の歴史と文化 フランス』(新潮社)

 言語の背景には歴史と文化が息づいています。



【スペイン語】

➀『はじめてのスペイン語』(東谷穎人、講談社現代新書)

②『スペイン語のすすめ』(荒井正道、講談社現代新書)

③『スペイン語の入門』(瓜谷良平・瓜谷望、白水社)

④『スペイン学を学ぶ人のために』(牛島信明・川成洋・坂東省次編、世界思想社)

⑤『読んで旅する世界の歴史と文化 スペイン』(新潮社)

 スペイン語を母語とする人口は約5億人で、中国語に次いで世界で2番目に多い人数です。第二言語として話す人も含めて、世界で最も話されている言語となれば、英語、中国語、ヒンディー語、スペイン語となります。



【イタリア語】

➀『はじめてのイタリア語』(郡史郎、講談社現代新書)

②『イタリア語の入門』(坂本鉄男、白水社)

③『読んで旅する世界の歴史と文化 イタリア』(新潮社)

 ドイツ語がゲルマン語であるのに対し、フランス語・イタリア語・スペイン語はいずれもラテン語から生まれたロマンス語とされますが、「ドイツ語は詩を書く言葉、フランス語は愛を語る言葉、イタリア語は歌を歌う言葉、スペイン語は神に祈る言葉」とも言われます。



【ロシア語】

➀『はじめてのロシア語』(中沢英彦、講談社現代新書)

②『ロシア語のすすめ』(東郷正延、講談社現代新書)

③『ロシア語の入門』(小沢政雄、白水社)

④『ロシア学を学ぶ人のために』(藤本和貴夫編、世界思想社)

⑤『読んで旅する世界の歴史と文化 ロシア』(新潮社)

 アメリカ合衆国国務省の外交官育成機関である外交官養成局が、英語を母語とする者が習得するのにかかる期間を元に各言語の習得難易度をまとめていますが、日本語はアラビア語・広東語・北京語・韓国語などと共に、英語のネイティブスピーカーにとって極めて困難な言語であるカテゴリーⅣに位置付けられ、2200時間の授業を要するとされています。これに対してロシア語は、英語と大きな言語的ないし文化的違いを有する言語であるカテゴリーⅢに位置付けられ、1100時間の授業を要するとしています。ちなみにドイツ語は英語に似ている言語であるカテゴリーⅡに位置付けられ、750時間の授業を要するとしています。



【ラテン語】

➀『はじめてのラテン語』(大西英文、講談社現代新書)

②『初級ラテン語入門』(有田潤、白水社)

③『ラテン語の歴史』(ジャクリーヌ・ダンジェル著、遠山一郎・高田大介訳、文庫クセジュ)

④『俗ラテン語』(ジョゼフ・ヘルマン著、新村猛・国原吉之助訳、文庫クセジュ)

⑤『実用ラテン語入門』(戸部実之、泰流社)

 ラテン語は西洋文明の源流ともいわれ、歴史、哲学、宗教、文化、芸術、経済など多くのことを学べる言語です。また、中世以後、ヨーロッパで学問言語として広く使われていたため、生物の分類において学名をラテン語で記すという原則が生まれました。



【中国語】

➀『中国語はおもしろい』(新井一二三、講談社現代新書)

②『はじめての中国語』(相原茂、講談社現代新書)

③『中国語のすすめ』(鐘ヶ江信光、講談社現代新書)

 言語を形態的類型論で屈折語、膠着語、孤立語に分類すると、名詞や動詞の語そのものの形が変化する屈折語には英独仏伊西語などのヨーロッパ諸語が、実質的な意味を持つ語(自立語)に文法上の意味を表す助詞や助動詞(機能語)がつく膠着語には日本語・韓国語・モンゴル語・トルコ語などが、文法的な働きをする語をあまり持たず、主語や目的語を語順で区別する孤立語には中国語・チベット語・タイ語などが属します。孤立語は中国語のみで、その周りを膠着語圏が取り囲み、他の地方は屈折語という地理的状況です。したがって、英語を学んでいる日本人は中国語を押さえれば三大言語圏をカバーすることになるわけです。また、中国は多民族多言語国家なので、多数の言語の総称としての「中国語」は無く、これは「インド語」が無いのと同じです。東アジア漢字文化圏の漢語というのが正確な表現でしょう。

「私は十九歳にもなってから中国語を始めたのに、中国の人から「なんて上手なのか」と大げさにほめてもらうことがよくあり、有頂天になりつつ、いったいなぜかと冷静に考えてみたところ、どうやら二つの理由があるようなのだ。

 第一に、中国語が包容力のある言葉だということ。

 そもそもの成り立ちからして、各地方出身者の意思疎通という目的をはっきり持っているので、中国人の耳は、減点方式ではなく、加点方式で相手の言葉を聞く。つまり、「あっ、間違った」「また訛ってる」と、欠点をあげつらうような、意地悪な聞き方をしない。反対に、「たぶんこうだ」「きっとそういう意味だろう」と、聞き手が積極的にコミュニケーションに関与してくるのだ。」(新井一二三『中国語はおもしろい』)

④『読んで旅する世界の歴史と文化 中国』(新潮社)

⑤『中国人と日本人』(邱永漢、中公文庫)

「一口でいえば、日本人は職人的気質の国民であり、中国人は商人的性格の国民である。職人は自分の仕事とか、仕事の出来栄えに対しては一家言を持っているが、それ以外のことについてはほとんど意見を吐かない。国際会議に出ている日本人の演説をきいて、日本人には主体性がないとか、自己主張がないという批判をよくきくが、職人に自己主張を期待するのはないものねだりであろう。職人は政治や外交についてはもともと関心がないし、意見もない。その代わり自分の守備範囲内の物のつくり方やできあがった製品の完成度に関しては、仕事熱心なだけに一家言も二家言も持っている。」(邱永漢『中国人と日本人』)

⑥『中国人――中華商人の心を読む』(孔健、総合法令)

⑦『出身地でわかる中国人』(宮崎正弘、PHP新書)

⑧『漢字と日本人』(高島俊男、文春新書)

 「漢字」という表語文字が登場し、大陸に孤立語という文法構造が固定され、その比類の無い語彙の質と量が周囲に影響して、その地方の言語を「孤立語+α」型の膠着語文法に導いた、という構図です。ちなみに漢字数だけでも漢代に9千字以上、唐代に2万6千字、明代に3万3千字、清代に4万2千字強と驚異的に増殖しています。漢語は2字語が安定していますが、理論上、1万字の漢字からは1億の2字熟語が成立してしまいます。参考までにニューヨークタイムズに使用されている語彙は約2万5千語とされ、知的水準の高い英語人は2万5千~5万語を区別するとされます。

 ところで、東アジアにおける最古の漢字(甲骨文、金文)は古代宗教文字でしたが、古代神聖国家エジプトに対する地中海商業国家フェニキアのような声言語を発達させた国が周囲に存在しませんでした。その後、戦国時代の文字衝突があり、文字言語による諸子百家の思想も生まれました。さらに秦の始皇帝による文字統一により、古代宗教文字を脱神話的な政治文字へと革命的に転化することに成功します。すなわち、象徴記号的古代宗教文字ではなく、字画を構成要素とする政治的字画文字が誕生するという世界史上最大の奇跡が生じたのです。これは表意文字が表音音写文字化された西欧のような断絶ではなく、表意文字の構造を残したままの断絶であり、これが奇跡的事件であったことは他の古代宗教文字が全て滅んでしまったことからも明らかです。



【韓国語】

➀『はじめての朝鮮語のすすめ 隣国を知るために』(渡辺吉鎔、講談社現代新書)

②『朝鮮語のすすめ 日本語からの視点』(渡辺吉鎔、講談社現代新書)

 韓国語は日本語と語順が同じで、文法も似ているので、学ぶ上で根本的な発想・思考転換が要求されないため、日本人が最も習得しやすい外国語と言えます。ちなみに韓国語と朝鮮語はほとんど同じですが、発音に少々違いがあり、ラジオやテレビでやっている朝鮮語講座は実際には韓国語講座です。

 歴史的には朝鮮半島・韓半島北半部に「朝鮮」、南半部に「韓国」という呼称があり、統一的には「コリア」を使うしかありませんが、これは「世界の中心」を意味する「中国」の呼称を避けて、歴史的地理的な「シナ」「チャイナ」の呼称を使用するのと似ています。

③『決定版 10日間のハングル』(金容権、宝島社)

④『ハングルの世界』(金両基、中公新書)

⑤『韓国がわかる。ハングルは楽しい!』(金裕鴻、PHP新書)

⑥『日本語とハングル』(野間秀樹、文春新書)

⑦『韓国語をいかに学ぶか 日本語話者のために』(野間秀樹、平凡社新書)

⑧『ハングルの誕生 人間にとって文字とは何か』(野間秀樹、平凡社ライブラリー)

⑨『韓国・朝鮮の知を読む』(野間秀樹編、クオン)

 ハングルは人間の発声器官を記号化した文字なので、最も普遍性が高い文字であるとされます。ひらがなもハングル(80%は漢字語)も、元々は漢語を読解するために生まれた補助的文字です。韓国語は1446年のハングル創出により、基礎母音が10(重母音・三重母音を合わせれば21)に増えました。

⑩『読んで旅する世界の歴史と文化 韓国』(新潮社)

⑪『「縮み」志向の日本人』(李御寧、講談社学術文庫)

⑫『ワサビの日本人と唐辛子の韓国人』(呉善花、祥伝社黄金文庫)

⑬『日本語の悲劇』(朴炳植、情報センター出版局)

⑭『日本語のルーツは古代朝鮮語だった 「吏読」に秘められたヤマト言葉の起源』(朴炳植、HBJ出版局)

⑮『万葉集の発見 「万葉集」は韓国語で歌われた』(朴炳植、学研)

 日本語は慶尚道方言に似ているとされ、朴炳植は日本の源流は洛東江流域・伽耶の地であるとしています。現代韓国語「ハンダヘド」は慶尚道方言「タヘド(ハンの省略)」「ケド(ハンダの省略、H→Kの音韻変化)」となり、これが日本語「だけど」「けど」に対応するというのです。また、慶尚道方言「イバク」(お話)は日本語「いわく」であり、鹿児島方言などにも慶尚道方言のアクセントが最もよく残っているとしています。



【日本語】

➀『日本語 表と裏』(森本哲郎、新潮文庫)

②『日本語 根ほり葉ほり』(森本哲郎、新潮文庫)

 日本語の人称代名詞が一人称と二人称に非常に多くの単語を持っており、一人称を二人称に代用することすらありますが、これは非常に強い自我意識を表わしているのではなく、場面ごとの自他の関係性を瞬時に把握する状況言語の特徴と言えるでしょう。これに対して英語は時制や数の観念が発達しており、全体を把握する構造言語であると言えるでしょう。

③『日本語のこころ』(渡部昇一、講談社現代新書)

④『日本 そして日本人 世界に比類なき「ドン百姓発想」の知恵』(渡部昇一、祥伝社)

 日本語においては、魂の言葉は和語(大和言葉)になります。例えば、人口に膾炙した種田山頭火の自由律俳句などを見ると、これ以上やさしい日本語を使ってものを書くことはほとんど不可能とされます。

「分け入っても分け入っても青い山」

「まっすぐな道でさみしい」

「また見ることもない山が遠ざかる」

「どうしようもないわたしが歩いている」

「あの雲がおとした雨にぬれている」

「うしろすがたのしぐれてゆくか」

⑤『日本語の構造 英語との対比』(中島文雄、岩波新書)

⑥『日本語はどういう言語か』(三浦つとむ、講談社学術文庫)

⑦『日本語教のすすめ』(鈴木孝夫、新潮新書)

 比較言語学の知識は豊かな教養を生み出すことが分かります。西洋言語学においては、「言語は音声であり、文字はその影にすぎず、文字は言語にとって本質的なものではない」とされますが、文字無き言語は決して不備な言語ではなく、すなわち文字は言語にとって必然のものではないのに対し、日本語のみは例外で、その語彙の半ば以上は文字の裏づけ無しには成り立ちません。語法的(言語学が注目するのは音韻と語法と意味です)には日本語は特殊な言語ではありませんが、音声が無力であるために言葉が文字の裏づけを待たなければ意味を持ち得ないという点に注目すれば、日本語は世界でおそらくただ1つのきわめて特殊な言語です。

 ひらがなは漢字の草書体から作られた音節文字で、『古今和歌集』を「真名」に対する「仮名」、「女手」で書き、女性に仮託して『土佐日記』を書いた紀貫之の革命により、漢語に対応する和語の創作と再編が起きました。例えば「春雨」という語に対して、遠景でやや寒冷な「シュンウ」と近景で温暖な「はるさめ」という二重の語感から、日本語・日本文化の微妙さ・繊細さが組織化されたのです。これによって、漢語・和語二重複線性の日本語の構造(具体的には「音」と「訓」の二重性です)は平安中後期には決定的になりました。こうした日本語の基本構造は「名詞や動詞の漢字」に「助詞や助動詞のかな文字」を併せて生まれる「漢字かな交り文」にあります。したがって、文章の漢字だけ拾っていけば大体意味がつかめますが、逆にかな文字だけ拾っても何の文章だか分からないのです。

 かくして、女性が創出した平安王朝文学と日本的漢語を確立した和漢混交文をふまえ、鎌倉新仏教以来、二重複線言語が民衆化し、大衆的基盤を持つに至りました。さらに江戸時代の寺子屋教育以来、戦前日本の識字率はヨーロッパと比較しても非常に高かったことは見逃せないところです。

 ⑧『二重言語国家・日本』(石川九楊、中公文庫)

 日本語は書字中心言語であり、欧米語は声中心言語です。また、日本語は語彙的には漢語(中国語)と和語に分裂し、構造的には漢語の詞を和語の辞が支える「二重複線言語」です。日本語の根本に文字=書字を置き、政治・思想を含む日本文化の特異性とその深奥に迫った、衝撃の日本論となっています。

 日本語は漢語という異質の言語に接触し、それを受容し、消化するために在来の言語形式の不備を整え、それによって新しい表現をする方法を拡充しました。例えば、平安時代初期に「なり」を使うに至って初めて、どんな言葉でも語幹の位置に据えさえすれば、その下に「なり」の活用を加えて形容語を作り(形容動詞の成立です。ちなみに形容詞は奈良時代以前に成立していました)、それによって否定形も推量形も回想形も作れるという表現法の自由を獲得しています。

 日本語は、古アイヌ語のような言語が幾種類もあった前日本語(倭語)の上に、大陸から文字を持った高水準・高圧力の漢語がのしかかり、その周囲に変質した前日本語が呼び集められて整理されることによって生まれた和語(新生倭語)と漢語から成る二重言語です。貴族・僧侶らの文化的教養として漢詩・漢文が盛んに量産されましたが、日本的漢詩・漢文が多かったのです。つまり、漢語の衣を着た日本語ということで、儒教も仏教も日本のそれは全く別物です。明治以降、西洋文化・文明が大量流入した際には、それらを日本語に訳すために漢字が動員され、数千数万語に上る和製漢語が作られました。今度は西洋語の衣を着た日本語が作られたのであり(「和魂漢才」→「和魂洋才」)、中国への逆輸出現象も起きました。

 このように二重言語性の特質を極限まで使って達成したのが日本の近代化で、西洋による植民地化を免れたのは漢語の造語能力による言語水準の高さに原因があったとも言えます。すなわち、西欧の政治や支配の意図を十分に理解し得る言語を持ち、それに対抗する力を言語的文化的に持ち得たということです。

 さらに近代日本語では西欧語(英語)も1つの焦点となっているので、三重言語であるとすら言えるかもしれません。「泡沫経済」より「バブル経済」が、「終末期医療」よりも「ホスピス」が、「自我同一性」より「アイデンティティ」の方が現代日本人にはしっくりきます。これは「和心・漢魂・洋才」の立体構造による世界水準の言語形成(日本語の再構築)の可能性を秘めています。

⑨『日本語について』(大野晋、岩波書店同時代ライブラリー)

⑩『日本語の教室』(大野晋、岩波新書)

⑪『日本語の文法を考える』(大野晋、岩波新書)

⑫『日本語の起源 新版』(大野晋、岩波新書)

⑬『日本語の年輪』(大野晋、新潮文庫)

 大野晋は上代の仮名遣いや音韻を専門とし、日本人の生活習慣や思考様式まで広く考察した国語学者で、日本語の起源がドラヴィダ語族に属するタミル語にあるとして反響を呼びました。日本語と南インド・ドラヴィダ語族(タミル語、これも膠着語)は同系語族とされ、全ての音素にわたって音韻対応が確認され、対応する単語が基礎語を中心に500語近くあります。また、基本的な助詞・助動詞が音韻・用法の上で対応し、係り結びも一部共通しています。歌の「五七五七七」の韻律も共通に見い出されます。したがって、日本語・日本文化には北方アルタイ系要素(膠着語)と南方系要素(日本語の発音組織にはインドネシア・ポリネシアなどに通じる体系があるとされます)の二重性があります。つまり、文法はアルタイ語、単語は南方語ということです。 

⑭『日本語大漂流 航海術が解明した古事記の謎』(茂在寅男、光文社)

 海洋伝播に関連して、何千キロと隔たっているマダガスカル島の言語とインドネシア語との間には音韻の対応があることが明らかになっています。また、南太平洋の人々・言語のルーツが華南地方→東南アジアであったことが明らかになっています。

●南方系古縄文人~原ドラヴィダ語・原ポリネシア語系南方語。日本に基層言語としてポリネシア語族の1つに近い言語があったところへ、タミル語が伝播した可能性も指摘されています。

●北方系新縄文人~アイヌ語との親和性。出雲神族、「神在月」と「神無月」。

●半島系弥生人~原韓国語系アルタイ語。「国ゆずり神話」と「国生み神話」。実は韓国語とタミル語も約400の対応語を持ち、伽耶の始祖金首露王の王妃許黄玉は古代インドのアユディア出身であったという説話が残されています。

⑮『日本語はいかにつくられたか?』(小池清治、ちくま学芸文庫)

⑯『古代国語の音韻について 他二編』(橋本進吉、岩波文庫)

⑰『日本書紀の謎を解く 述作者は誰か』(森博達、中公新書)

⑱『江戸語・東京語・標準語』(水原明人、講談社現代新書)

 日本語を理解するためには日本語の歴史をふまえる必要があります。奈良時代には母音が8つあって、88の音節が区別され、キヒミケヘメコソトノモヨロ(及びその濁音)も2類に分かれていて明確な区別がありました。それが平安時代になって合一し、68音(清音だけ取れば48音)になります。さらにア行の「え」とヤ行の「え」が混同されて1つになり、清音47となっています(いろは)。動詞の活用も古典語では9種類ありましたが、現在では5種類に減っています。将来は五段活用・上一段活用・下一段活用の3種類になると推測されています。

 また、明治以降の国語としての日本語確立プロセスは、江戸語→東京語(言文一致運動が東京の話し言葉を文字化しました)→標準語(国定教科書)→ラジオ放送(NHK)による普及、という段階を経ています。

⑲『日本語に主語はいらない 百年の誤謬を正す』(金谷武洋、講談社選書メチエ)

⑳『日本語文法の謎を解く――「ある」日本語と「する」英語』(金谷武洋、ちくま新書)

㉑『日本語は亡びない』(金谷武洋、ちくま新書)

㉒『日本語には敬語があって主語がない 「地上の視点」の日本文化論』(金谷武洋、光文社新書)

㉓『主語を抹殺した男 評伝三上章』(金谷武洋、講談社)

㉔『日本語と西欧語 主語の由来を探る』(金谷武洋、講談社学術文庫)

㉕『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』(金谷武洋、飛鳥新社)

 日本語では場面とか文脈に頼った表現が非常に多く、これは未知のことだけ、相手が知らなさそうなことだけ言ってつないでいくためです。日本人の発想は、起源的には言(こと)と事(こと)が同一であり、言葉と行為は一致している同一のものと考え、言葉は通じるものと安心してきたことに由来します。そのため、日本語には抽象名詞が少ないという特徴があり、英語のように否定名詞を主語に立てる語法は日本語には存在しません。

 これに対して、インド・ヨーロッパ語族の1つであるサンスクリット語(「完成された言語」を意味し、雅語であり、文学語・文章語です)などは抽象名詞を非常に多く使います。例えば、日本語で「年老いる」と言うところを「老性におもむく」と言い、「果実が柔らかになる」というところを「果実が柔軟性におもむく」と言い、「彼は使者として行く」と言うところを「彼は使者性によって行く」と言い、「ある男が木と思われた」と言うところを「ある男が樹木性によって表象された」と言い、「死王にまみえることがないであろう」と言うところを「死王の不見におもむくであろう」と言うのです。



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(3)学問論

➀『学問のしくみ事典 あらゆる「学」の系譜と相関がわかる』(吉村作治、日本実業出版社)

 知的興味・関心が高まってくると、いわゆる「学問」の見取り図、位置付け、歴史的経緯といったものを確認したくなります。本書はそういった要求に応えるもので、多少粗い所もありますが、全体的なチャートとしては使えるでしょう。

②『学問と「世間」』(阿部謹也、岩波新書)

③『やりなおし教養講座』(村上陽一郎、NTT出版)

④『西洋の着想 東洋の着想』(今北純一、文春新書)

 「包括主義」(ホーリズム)は東洋も西洋も総合します。「西洋」を通過してこそ「東洋」が生きるのです。西洋医学は近代科学の成果の一つである解剖生理学に基づき、即効性がありますが、東洋医学は陰陽五行理論や八卦思想を持ち、哲学的で、どうしても遅効性となります。実は東洋医学にも西洋医学の成果は欠かせないのであって、この両者を統合するのが真の「包括主義」なのです。これは近代経済学においても古典派経済学(ミクロ経済学)とケインズ経済学(マクロ経済学)は両方必要で、現代物理学でも決定論のニュートンの古典力学を発展させた相対性理論も、非決定論の量子力学も両方必要であるのと通じるでしょう。

⑤『ホロン革命』(アーサー・ケストラー著、田中三彦・吉岡佳子訳、工作舎)

⑥『アルプバッハ・シンポジウム’68 還元主義を超えて』(アーサー・ケストラー編著、池田善昭監訳、工作舎)

⑦『パラダイム・ブック 新しい世界観―新時代のコンセプトを求めて』(C+Fコミュニケーションズ編著、日本実業出版社)

⑧『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』(西垣通、中公新書)

⑨『知はいかにして「再発明」されたか』(イアン・F・マクリーニー、ライザ・ウルヴァートン著、冨永星訳、日経BP)

⑩『福翁自伝』(福澤諭吉著、土橋俊一校訂・校注、講談社学術文庫)

⑪『現代語訳 学問のすすめ』(福澤諭吉著、斎藤孝訳、ちくま新書)

⑫『大学で何を学ぶか 自分を発見するキャンパス・ライフ』(加藤諦三、光文社)

⑬『青春をどう生きるか いまやらなくて、いつやれる』(加藤諦三、光文社)

⑭『俺の胸に火をつけた言葉』(加藤諦三、大和文庫)

⑮『学生との対話』(小林秀雄)

「ベルグソンが或る大きな会議に出席していた時、たまたま話が精神感応の問題に及んだ。或るフランスの名高い医者も出席していたが、一婦人がこの医者に向かってこういう話をした。この前の戦争の時、夫が遠い戦場で戦死した。私はその時、パリにいたが、丁度その時刻に夫が塹壕(ざんごう)で斃(たお)れたところを夢に見た。それをとりまいている数人の兵士の顔まで見た。後でよく調べてみると、丁度その時刻に、夫は夫人が見た通りの恰好(かっこう)で、周りを数人の同僚の兵士に取りかこまれて、死んだ事が解った。この問題に関するベルグソンの根本の考えは実に簡明なのです。

 この光景を夫人が頭の中に勝手に描き出したものと考えることは大変むずかしい。と言うよりそれは殆(ほとん)ど不可能な仮説だ。どんな沢山の人の顔を描いた経験を持つ画家も、見た事もないたった一人の人の顔を、想像裡(り)に描き出す事は出来ない。見知らぬ兵士の顔を夢で見た夫人は、この画家と同じ状況にあったでしょう。それなら、そういう夢を見たとは、たしかに精神感応と呼んでもいいような、未だはっきりとは知られない力によって、直接見たに違いない。そう仮定してみる方が、よほど自然だし、理にかなっている、という考えなのです。」(小林秀雄『学生との対話』)

⑯『考へるヒント』(小林秀雄、文春文庫)

⑰『新・考えるヒント』(池田晶子、講談社)

⑱『学ぶとはどういうことか』(佐々木毅、講談社)

⑲『学び続ける力』(池上彰、講談社現代新書)

⑳『独学術』(白取春彦、ディスカヴァー携書)

㉑『読書のすすめ』(岩波文庫編集部編、岩波文庫)

㉒『読む技術 成熟した読書人を目指して』(塚田泰彦、創元社)

㉓『知的生活の方法』(渡部昇一、講談社現代新書)

㉔『続・知的生活の方法』(渡部昇一、講談社現代新書)

㉕『知的生産者たちの現場』(藤本ますみ、講談社)

㉖『私の知的生産の技術』(梅棹忠夫編、岩波新書)

㉗『ユダヤ人が教える正しい頭脳の鍛え方』(エラン・カッツ著、母袋夏生訳、KADOKAWA)

㉘『「超」勉強法』(野口悠紀雄、講談社)

 読書術、勉強法、学習法などには明確に方法論があります。地頭の良さということも重要ですが、こうした方法論を知っているか知らないかの差が大きいのです。

㉙『血液型らくらく受験勉強術』(西村英夫、北辰堂)

 能見正比古の統計学的研究以来、血液型人間学は根強い人気を誇ってきました。例えば、次のような知見が指摘されています。

●主体的B族と対象的非B族~「世界の主体」AB型と「自分の主体」B型、「内的協調」志向のA型と「外的協調」志向O型

●原因的A族と結果的非A族~「正義を与える」AB型と「正義を守る」A型、「内的現実」志向のB型と「外的現実」志向のO型

●目的達成志向と過程評価志向~「目的を与える」AB型と「目的を果たす」O型、「自分が頑張る」B型と「皆で頑張る」A型

●AB型~目的原理の人。良く言えば神の立場に立つ「正義の人」、悪く言えば平気で人を批判する「イヤミの天才」。その秘密は「絶対主義」と「理想主義」の矛盾にあります。自分が正義と思った以上、それは自分だけの正義ではなく、全ての人が受け容れなければならない絶対的正義なのです。また、高い理想を持ちますが、汚れた現実の中でそれを実現する人は自分自身ではあり得ないわけです。適性は「頭脳」になることで手足になることではなく、参謀に向きます。

●B型~自由原理の人。主な関心が自分に向かっている「我が道を行く」人。内向する場合、A型のように本当はかまってもらいたいのにいじけているのではなく、ただ自分の内面に興味が集中しているから内向しているのに過ぎません。外向する場合、O型のように周囲の和を保つためにあたふたしているのではなく、ただ自分を表現したいから外向しているのに過ぎないのです。良く言えば、何者も頼りとせずに自分自身で決定していく強い主体的自発性、ある目標に向かって何もかも忘れて没頭するプロセスという「自由」の本質に生きる人、悪く言えば「夢多くしてどの夢も実現しない」、自分勝手で無責任なエゴイスト。

●A型~平等原理の人。他人が自分をどう感じているのかということに極めて敏感で、全てに根拠を求める原因志向性は、何事にも「こうであるべし」という規則を制定しようとする規範性につながります。全体が一致団結することを願い、その和を乱す人間(B型が多いでしょう)を最も嫌い、和が乱れた原因を追究します。A型の特質は家族的集団の中でしか生かされないので、そうした環境がかなわないと、抑圧された情念が蓄積されて「キレる」ことも起きますが、それは他人の怨念に無神経なB型に対して爆発する可能性があります。そして、いつかどこかに必ず存在するであろう、真の理解者のために完璧な仕事を残しておこうとする職人気質が現われることもあります。これが仕事の達成よりも仕事の完全性を重視するA型の完全主義で、O型なら60点主義で満足します。

●O型~幸福原理の人。AB型の求める喜びは理念的・抽象的、B型の求める喜びは観念的・独善的、A型の求める喜びは感情的・内面的ですが、O型の求める喜びは具体的・現実的であり、なおかつ自分一人のものではなく、皆に広がっていくものでなければなりません。AB型の志向する目的は抽象的な誰か(必ずしも自分ではありません)の果たすべき理念ですが、O型の志向する目的はあくまで自分が果たさなければ意味がない具体的任務であり、失敗した場合も、A型なら失敗した原因をあれこれと分析して自分以外の原因に責任を転嫁することができますが、O型はそのような細かい分析はできず、くよくよと自分を責めて内向してしまいます。この違いは「キレた」時に明瞭になり、A型が爆発して人を殺すのに対し、O型はつぶれて自殺する傾向が強いようです。O型の意識は目的の達成とその手段としての人の和に向かっており、現実的結果を求めるので「妥協」がうまいと言えます。O型にとってある意味では目的の内容はどうでもよく、A型なら人の和そのものが自己目的化します。また、AB型の理想は高いのですが、高すぎて現実が見えず、B型の凝り性やA型の完全主義に付き合っていたら、仕事の納期に間に合わないので、ここからO型の60点主義が生まれてきます。

㉚『大学史 その起源から現代まで』上下(ステファン・ディルセー著、池端次郎訳、東洋館出版社)

●ボローニャ大学(1158年認可)~法学。北部イタリアは国境紛争でドイツと長く抗争を続けたため、法律(特にローマ法)の研究が盛んになりました。

●パリ大学(1180年認可)~神学。ノートルダム寺院を中心に、パリ大僧正の監督下に行なわれていた教育が起源です。教授団体を中心に学部(ファクルタス)制を取っており、ドイツの大学もこれにならいました。さらに貧窮学生のための寄宿舎が発展して、教育をも行なう学寮(コレージュ)となったのですが、イギリスのオックスフォード大学、ケンブリッジ大学もこの制度を導入しています。

●オックスフォード大学(1167年頃、形態を整えました)~パリ大学を手本として作られました。

●ケンブリッジ大学(1209年)~オックスフォードから一部の者が移転して作られました。

●ナポリ大学(1224年認可)~医学。

●チュービンゲン大学(1477年創設)

㉛『ヨーロッパの大学』(島田雄次郎、玉川大学出版部)

「(大学は)ヨーロッパの精神史・社会史の最高度に独特な現象である。」(グルントマン)

 大学は当初はスコラ哲学・アリストテレス哲学を学ぶ場でしたが、やがて自然科学と数学の原理の上に立てられた近代哲学、ラテン語を学ぶようになり、さらに各国語、古典的カリキュラムを経て、「学問と教育の自由」を原則としたカリキュラムが確立していきます。

●ハレ大学(1694年創設)→ゲッチンゲン大学(1734年創設)→ベルリン大学(1809年、フンボルトによって創設)

●ロンドン大学(1828年創設)

㉜『大学とアメリカ社会 日本人の視点から』(中山茂、朝日選書)

㉝『世界の大学危機 新しい大学像を求めて』(潮木守一、中公新書)

 アメリカの社会学者マーチン・トロウは先進工業国の高等教育(大学)に関して、適齢人口中の学生比率が15%までを「エリート型」(特権教育)、15~50%までを「マス型」(大衆教育)、50%以上になると「ユニバーサル型」(「権利」というより「義務」として意識される)と位置付けたことで知られます。日本では「高校義務教育化」が長らく議論されてきましたが、これは「高校」を「マス型」から「ユニバーサル型」に変えようじゃないか、ということに他なりません。ところが、そうこうしているうちに大学進学率が50%以上(首都圏では60%以上)となり、何と「大学」が「マス型」から「ユニバーサル型」に変わってしまう可能性が出てきてしまったわけです。

㉞『日本の近代12 学歴貴族の栄光と挫折』(竹内洋、中央公論新社)

㉟『旧制高校物語』(秦郁彦、文藝春秋)

㊱『東大脳の作り方と使い方』(中本千晶、生活情報センター)

㊲『京都帝国大学の挑戦』(潮木守一、講談社学術文庫)

㊳『物語「京都学派」』(竹田篤司、中公叢書)

㊴『京大人文研』(斎藤清明、創隆社)

㊵『大学を問う 荒廃する現場からの報告』(産経新聞社会部編)

㊶『高卒海外一直線 エリート高校生の「頭脳流出」』(中井浩一、中公新書ラクレ)

㊷『なぜ、宇多田ヒカルがコロンビア大学に入れるのか』(小山内大、はまの出版)



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(4)情報科学

➀『レトリックの時代』(渡部昇一、講談社学術文庫)

②『現代ジャーナリズムを学ぶ人のために』(大井眞二・田村紀雄・鈴木雄雅編、世界思想社)

③『「タイム」を読む 生きた英語の学び方』(松本道弘、講談社現代新書)

④『英語メディアを使いこなす』(鍋倉健悦、講談社現代新書)

 各種英語メディアの歴史・特徴をふまえて活用するとよいでしょう。

⑤『ニューヨーク・タイムズ物語 紙面に見る多様性とバランス感覚』(三輪裕範、中公新書)

⑥『わが人生』(キャサリン・グラハム著、小野善邦訳、シーシーシーメディアハウス)

⑦『メディアの権力』全4巻(デイヴィッド・ハルバースタム著、筑紫哲也・東郷茂彦訳、朝日文庫)

⑧『忘却の整理学』(外山滋比古、ちくま文庫)

⑨『ボランティア もうひとつの情報社会』(金子郁容、岩波新書)

⑩『たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉』(見城徹、双葉社)



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(5)生活科学

➀『格差と貧困のないデンマーク 世界一幸福な国の人づくり』(千葉忠夫、PHP新書)

②『世界一豊かなスイスとそっくりな国ニッポン』(川口マーン惠美、講談社+α新書)

③『クォリティ・ライフの発想 ダチョウ型人間からワシ型人間へ』(渡部昇一、講談社文庫)

④『幸せになる成功知能HQ 日本人の脳の進化の秘密』(澤口俊之、講談社)

⑤『MI:個性を活かす多重知能の理論』(ハワード・ガードナー著、松村暢隆訳、新曜社)

 ヨーロッパでは伝統的に、「知性」にも「インテリジェンス」(Intelligence)と「インテレクト」(Intellect)という「二重知性論」に立っていました。インテリジェンスは知能指数で比較的正確に表わせるような知能因子の関わる面で、日常的な実務をてきぱきと処理する有能さや学校の成績などに反映され、受験的知性なども含みます。インテレクトは知能検査における開放因子と言われるもので、未知のものを探ってみようとか、非常にかけ離れた連想をするというような能力を指します。

 これに対してアメリカの認知心理学者ハワード・ガードナーが1980年代に「多重知性論」を提唱しました。今では「8~9つの知性」が互いにある程度独立し、並列的に働くことが分かっています。

●言語的知性~会話や読書、文章を書く時などに用いられる知性で、言葉を見聞きして記憶したり、それを操る役割を果たします。

●論理数学的知性~計算や暗算、論理的な思考をする時に使われる知性で、様々な数学的論理記号を記憶し、理解して、それを操作する時に用いられます。

●絵画的知性~絵や図形を見て理解したり、描く時に用いられる知性で、目で見た対象の形やパターンを捉え、記憶し、新しい絵を描く時などに用いられます。

●音楽的知性~歌を歌ったり、楽器を演奏したり、音楽を鑑賞したりする時などに使われる知性で、音の並びからメロディーを聴き取り、記憶し、その知識を元に歌ったり、演奏したりする時に働いています。

●空間的知性~物体がどの位置に、どれくらいの速度で、どういう関係で存在しているかを知覚し、記憶して、空間の中でどう行動したらいいかを組み立てる時に働く知性です。

●運動感覚的知性~歩いたり、座ったり、ご飯を食べたり、スポーツをしたりというような、全ての身体動作を行う時に働く知性で、身体の姿勢や運動の様子を知覚し、記憶して、それらに基づいて運動をうまくコントロールする働きをします。

●対人的知性~「人間関係的知性」とも言います。他の人を理解する知性です。「社会的知性」や、「自分の感情を制御する働き」を持つ「知性」で、いわゆる「EQ」である「感情的知性」などと、さらに細かく分類することも出来ますが、これらをより上位の「知性」たる「超知性」「統合知性」に入れる考えもあります。

●内省的知性~「内的知性」とも言います。自己理解の知性であり、自分が誰か、何ができるか、何をしたいか、物事にどう反応するか、何を避けようとするか、何に惹かれるかといった自分自身を理解する知性です。

●博物学的知性~「自然主義的知性」とも言います。自然の中でどう生き延びていくかといった知性であり、博物学者は自分の環境の多数の種、動植物を見分けて分類する優れた能力を持っていることから、この名前がついたようです。

●霊的知性~例えば、チェロの名手カザルスの演奏に「神の声」を聴いて涙する、あるいはマザー・テレサの背後に「神を観る」ような知性です。ガードナーはこれに重きを置きながら、「多重知性」の中に入れることには若干躊躇があるようです。

 「多重知性」(インテリジェンス)は「認知能力=知能」で、「感性」から「悟性」に至るプロセスに属し、大脳の「感覚野」から「頭頂連合野」に至る情報処理、あるいは「右脳」の機能と言ってもいいかもしれません。「統合知性」(インテレクト)は「悟性」から「理性」に至るプロセスに属すると考えられ、「頭頂連合野」から「前頭連合野」に至る情報処理、あるいは「左脳」の機能と言ってもいいかもしれません。

 ガードナーが躊躇を感じた「霊的知性」は「霊性」に属すると思われ、「霊性」と「知性」の統合的説明は中世スコラ神学の主要テーマの1つでしたが、近世哲学・近代哲学に至って「霊性」の探求はスッポリと抜け、「知性」のみの探求が進められ、演繹的「理性」論がフランスで、経験的「感性」論がイギリスで発達し、両者を統合的「悟性」論で一つの枠組みに組み込む作業がドイツで行われていったのです。すなわち、極論すれば全ての「概念」が生得的であると考えたデカルトから始まる「大陸合理論」と、全ての「概念」は帰納的に得られるとしたベーコンから始まる「イギリス経験論」に対して、カントは人間が先天的に知っているのは「概念」の基本的「形式」だけであり、後天的な「概念」の「内容」は経験から得られると考えて、合理論と経験論を統合し、「ドイツ観念論」の出発点となるのです。

 ところで、「霊性」は「感性」「悟性」「理性」の全ての段階に並行して存在していると考えられているので、「霊的感性」「霊的悟性」「霊的理性」があるわけです。このうち「霊的感性」は「霊感」、「霊的理性」は「さとり」「啓示」「霊的直観」などと言ってもいいと思われるので、「霊的悟性」は「霊的認識」「霊的論理」のことを指しているのでしょう。ついでに言えば、「意志」と並行して存在している「霊的意志」は「信仰」あるいは「霊能」で、「情念」と並行して存在している「霊的情念」は「聖霊体験」に見られるような「悔い改め」や神秘主義に見られるような「没我」「神との一体感」を表しているのかもしれません。

  いずれにせよ、ヨーロッパの伝統的な「二重知性」論から、認知心理学と脳科学による「多重知性」論と「超知性」論に至る議論は、哲学的にはカント以来の新しい「感性」「悟性」「理性」論の提出と言ってもいいかもしれないのです。

⑥『眠りながら巨富を得る あなたをどんどん豊かにする「お金と心の法則」』ジョゼフ・マーフィー著、大島淳一訳、知的生き方文庫)

 ジョゼフ・マーフィー(1898~1981)は神学、哲学、法学、薬理学の博士号を持つだけでなく、教育家、講演家、教会の牧師としても幅広く活躍しており、著書は35冊以上に及び、世界各国で3,000万部以上翻訳・出版されています。ビジネスの世界では「年収5000万円以上の人でマーフィーを読んでいない人はいない」と言われたりもしますが、その理論は「潜在意識」には実に驚くべき力があること、そして、それを科学的アプローチにより活用することで、人間の願望を実現させようとするものです。

⑦『社会脳とは何か』(千住淳、新潮新書)

⑧『野心家の時間割 人生の勝者となるために』(邱永漢、PHP文庫)

⑨『「良い仕事」の思想 新しい仕事倫理のために』(杉村芳美、中公新書)

⑩『仕事術』(森清、岩波新書)

⑪『人のこころを虜にする〝つかみ〟の人間学』(近藤勝重、新潮文庫)

 「政界きっての人間通」「人間関係の達人」と言われた竹下登元首相も、口グセは「ほーっ」「なるほど」「さすが」「なんと」「まさか」だったと言います。そのため新人議員であれ、中堅議員であれ、はたまた野党議員であれ、話しているうちについつい気分が良くなってしまったようです。

 また、セールス・トークの世界では「最初の3秒(もしくは3分)でつかめ」という言葉がありますが、全米ナンバーワンのセールスマンに対して、インタビューした有名なテレビ司会者が疑り深そうに聞いたことがあります。

「本当に何でも売ることが出来るんですか?」

「売れますよ。」

「じゃあ、私にこの灰皿を売ってみて下さい。」

「いいですよ、いくらだったら買います?」

「そうだな、1ドルぐらいかな。」

「ダン!(契約成立)」

 一瞬でつかんでいますね。

⑫『秘伝・部下と子供の叱り方 読むクスリ35』(上前淳一郎、文春文庫)

⑬『となりのクレーマー 「苦情を言う人」との交渉術』(関根眞一、中公新書ラクレ)

⑭『指導力の研究 組織社会を勝ち抜く方法』(渡部昇一、PHP文庫)

⑮『指導者の条件』(松下幸之助、PHP研究所)

⑯『松下幸之助発言集37』(PHP総合研究所研究本部「松下幸之助発言集」編纂室、PHP研究所)

「山中鹿之助(鹿介)といえば戦国時代の有名な豪傑である。その鹿之助はいつも「七難八苦を与えたまえ」と神に祈っていたという。それをある人が不審に思って、その理由をたずねると、鹿之助は、「人間の心、人間の力というものは実際にいろいろのことに出合ってみないと自分でもわからない。だから、いろいろな困難に直面して自分をためしてみたいのだ」と答えたという。「憂きことの なおこの上につもれかし かぎりある身の力ためさん」という歌が彼の作として伝えられている。人間が神仏に祈るという場合、その内容はいろいろあるだろうが、概していえば、いわゆるご利益を願うのがふつうだと思う。幸せを祈ったり、健康を祈ったり、あるいは金儲けを祈るということはあっても、困難や苦労を与えてほしいと願う人はまずほとんどいないのではなかろうか。だから、七難八苦を与えたまえという鹿之助の願いを周囲の人が不思議に思うのは当然だといえよう。しかし、鹿之助はあえてそれを祈った。それは困難によって自分をためし、自分をきたえたいと考えたのでもあろうが、同時にそのようにみずから祈ることによって、われとわが心を励ましていたのではないだろうか。」(松下幸之助『指導者の条件』)

⑰『現代の帝王学』(伊藤肇、PHP文庫)

⑱『ユダヤ5000年の秘伝書 世界を征する「トーラー」の奇跡』(手島佑郎、KKベストセラーズ)

⑲『ユダヤ人のビジネス哲学 なにが彼らを成功へ導くのか』(手島佑郎、ダイヤモンド社)

⑳『賢者は中金持ちをめざす』(邱永漢、知的生き方文庫)

 「金儲けの神様」邱永漢の影響を受けた人はたくさんいます。数百冊ある著書を全部買って目を通しているという人もいるほどです。

㉑『株が好き♪ たった1銘柄の売買でも1000万円儲けられるフミエ流株式投資術』(若林史江、アスペクト)

 著者は18歳にして「株」の「か」の字も知らず証券会社に入社し、証券業界の先輩達に何時間でも喰らいついて多くを学び、若干26歳にして「スーパー・トレーダー」と呼ばれるようになった人物です。

㉒『改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房)

㉓『改訂版 金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房)

㉔『改訂版 金持ち父さんの投資ガイド入門編 投資力をつける16のレッスン』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、林康史協力、筑摩書房)

㉕『改訂版 金持ち父さんの投資ガイド上級編 起業家精神から富が生まれる』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、林康史協力、筑摩書房)

㉖『改訂版 金持ち父さんの起業する前に読む本 ビッグビジネスで成功するための10のレッスン』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房)

 『金持ち父さん 貧乏父さん』はアメリカでベストセラーになり、日本でも大変話題を呼んだ本です。アメリカでは小学生でも投資をやり、高校生だとスマホで日常的に投資を行っていますが、日本では経済観念、納税意識、投資知識、金融技術がもっと育まれる必要があります。

㉗『新版 となりの億万長者 成功を生む7つの法則』(トマス・J・スタンリー、ウィリアム・D・ダンコ、斎藤聖美訳、早川書房)

㉘『その後のとなりの億万長者  全米調査からわかった日本人にもできるミリオネアへの道』(トマス・J・スタンリー、サラ・スタンリー・ファラー 著、藤原玄訳、パンローリング社)

㉙『なぜ、この人たちは金持ちになったのか 億万長者が教える成功の秘訣』(トマス・J・スタンリー著、広瀬順弘訳、日本経済新聞社)

㉚『世界最強の教育機関ハーバード・ビジネススクールは何をどう教えているか スーパーエリートはこう育てられる』(フランシス・J・ケリー、ヘザー・メイフィールド・ケリー著、近藤純夫訳、経済界)

㉛『いざハーバード・ビジネススクール』(西川満、日本実業出版社)

 「資本主義のウェストポイント」「アメリカ最強の教育機関」と称されるのが、ハーバード・ビジネススクールです。ケース・スタディを主軸にしたここの教育法は、非常に参考になることでしょう。例えば、アサヒビールがキリンビールを追い抜いたことも、世界的に有名なケースとして取り上げられています。

㉜『アメリカの経済支配者たち』(広瀬隆、集英社新書)

 世界最大の経済大国はアメリカですが、そこでの経済的成功者は果たしてどのような人達なのか、知っておくことは有意義です。そもそも「アメリカの政策決定はワシントンではなく、ニューヨークでなされる」と言われるほどですが、そのカギはウォール・ストリートの存在にあります。

㉝『アメリカ・ユダヤ人の経済力』(佐藤唯行、PHP新書)

㉞『アメリカ・ユダヤ人の政治力』(佐藤唯行、PHP新書)

 世界的経済人脈として注目されるのは、ユダヤ人のネットワークと華僑のネットワークですが、特にユダヤ人脈は金融、金、石油、穀物といった主要分野を押さえており、無視できない存在です。

㉟『七つの資本主義 現代企業の比較経営論』(C・ハムデン=ターナー、A・トロンペナールス著、上原一男訳、日本経済新聞社)

㊱『売りこまなくても売れる! 説得いらずの高確率セールス』(ジャック・ワース、ニコラス・E・ルーベン著、坂本希久子訳、神田昌典監修、フォレスト出版)

 ジャック・ワースは全米70業界のトップ・セールスパーソン312人に同行し、数年がかりでセールス・パフォーマンスを観察・分析して「高確率セールス」を確立し、全米に衝撃を与えました。「成約するためには、商談において25%以上、セールス・パーソンがしゃべってはならない」と結論づけており、営業や接客など対人的な仕事をしている人は参考になるでしょう。

㊲『お金と英語の非常識な関係』上下(神田昌典、フォレスト出版)

 実践マーケッターとして著名な神田昌典は、外国人のビジネス・パートナーと短時間で信頼関係を築く方法として、「相手の子供時代の家庭の話」を聞けば、たった15分で人間関係は異なるレベルにシフトすると述べています。もちろん、いきなり切り出すと変なので、過去に少しずつ遡っていき、子供時代の話、「生い立ち」に至っていくわけです。「生い立ち」の話をすれば、人は急速に親しくなると言うのです。過去の傷口を開いてしまう危険性がある場合には、「子供の頃、一番楽しかったことは何?」という質問をして、楽しい話題に切り替えるそうです。

㊳『成功して不幸になる人びと ビジネスの成功が、なぜ人生の失敗をよぶのか』(ジョン・オニール著、神田昌典監訳、平野誠一訳、ダイヤモンド社)

㊴『成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語』(神田昌典、講談社+α文庫)

 あらゆる成功法則の本に書かれていないのはこの「ダークサイド」の部分であり、「ビジネスの成功者ほど人生で失敗している」という現実の問題でした。これに本格的にスポットを当てたのはジョン・オニールの『成功して不幸になる人びと』+であり、日本にこれを本格的に紹介したのが神田昌典の『成功者の告白』です。少なくともこれからビジネスを立ち上げたい、会社を興したい、成功を収めたいという人であるならば、これらの本を一読すべきでしょう。「夫婦をつなげるために子どもが犠牲になることすら起きる」など、経験者なら真っ青になるような内容です。



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(6)健康・スポーツ科学

➀『三千年の知恵 中国医学の秘密』(小高修司、講談社BLUE BACKS)

②『漢方のルーツ まんが中国医学の歴史』(山本徳子、医道の日本社)

③『よくわかる中国医学と漢方薬』(池永優美子、NHK出版)

④『東洋医学のしくみ 気・血・津液から鍼灸、漢方治療まで』(兵頭明、新星出版社)

⑤『ホリスティック医学入門――ガン治療に残された無限の可能性』(帯津良一、角川oneテーマ21)

 「西洋医学」と「東洋医学」はそれぞれ還元主義的・包括主義的、対症療法・自然治癒能力強化、速効性・遅効性、といった特徴的違いがありますが、両者を統合する「ホリスティック医学」というジャンルも研究されています。特に日本人にもなじみ深い東洋医学については、こうした入門書である程度の理解をしておくとよいでしょう。

⑥『ヨーガのすすめ 現代人のための完全健康法』(佐保田鶴治、ベースボール・マガジン社)

⑦『ヨーガ入門 ココロとカラダをよみがえらせる』(佐保田鶴治、ベースボール・マガジン社)

⑧『ヨーガ禅道話』(佐保田鶴治、人文書院)

⑨『ヨーガ根本経典』(佐保田鶴治、平河出版社)

⑩『続ヨーガ根本経典』(佐保田鶴治、平河出版社)

⑪『解説ヨーガ・スートラ』(佐保田鶴治、平河出版社)

⑫『秘法ヨガ入門』(藤本憲幸、大陸書房)

 ヨーガは「呼吸法(プラーナーヤーマ)」「体位法(アーサナ)」「瞑想法」の3つからなる修行体系です。「気功法」の体系も基本的にこの3要素からなります。スポーツのストレッチなどはこのヨーガのアーサナ(姿勢)に由来しています。

●ハタ・ヨーガ~アーサナ(姿勢)、プラーナーヤーマ(呼吸法)、ムドラー(印・手印や象徴的な体位のこと)、クリヤー(浄化法)、バンダー(制御・締め付け)などの肉体的操作により、深い瞑想の条件となる強健で清浄な心身を作り出すヨーガです。

●ラージャ・ヨーガ~神を悟るための本格的なヨーガと言えます。根本教典はパタンジャリの『ヨーガ・スートラ』(紀元後2~4世紀)です。

●カルマ・ヨーガ~日常生活を修行の場ととらえ、善行に励みカルマの浄化を図るヨーガです。見返りを要求しない無私の奉仕精神をもって行います。カルマ・ヨーガの教典は『バガヴァッド・ギーター』です。

●バクティ・ヨーガ~神への純粋な信愛を培い、全てを神の愛と見て生きるヨーガです。古代に実在し、その後、神として崇められたクリシュナが開祖とされます。『バガヴァッド・ギーター』は、「バクティ・ヨーガ」や「カルマ・ヨーガ」の本質を歌っています。

⑬『西野流呼吸法』(西野皓三、講談社)

⑭『健心・健体呼吸法 釈迦が開発した集中力、閃き、健康の極意』(村木弘昌、祥伝社)

⑮『釈尊の呼吸法: 大安般守意経に学ぶ』(村木弘昌、柏樹社)

 丹田呼吸法は息を吸い込み、下腹部(「臍下丹田」)に力を込めてからゆっくりと息を吐き出す呼吸法で、強い腹圧を伴った呼吸型と言えます。自律神経のアンバランスを防ぎ、生体内における各種ホルモン系を調整し、その調和を保ち、すぐれた内臓の強化法でもあります。

⑯『粗食のすすめ』(幕内秀夫、新潮文庫)

 帯津三敬病院でがん患者などに食事指導をしている管理栄養士幕内秀夫が「粗食」を提唱し、反響を呼びました。

 ちなみに脳科学の観点から、次のようなことが有意味であると言います。

●早起き(生活時間のコントロール)~「脳」の機能を測定すると、明らかに午前中の方がレベルが高く、「早起き」をすると、心身が一番良く働く午前中に活動ができることを保証してくれるわけです。

●食事(きちんと栄養を摂る)~「脳」の重さは全体重のわずか2%に過ぎませんが、体全体のエネルギー消費量の約20%を消費するといいます。バランスの取れた「栄養」としては、「豆類、ゴマ類、ワカメ(海藻)類、野菜、魚、シイタケ(キノコ類)、イモ」の7品目が挙げられ、最初の字を取って「孫はやさしい」と覚えます。また、脳はエネルギー源としてブドウ糖しか使えませんが、このブドウ糖を摂取するのに一番なのが「米」であり、「米は脳のスーパー食」と言われているのです。

●読書~「脳」を使うための「環境」からの「栄養」です。実は「脳」の中で真っ先に老化するのは「前頭連合野」であり、これが衰えると、好奇心や創造力、柔軟性が減退するため、同じ行動を繰り返すようになり(固執傾向)、その結果、頑固となるわけです。

●ウォーキング~脳の中でも前頭連合野に最も多くの血液が送られていますが、この血流不足を解消するのに有効なのが「エアロビクス」(有酸素運動)であり、現時点でその効果が実証されているが「ウォーキング」です。これに対して、ジョギングは「脳内モルヒネ」を分泌するため、「ジョギング中毒」になることがあると言います。「脳内モルヒネ」によって、いわゆる「ランナーズ・ハイ」の状態になっているわけです。

●楽しいことに熱中すること

⑰『謎の拳法を求めて 武の人・松田隆智の足跡を辿る』(松田隆智、日貿出版)

⑱『少林拳と太極拳 中国武術』(松田隆智、新人物往来社)

⑲『日本卓球は中国に打ち勝つ』(宮崎義仁、祥伝社新書)



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第2章 人文科学

(1)文学

【概説】

①『世界の神話と伝説・総解説』(自由国民社)

②『世界文学の名作と主人公・総解説』(自由国民社)

③『世界の古典名著・総解説』(自由国民社)

④『世界文学小史』(山室静、現代教養文庫)

⑤『西洋文学入門』(本多顕彰、現代教養文庫)

⑥『世界文学全集別巻1 世界名詩集』(阿部知二・手塚富雄・大岡信他訳、河出書房)

⑦『ノーベル文学賞 作家とその時代』(柏倉康夫、丸善ライブラリー)

 ノーベル文学賞の最初の10年だけでも、トルストイ、ゾラ、マーク・トウェイン、イプセン、ゴーリキー、リルケらが漏れているのは問題視されています。文学賞を選出するスウェーデン・アカデミーによれば、トルストイの『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』は名作だが、同時にトルストイは文明とは無縁の原始的生活を賛美し、政府の存在を否定して無政府主義を唱え、聖書を勝手に書き直しているとされ、ヨーロッパが依って立つ規範や宗教に批判的な作家はなかなか受賞できなかったと言います。逆に、アイルランドの詩人イェイツが受賞した時ほど選考委員の見識の高さを示した例はまれ、ということも言われています。アジアで最初の受賞者になったタゴールに対しても、受賞理由は「タゴールは完璧な手法で、繊細で新鮮な美しい詩を生み出した。そしてそれを英語で表現することで、自分の詩的な思想を西洋文学の一部とした」ためとなっています。「日本文学」も当然、欧米語訳に恵まれ、欧米語圏で普及し、評価を得られたかどうかということが、その「文学的価値」以前に問題となってくるのです。ちなみに日本人初の受賞者たる川端康成が選出された経緯は次のようです。

「ノーベル文学賞の候補者リストに極東出身者の名前が初めて登場したのは、一九五〇年のことであった。それは日本の作家でなく、中国の哲学詩人林語堂であった。一九三八年度のノーベル賞受賞者であり、中国通として知られるパール・バックの推薦により、林語堂は候補者名簿にその名を連ねる資格を得たのであった。毛沢東の主権掌握以来、この詩人に関するうわさはもはや聞かれなくなってしまった。一九五八年には再びパール・バックによって、この名誉ある候補者に最初の日本人として、近代小説の巨匠、谷崎潤一郎が推薦された。この推薦は、一九六五年に谷崎がこの世を去るまで、幾度か西欧側からも日本側からも提出されたのであった。

 六〇年代に入ると、その当初から他の日本の作家たちが谷崎とはげしく競い合った。すなわち、感受性ゆたかな詩人であり、T・S・エリオットの翻訳者でもある日本文芸家協会推薦の西脇順三郎、日本ペンクラブから推薦されていたペンクラブの前会長川端康成、さらに小説家であり劇作家である三島由紀夫であった。三島は他の二人よりもはるかに若く、また西欧化されたところがあるにしても、最も嘱望されていた。谷崎の場合と同じように、川端、三島の作品は諸外国語に訳され、その名は広く西欧にも知られるようになっていたのである。」(ストレムベリィ)



【オリエント文学】

➀『古代エジプトの物語』(矢島文夫編、現代教養文庫)

②『図説 エジプトの「死者の書」』(村治笙子・片岸直美、河出書房新社)

③『シュメール神話集成』(杉勇・尾崎亨訳、ちくま学芸文庫)

④『ギルガメシュ叙事詩』(矢島文夫訳、ちくま学芸文庫)

⑤『メソポタミアの神話』(矢島文夫、ちくま学芸文庫)



【ギリシア・ローマ文学】

➀『ギリシア文学を学ぶ人のために』(松本仁助・岡道男・中務哲郎編、世界思想社)

②『ギリシア・ローマ古典文学案内』(高津春繁・斎藤忍随、岩波文庫)

③『知のカタログ ギリシア・ローマ古典』(マイケル・マクローン著、甲斐明子・大津哲子訳、創元社)

④『ギリシア神話 付・北欧神話』(山室静、現代教養文庫)

⑤『ギリシア神話 西欧文化の源流へ』(丹羽隆子、大修館書店)

⑥『ギリシア神話と英米文化』(新井明・新倉俊一・丹羽隆子共編、大修館書店)

⑦『イリアス』上下(ホメロス著、松平千秋訳、岩波文庫)

⑧『オデュッセイア』上下(ホメロス著、松平千秋訳、岩波文庫)

「ホメロスは全ギリシアを教育した。」(プラトン)

「ヨーロッパ文化の研究はホメロスの詩以後から始めるべきである。」(ロイド・ジョーンズ編『ギリシア人――その歴史と文化――』)

「『イーリアス』と『オデュッセイア』は、共に高度に発達した言語技巧を駆使して出来上がったものであって、その背後に長い長い叙事詩の伝統がひそんでいることは疑いがない。」(高津春繁・斎藤忍随『ギリシア・ローマ古典文学案内』)

⑨『アリストテレース詩学・ホラーティウス詩論』(松本仁助・岡道男訳、岩波文庫)

⑩『アレクサンドロス大王伝』(クルティウス・ルフス著、谷栄一郎・上村健二訳、京都大学学術出版会)

⑪『ローマ神話 西欧文化の源流から』(丹羽隆子、大修館書店)

⑫『ローマ神話の発生 ロムルスとレムスの物語』(松田治、現代教養文庫)

⑬『プルターク英雄伝』全12巻(プルターク著、河野与一訳、岩波文庫)

⑭『ラテン文学を学ぶ人のために』(松本仁助・岡道男・中務哲郎編、世界思想社)

⑮『ラテン文学史』(ピエール・グリマル著、藤井昇・松原秀一共訳、文庫クセジュ)

⑯『アエネーイス』(ウェルギリウス著、杉本正俊訳、新評論)

 ヨーロッパにおける教養の原点は、ギリシア神話から始まるギリシア・ローマの古典と言ってよいでしょう。



【中世ヨーロッパ文学】

➀『シャルルマーニュ伝説 中世の騎士ロマンス』(トマス・ブルフィンチ著、市場泰男訳、現代教養文庫)

②『中世騎士物語』(橋本倫介、現代教養文庫)

③『ケルト神話と中世騎士物語 「他界」への旅と冒険』(田中仁彦、中公新書)

④『ニーベルンゲンの歌』前篇・後編(石川栄作訳、ちくま文庫)



【ペルシア・アラビア文学】

➀『王書(シャー・ナーメ) ペルシア英雄叙事詩』(フィルドゥスィー著、黒柳恒男訳、東洋文庫)

②『バートン版 千夜一夜物語』全11巻(大場正史訳、ちくま文庫)

③『ルバイヤート』(オマル・ハイヤーム著、小川亮作訳、岩波文庫)



【インド文学】

➀『新訳 ラーマーヤナ』全7巻(ヴァールミーキ著、中村了昭訳、東洋文庫)

②『マハーバーラタ 原典訳』全8巻(上村勝彦訳、ちくま学芸文庫)

③『バガヴァッド・ギーター』(上村勝彦訳、岩波文庫)

④『シャクンタラー姫』(カーリダーサ著、辻直四郎訳、岩波文庫)

⑤『バーブル・ナーマ ムガル帝国創設者の回想録』全3巻(バーブル著、間野英二訳、東洋文庫)

⑥『ギタンジャリ』(R・タゴール著、森本達雄訳、レグルス文庫)

⑦『新装版 父が子に語る世界歴史』(ネルー著、大山聰訳、みすず書房)



【イタリア文学】

➀『ダンテ神曲』上下(永井豪、講談社漫画文庫)

②『ダンテ神曲物語』(野上素一、現代教養文庫)

③『世界文学全集Ⅲ―3 ダンテ 神曲』(平川祐弘訳、河出書房新社)

④『世界文学大系6 ダンテ 神曲・新生』(野上素一訳、筑摩書房)

⑤『ダンテ その華麗なる生涯』(野上素一、新潮選書)

⑥『人と思想 ダンテ』(野上素一、清水書院)

 世界文学の流れをざっと押さえれば、古代ではホメロスと詩篇、中世ではアウグスティヌスとダンテ、近世ではシェークスピアとミルトン、近代ではゲーテとシラー、現代ではドストエフスキーとトルストイがまず絶対に落とせないところでしょう。中でもダンテの『神曲』は、その壮大なスケールにおいて群を抜いており、後世に絶大な影響を与えました。

 ちなみに『神曲』天国篇では、天国の構造は次のようになっています。

●第一天(月天)~誓願を全うしなかった魂が住む。

●第二天(水星天)~活動的に善行をした魂が住む。

●第三天(金星天)~恋に燃えた魂が住む。

●第四天(太陽天)~知識人の魂が住む。トマス・アクィナスやボナヴェントゥラなど。

トマス・アクィナス~ドミニコ会修道士、パリ大学教授、スコラ哲学(神学)最大の神学者、『神学大全』。アリストテレス哲学を取り入れて教義を体系化し、信仰と理性の調和を図ろうとしました。「天使的博士」。

ボナヴェントゥラ~トマス・アクィナスと同時代の人物で、フランシスコ会学派を代表する人物の一人とされ、当代の二大神学者と並び称されました。「熾天使的博士」。

●第五天(火星天)~信仰のために戦った者の魂が住む。ヨシュアなど。

ヨシュア~ヘブライ人の指導者でモーセの後継者。モーセがカナーンを目前に没した後、人々を率いてヨルダン川を渡りイェリコを占領、ついで一帯の地を征服して12部族を定住させました。

●第六天(木星天)~地上で正義を行った者の魂が住む。ダヴィデなど。

ダヴィデ~羊飼いから身をおこして初代イスラエル王サウルに仕え、サウルがペリシテ人と戦って戦死した後にユダで王位に就くと、ペリシテ人を撃破し、要害の地エルサレムに都を置いて全イスラエルの王となり、40年間、王として君臨しました。伝統的に『詩篇』の作者の一人とされ、イスラーム教においてもノア、アブラハム、モーセ、ダヴィデ、イエス、ムハンマドが六大預言者として位置づけられています。

●第七天(土星天)~地上で黙想を行なった者の魂が住む。ベネディクトゥスなど。

ベネディクトゥス~モンテ=カシノに修道院を建設し、ベネディクト派修道会を興した「西欧修道制の父」。ベネディクトゥスが定めた戒律はその後の修道会の規範として大きな影響を与え、7世紀頃には、全ての修道院においてベネディクトゥス戒律を準拠することが定められました。

●第八天(恒星天・双子宮)~勝利に輝く魂が住む。ペテロなど。

ペテロ~元漁師で、イエスを洗礼した洗礼ヨハネの弟子だったのが、弟アンデレと共にイエスに「人を取る漁師にしてあげよう」と声をかけられ、イエスの第一弟子となります。イエスは「あなたはペテロ(石)である。そして、私はこの岩の上に私の教会を建てよう。…私は、あなたに天国の鍵を授けよう」と述べており、天国の鍵を授けられた人物として、後に初代ローマ教皇と仰がれます。ゲッセマネの園での祈りでは、同じ三弟子であるヤコブ・ヨハネと共にイエスに同行しますが、眠りに落ちてしまい、イエスが捕まった時には、イエスが最後の晩餐で「鶏が鳴く前に三度、私を知らないと言うであろう」と予言したごとく、イエスを三度否認して、その場を逃れます。イエスの十字架後、故郷のガリラヤ湖に戻って再び漁師になりますが、復活したイエスが湖面を歩いて来るのを見て、悔い改め、イエスのもとに馳せ参じます。後に皇帝ネロによりローマでの迫害が厳しくなった時、ローマから逃れてきたペテロが霊的イエスと出会い、「ドミネ・クォ・ヴァディス?」(主よ、いずこへ?)と問いかけますが、イエスが迫害のローマを逃れようとするペテロに代わってローマに行き、再び十字架にかかろうとするのを聞いて、ローマにそのまま戻り、殉教します。イエスと同じ十字架にかかっては申し訳ないからと、逆さはりつけになりました。

●第九天(原動天)~神と天使達が住む。

●第十天(至高天)~神と天使達と聖徒達が住む。

⑦『ペトラルカ ルネサンス書簡集』(ペトラルカ著、近藤恒一編訳、岩波文庫)

⑧『わが秘密』(ペトラルカ著、近藤恒一訳、岩波文庫)

⑨『デカメロン』上中下(ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫)



【イギリス文学】

➀『英文学を学ぶ人のために』(坂本完春編、世界思想社)

②『アルフレッド大王伝』(アッサー著、小田卓爾訳、中公文庫)

③『中世イギリス英雄叙事詩 ベーオウルフ』(忍足欣四郎訳、岩波文庫)

④『カンタベリー物語』上中下(チョーサー著、桝井迪夫訳、岩波文庫)

⑤『シェイクピアを学ぶ人のために』(今西雅章・尾崎寄春・齋藤衛編、世界思想社)

⑥『シェイクスピア物語』(チャールズ・ラム、メアリ・ラム著、矢川澄子訳、岩波少年文庫)

⑦『失楽園』上下(ミルトン著、平井正穂訳、岩波文庫)

 『失楽園』(Paradise Lost)は、ピューリタン文学の最高峰とされます。

「17世紀の詩人ジョン=ミルトンは、自分は『失楽園』の著者ではない、と言った。ミルトンは、寝ている間に天のミューズがその詩を自分に朗読した、と主張していた。朝目覚めると、完全に仕上がった叙事詩が頭の中にあり、自分の言葉を書き起こすべくペンを持った、一番近くにいる人物にそれを伝えるだけだったのである。目が覚めている時にミューズなしで書こうとすると、何も浮かんでこなかったのだった。」(ローラ・スミス)

⑧『天路歴程』正編・続編(ジョン・バニヤン著、池谷敏雄訳、新教出版社)

⑨『ロビンソン・クルーソー』(ダニエル・デフォー著、鈴木恵訳、新潮文庫)

⑩『クリスマス・キャロル』(ディケンズ著、越前敏弥訳、角川文庫)

⑪『幸福な王子』(オスカー・ワイルド著、西村孝次訳、新潮文庫)



【ドイツ文学】

➀『増補 ドイツ文学案内』(岩波文庫)

②『ドイツ文学を学ぶ人のために』(深見茂編、世界思想社)

③『ドイツ詩を学ぶ人のために』(内藤道雄編、世界思想社)

④『ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界』(阿部謹也、ちくま文庫)

⑤『いきいきと生きよ ゲーテに学ぶ』(手塚富雄、講談社現代新書)

⑥『まんがで読破 若きウェルテルの悩み』(ゲーテ、イーストプレス)

⑦『グリム兄弟』(高橋健二、新潮文庫)

⑧『トーマス・マンとドイツの時代』(小塩節、中公新書)



【フランス文学】

➀『増補 フランス文学案内』(岩波文庫)

②『フランス文学を学ぶ人のために』(田辺保編、世界思想社)

③『フランス中世文学を学ぶ人のために』(原野昇編、世界思想社)

④『ガルガンチュワとパンタグリュエル』全5巻(フランソワ・ラブレー著、宮下志朗訳、ちくま文庫)

 『ガルガンチュア物語』『パンタグリュエル物語』は「文芸復興の聖書」と呼ばれました。

「私(ガルガンチュア)はお前(パンタグリュエル)にいろいろな語学を完全に学ばせたいと思う。中でも先ずギリシャ語、次はラテン語だ。その次には聖書を読むためにヘブライ語を学ばなければならない。それから、カルディア語やアラビア語も学ばなければならない。ギリシャ語ではプラトンを模してお前の文体を作るがよい。そして、ラテン語はキケロに範を取れ。

 歴史は余す所なく記憶せよ。幾何や算術や音楽などの自由科については、私はお前が5、6歳の頃から多少授けた。それらについてはさらに深く研究し、出来れば他の自由科についても学ぶがよい。

天文学については、その全ての法則を研究せよ。しかし、占卜易断的な占星術は欺瞞・虚構以外の何物でもないから、不問に付せよ。国法については、その原文をすっかり暗記せよ。

 さて、自然界の知識については、綿密に調べて欲しい。魚類、鳥類、種々の灌木や喬木、あらゆる草花、様々の金属、数々の宝石、これら全ては1つとしてお前の知らない物が無いようにせよ。

 次にアラビア、及びラテンの優れた医学書を注意深く精読せよ。絶えず解剖を行い、小宇宙、すなわち人間についての完全な知識を獲得せよ。また、1日のうち、いくらかの時間は聖書の研究に当てるとよい。要するに、私はお前が底知れぬ知識の深淵となってくれるのを見たい。」(ラブレー)

⑤『パスカル伝』(田辺保、講談社学術文庫)

⑥『モンテーニュ よく生き、よく死ぬために』(保苅瑞穂、講談社学術文庫)



【ロシア文学】

➀『ロシヤ文学案内』(岩波文庫)

②『ドストエフスキー伝』(アンリ・トロワイヤ著、村上香住子訳、中公文庫)

③『罪と罰』上下(ドストエフスキー著、工藤精一郎訳、新潮文庫)

④『トルストイ民話集 人は何で生きるか 他四篇』(レフ・トルストイ著、中村白葉訳、岩波文庫)

⑤『トルストイ民話集 イワンの馬鹿 他八篇』(レフ・トルストイ著、中村白葉訳、岩波文庫)



【アメリカ文学】

➀『アメリカ文学を学ぶ人のために』(岩山太次郎編、世界思想社)

②『二〇世紀アメリカ文学を学ぶ人のために』(山下昇・渡辺克昭編、世界思想社)

③『オー・ヘンリー傑作集1 賢者の贈り物』(オー・ヘンリー 著、越前敏弥訳、角川文庫)

④『オー・ヘンリー傑作集2 最後のひと葉』(オー・ヘンリー 著、越前敏弥訳、角川文庫)



【中国文学】

➀『中国の古典名著総解説 中国4000年・知恵と話題の書・集大成!』(自由国民社)

 西洋人であればギリシア・ローマの古典の素養が、東洋人であれば中国古典・歴史の素養が、それぞれ重要な「教養」となっています。

②『中国文学を学ぶ人のために』(興膳宏編、世界思想社)

③『中国文章家列伝』(井波律子、岩波新書)

④『中国詩史』上・下(吉川幸次郎・高橋和巳、筑摩書房)

⑤『NHK漢詩紀行』(石川忠久監修、NHK取材グループ編、NHK出版)

⑥『漢詩への招待』(石川忠久、文春文庫)

 漢詩の伝統は次のようになります。

●先秦時代の北方『詩経』と南方『楚辞』~それぞれ黄河文明と長江文明の産物です。

●漢代の「賦」~司馬相如らが代表で、冗長なまでにあらゆる表現が駆使されます。

●魏晋南北朝の「詩」~四六駢儷文による詩形の洗練。「横槊(おうさく)の詩人」曹操、「田園詩人」陶淵明、「山水詩人」謝霊運。

●唐代における漢詩の完成~絶句・律詩などの詩形の確立。「詩仙」李白、「詩聖」杜甫、「詩仏」王維。特に王維に至って視覚・聴覚が駆使され、「維詰(まきつ、王維のこと)の詩を味わえば詩中に画有り、維詰の画を観れば画中に詩有り」(蘇軾)と評されました。総合芸術としての漢詩が確立します。

⑦『三国志演義』全4巻(羅漢中著、立間祥介訳、角川ソフィア文庫)

⑧『三国志』全8巻(久保田千太郎作、園田光慶画、講談社漫画文庫)

⑨『列仙伝・神仙伝』(劉向・葛洪著、沢田瑞穂訳、平凡社ライブラリー)

⑩『捜神記』(干宝著、竹田晃訳、平凡社ライブラリー)

⑪『唐代伝奇集』全2巻(前野直彬、東洋文庫)

⑫『長歌行』全8巻(夏達、ヤングジャンプコミックス)

⑬『完訳 西遊記』上中下(呉承恩著、村上知行訳、現代教養文庫)

⑭『西遊記』全10巻(呉承恩著、中野美代子訳、岩波文庫)

⑮『玄奘西域記』全4巻(諏訪緑、フラワーコミックス)

⑯『完訳 水滸伝』全10巻(施耐庵著、吉川幸次郎・清水茂訳、岩波文庫)

⑰『水滸伝』全7巻(久保田千太郎作、沼田清画、講談社漫画文庫)

⑱『明代短編小説選集 今古奇観』全5巻(抱甕老人著、千田九一・駒田信二訳、東洋文庫)

⑲『聊斎志異』上下(蒲松齢著、立間祥介訳、岩波文庫)

⑳『三体』全6巻(劉慈欣著、立原透耶監修、大森望・光吉さくら・ワン チャイ訳、ハヤカワ文庫SF)

 驚異的なスケールと構想を駆使した中国の最先端SFで、全世界累計発行部数は約3000万部、20か国以上の言語で翻訳されています。フェイスブックのザッカーバーグ、オバマ元大統領、映画監督のキャメロンらも熱烈な愛読者として知られています。



【朝鮮・韓国文学】

➀『朝鮮文学史』(卞宰洙、青木書店)

②『韓国の神話・伝説』(黄泪江著、宋貴英訳、東方書店)

③『物語 朝鮮詩歌史』(金允浩、彩流社)

④『韓国古典文学の愉しみ 上 春香伝 沈清伝』(仲村修編集、オリニ翻訳会

訳、白水社)

⑤『韓国古典文学の愉しみ 下 洪吉童伝 両班伝ほか』(仲村修編集、オリニ翻訳会

訳、白水社)

⑥『春香伝』(許南麒訳、岩波文庫)



【日本文学】

➀『日本の古典名著・総解説』(自由国民社)

②『日本文学の古典』(永積安明、岩波新書)

③『古典力』(齋藤孝、岩波新書)

④『ことばの歳時記』(山本健吉、角川ソフィア文庫)

⑤『万葉集を学ぶ人のために』(中西進編、世界思想社)

⑥『新古今和歌集を学ぶ人のために』(島津忠夫編、世界思想社)

⑦『和歌史を学ぶ人のために』(鈴木健一・鈴木宏子編、世界思想社)

⑧『恋愛名歌集』(萩原朔太郎、岩波文庫)

 平安王朝は軍事・国防・外交・法と治安の維持を放棄し、平安貴族の最大関心事は政治でも経済でもなく、和歌でした。『古今和歌集』序文にあるように、和歌の徳が重視されたのです。これは一種の言霊思想とも言えるでしょう。また、「和歌の前に平等」であるために、天皇も読み人知らずも同じく勅撰和歌集に載せられており、和歌によって昇進することもありました。恋路も和歌なくしては成り立たなかったのです。

 また、「和歌というものは、人間の心情をもととして、それが様々の言葉となって、表れたものである。この世の中に生きている人は、いろいろと出あう事件やする仕事が多いものであるから、それについて心に感じたことを見たり聞いたりするものに託して、言葉として表現したものである。花の咲く木に来て鳴く鶯の声や、水に住む河鹿(かじか)の鳴く声を聞くにつけても、全てこの世に生きているものは、何一つとして歌を詠まないものがあろうか、皆歌を詠むものだということが感じられる。別に力をも入れないで天地の神を感動させ、目に見えない鬼神をもしみじみと感じさせ、また男女の仲をも和合させ、勇猛な武士の心をも慰めるものは、歌である。」(『古今和歌集』仮名序)

「一つ一つの雲の形に名前をつける間もないうちに消え去ってしまうのを、『ああだこうだ』と言っていると、幼子が気づいて、『菫の花に似ているね』と言った。それを聞いて、私はすぐさま『菫の雲は消えにけるかな』と口ずさみ、続いて『こういう風に詠むのが、いつもお前に教えているあの歌なんだよ』と言うと、幼子は驚いて、そういう風に詠めば歌になるのかという顔つきをするのだが、それが何かを分かっているような様子なので、私は続けてこう言った。『お前が近頃読んでいる古今集の序に<見るもの聞くものにつけて言ひ出だせるなり(=見るもの聞くことに託して、言葉で表現したものである)>とあるのは、こういう歌を詠むことを言うのだよ。もっと試しに言ってごらん』と言うと、『雲が見ゆれば鐘も鳴るなり』と詠んだ。これはちょうど黒谷の日暮れの鐘が後方に聞こえたからである。私は彼をほめて、『そうそう、歌とはそういうものなんだよ』と言っているうちに、隣の垣根から薄い煙がこちらに向かって流れているのを見て、私は『雲と煙と見えにけるかな』と言って、『やはり、このように物に託して詠めないものはないのだよ』と言うと、幼子はそれを聞きつけて、『<立ちにけるかな>としたらどうかしら』と言った。これはまさにあの『あめ牛に突かれた』ということであった。『立ちにける』と言ったら理解できないだろうと思って平易な表現をしたために、かえって愚行を演じてしまったのである。」(香川景樹『桂園遺文』)

⑨『平安朝の文学と色彩』(伊原昭、中公新書)

⑩『王朝貴族物語』(山口博、講談社現代新書)

⑪『王朝文学』(中村真一郎、新潮文庫)

⑫『うつほ草紙』全5巻(諏訪緑、小学館)

⑬『蜻蛉日記』(柿本奨、角川ソフィア文庫)

⑭『随筆入門』(吉田精一、新潮文庫)

⑮『新講 源氏物語を学ぶ人のために』(高橋亨・久保朝孝編、世界思想社)

⑯『源氏物語の世界』(中村真一郎、新潮選書)

⑰『源氏物語と伊勢物語 王朝文学の恋愛関係』(島内景二、PHP新書)

 『源氏物語』は「世界最古の小説」と称され、「平安王朝文学の精華」と評価されていますが、そこに出てくる恋愛パターンは『伊勢物語』で取り上げられた題材を一歩も出ていないことを喝破しています。

⑱『中世王朝物語を学ぶ人のために』(大槻修・神野藤昭夫編、世界思想社)

⑲『中世から近世へ』(唐木順三、筑摩書房)

⑳『西行と定家』(安田章生、講談社現代新書)

㉑『室町記』(山崎正和、講談社文芸文庫)

㉒『月は東に 蕪村の夢 漱石の幻』(森本哲郎、新潮文庫)

 日本人の美的感性を再確認することができます。

㉓『文学フシギ帖―日本の文学百年を読む』(池内紀、岩波新書)

㉔『翻訳百年 外国文学と日本の近代』(原卓也・西永良成編集、大修館書店)

㉕『森鷗外 文化の翻訳者』(長島要一、岩波新書)

㉖『古典と現代文学』(山本健吉、講談社文芸文庫)

㉗『ビルマの竪琴』(竹山道雄、新潮文庫)

㉘『美しい日本の私』(川端康成、講談社現代新書)



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(2)哲学

【概説】

➀『精神史としての哲学史』(角田幸彦編、東信堂)

②『思想の歴史』全12巻(平凡社)

③『世界の人間論 八大思想に見る人間の探求』Ⅰ・Ⅱ(S・ラダクリシュナン、P・T・ラジュ著、勝部真長他編訳、学陽書房)

④『日常の思想』(梅原猛、集英社文庫)

⑤『哲学の使い方』(鷲田清一、岩波新書)

 「哲学」は一体何の役に立つのか、と言われますが、直接的・社会的に役に立つものではありません。しかし、「考えの枠組み」を示し、「概念」を提示しているので、「ものの見方・考え方」が深められ、世界観・社会観・歴史観から、ひいては自分の生き様に関わる人生観につながってくるのです。ちなみに成功者であるほど、明確でシンプルな「哲学」を持っているとされます。



【西洋哲学】

①『イラスト 西洋哲学史』(小阪修平、JICC出版局)

②『概説 西洋哲学史』(峰島旭雄編、ミネルヴァ書房)

「ギリシア哲学はしかしヨーロッパの哲学にとってつねに故郷であり、思想が単に宗教的信念や世界観を越えて学としての哲学に高まるとき、ギリシア哲学と対話し対決することが不可欠の精神的営為となってくる。」(角田幸彦『精神史としての哲学史』)

③『ソクラテス以前の哲学者』(廣川洋一、講談社学術文庫)

④『プラトンの学園 アカデメイア』(廣川洋一、講談社学術文庫)

⑤『プラトンの呪縛』(佐々木毅、講談社学術文庫)

⑥『世界の名著6 プラトンⅠ』(田中美知太郎、中央公論社)

⑦『世界の名著7 プラトンⅡ』(田中美知太郎、中央公論社)

「西洋の全ての哲学はプラトン哲学への脚注に過ぎない。」(ホワイトヘッド)

⑧『世界の名著8 アリストテレス』(田中美知太郎、中央公論社)

「人間は政治的動物である(人間はポリスにおいて初めて本性を完成させる動物である)。」(アリストテレス『政治学』)

⑨『世界の名著13 キケロ、エピクテトス、M・アウレリウス』(鹿野治助、中央公論社)

⑩『世界の名著14 アウグスティヌス』(山田晶、中央公論社)

⑫『アウグスティヌス』(宮谷宣史、講談社学術文庫)

⑬『世界の名著(続)5 トマス・アクィナス』(山田晶、中央公論社)

⑭『トマス・アクィナス』(稲垣良典、講談社学術文庫)

 神の「完全性」「全知全能性」にこだわったスコラ神学の矛盾は、中世だけにとどまるものではありません。ハルナックが「福音のヘレニズム化」と称したように、初期教会時代の「信仰的実存」から理性主義的傾向が強まっていき、「三位一体論」「キリスト論」論争でその傾向が決定的になり、「公会議」による「ニカイア・コンスタンティノポリス信条」「カルケドン信条」の確立は「正統」と「異端」の分岐点になりました。かくして中世スコラ神学の「信仰と理性の調和」に至るわけですが、こうした「神中心的理性主義」は本質的には「神」の名を掲げた「人間中心主義」であり、「良心」「直観」「常識」「愛」「情緒」といったものを圧するほどの力を持ちました。こうした傾向は中世カトリック時代のみならず、プロテスタント以後も再三現われたのです。例えば、魔女狩り、ファンダメンタリズムなどもその一例でしょう。

⑮『神秘主義を学ぶ人のために』(久野昭編、世界思想社)

⑯『世界の名著16 マキアヴェリ』(会田雄次、中央公論社)

⑰『世界の名著17 エラスムス、トマス・モア』(会田雄次、中央公論社)

⑱『世界の名著19 モンテーニュ』(荒木昭太郎、中央公論社)

⑲『世界の名著20 ベーコン』(福原麟太郎、中央公論社)

⑳『世界の名著22 デカルト』(野田又男、中央公論社)

㉑『世界の名著25 スピノザ、ライプニッツ』(下村寅太郎、中央公論社)

㉒『世界の名著29 ヴォルテール、ディドロ、ダランベール』(串田孫一、中央公論社)

㉓『世界の名著32 カント』(高坂正顕、中央公論社)

「汝の人格や他のあらゆる人格の内にある人間性を、いつも同時に目的として扱い、決して単に手段としてのみ扱わないように行為せよ。」(カント『道徳形而上学の基礎づけ』)

㉔『世界の名著35 ヘーゲル』(岩崎武雄、中央公論社)

 近世・近代哲学は「理性的自律」を中核に据え、ヒューマニズムが神と人を「分離」し、人間を「自立」させました。これは「神」の名・飾りも取り払った「人間中心的理性主義」と言ってもよいでしょう。ティリッヒは中世を「他律」の時代、近代を「自律」の時代と位置付けています。

 近代科学は神学・哲学を脱却し、神からも人からも独立した宇宙・自然の「客観的法則」の発見がテーマとなりました。神中心の神学とも人間の主観とも無関係な、物自体の客観的法則(自然法則)を追求する「自然中心的理性主義」=「自然科学」が成立しました。客観的法則には再現性・予測性があり、実験や観察によって「仮説」が検証出来るわけです。これは「社会科学」=「社会中心的理性主義」にも応用され、「社会的事実」(フェー・ソシアール。デュルケームによる)の探究・解明が進められたのです。

㉕『ヨーロッパの個人主義』(西尾幹二、講談社現代新書)



【東洋思想】

➀『中国の古典名著 中国4000年・知恵と話題の書・集大成』(自由国民社)

②『中国思想を学ぶ人のために』(森三樹三郎、世界思想社)

③『中国思想史』上下(森三樹三郎、レグルス文庫)

④『中国思想』(宇野哲人、講談社学術文庫)

⑤『中国哲学史』(狩野直喜、岩波書店)

⑥『世界の名著64 孫文、毛沢東』(小野川秀美、中央公論社)

 「人格神」との「人格的交わり」は東洋で育まれ、「人類は一家、世界は皆兄弟姉妹」といった家庭的・家族的価値観も生じやすいのです。西洋では「神と人との断絶」「絶対なる神と塵芥に等しい人間」という神観・人間観が強く、峻烈な「正義」観が形成されやすいのですが、本来的にはユダヤ教・キリスト教・イスラーム教も同じ神を信じる「三兄弟」(長男・次男・三男)みたいなものなのです。



【日本思想】

➀『世界宗教史叢書11 日本宗教史Ⅰ』(笠原一男編、山川出版社)

②『世界宗教史叢書12 日本宗教史Ⅱ』(笠原一男編、山川出版社)

③『日本人の意識構造』(会田雄次、講談社現代新書)

④『江戸の思想家たち』上下(相良亨・松本三之助・源了圓編)

⑤『徳川思想小史』(源了圓、中公新書)

⑥『実学思想の系譜』(源了圓、講談社学術文庫)

⑦『日本の反知性主義』(内田樹編、晶文社)

⑧『デザインの哲学は必要か』(古賀徹編、武蔵野美術大学出版局)



【現代思想】

➀『世界の名著(続)10 ショーペンハウアー』(西尾幹二、中央公論社)

②『世界の名著39 ダーウィン』(今西錦司、中央公論社)

③『世界の名著40 キルケゴール』(桝田啓三郎、中央公論社)

④『世界の名著46 ニーチェ』(手塚富雄、中央公論社)

⑤『世界の名著51 ブレンターノ、フッサール』(細谷恒夫、中央公論社)

⑥『世界の名著53 ベルクソン』(澤瀉久敬、中央公論社)

⑦『世界の名著58 ホワイトヘッド、ラッセル、ウィトゲンシュタイン』(山元一郎、中央公論社)

⑧『世界の名著(続)13 ヤスパース、マルセル』(山本信、中央公論社)

⑨『世界の名著62 ハイデガー』(原佑、中央公論社)

⑩『世界の名著59 マリノフスキー、レヴィ=ストロース』(泉靖一、中央公論社)

⑪『プラグマティズムを学ぶ人のために』(加賀裕郎・高頭直樹・新茂之編、世界思想社)

⑫『プラグマティズムの作法 閉塞感を打ち破る思考の習慣』(藤井聡、技術評論社)

⑬『神を殺した男 ダーウィン革命と世紀末』(丹治愛、講談社選書メチエ)

 ある意味では、ダーウィンは現代思想の中の唯物無神論的系譜の原点であると言えるでしょう。もう一方の極である有神論的実存主義の原点はキェルケゴールです。ここからニーチェ、フロイト、マルクスが現われて強力な思想を提示し、さらにハイデッガー、サルトル、レヴィ=ストロース、フロム、ライヒ、マルクーゼ、レーニン、スターリン、毛沢東らが発展・社会化を推進していきました。ダーウィニズムについては、基本的理解をしておく必要があるでしょう。

⑭『キェルケゴールを学ぶ人のために』(大屋憲一・細谷昌司編、世界思想社)

⑮『アメリカン・マインドの終焉 文化と教育の危機』(アラン・ブルーム著、菅野盾樹訳、みすず書房)

⑯『現代情念論』(中村雄二郎、講談社学術文庫)

⑰『現代思想臨時増刊総特集 現代思想の109人』(青土社)

⑱『はじめての構造主義』(橋爪代三郎、講談社現代新書)

⑲『寝ながら学べる構造主義』(内田樹、文春新書)

 現代思想の転換点となった構造主義は記号論を源流とし、ニーチェ、フロイト、マルクスを流れを汲んでいますが、1つのものの見方としては示唆的であるとはいえ、人生観にはなりません。実際、構造主義・ポスト構造主義の思想家達の末路はあまりよくありません。これ以後、「哲学の終焉」という状況になってきました。

⑳『わかりたいあなたのための現代思想・入門 サルトルからデリダ、ドゥルーズまで、知の最前線の完全見取図!』(別冊宝島44 JICC出版局)

㉑『面白いほどよくわかる現代思想のすべて 人間の<知>の可能性と構想力を探る』(湯浅赳男、日本文芸社)



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(3)宗教学

【概論】

➀『世界の宗教と経典・総解説』(自由国民社)

②『宗教学を学ぶ人のために』(石田慶和・薗田坦編、世界思想社)

③『宗教社会学を学ぶ人のために』(井上順孝編、世界思想社)

④『日本人のための宗教原論』(小室直樹、徳間書店)

 ユダヤ・キリスト教的「契約思想」は「革命思想」を生みます。なぜなら、「神との契約が変われば、当然、社会法則(政治法則、経済法則も含む)は変わる」と考えられるからです。ユダヤ人マルクスの「革命思想」もユダヤ教的なのです。さらにマルクス主義にはカルヴァン的な「予定説」もあり、「選民思想」も含んでいますので、戦闘的な「唯物無神論」がユダヤ・キリスト教的伝統の中から生まれてきたことがよく分かります。

「パウロは、人間の外面的行動(行為)と内面的行動(内心)とを峻別した。

 ユダヤ教、イスラム教における法律と戒律の一致とは全く異なる、この内外の峻別があればこそ、キリスト教はローマ帝国下で生き延びることができることになった。さもなくば、キリスト教は弾圧の前に、あえなく消え去っていたであろう。

 人間の内外の峻別は、後世、近代デモクラシー発祥の前提となった。近代デモクラシーはいくつかの自由が確保されることによって成立する。これらの諸自由のなかでも、一番大切なのが良心の自由(信仰の自由)である。良心の自由が確保されれば、その他の諸自由は次々と成立してくる。これは歴史が示すとおりである。しかし、根本である良心の自由が確立されていないことには、他の諸自由は、根本がゆらいでいるので根無し草になりかねない。これまた歴史の証明しているところである。

 また、資本主義の精神(The Spirit of Capitalism, Der Geist des Kapitalismus)が生成され、発育してゆくためにも、人間行動の内外が峻別されていることが肝要である。人間の内外が峻別され、外面の行動から人間の内面の自由(良心)が切り離されていれば、いかなる宗教の下においても資本主義的な目的合理的行動は成立しうる。プロテスタントでもカトリックでも、はたまたあるいは……日本教であっても、目的合理的行動は構成されうるのである。

 このように、パウロによる人間行動における内外の峻別は、ローマ帝国において世界宗教としてのキリスト教の発展の基を築いただけではない。右に論じたように、歴史的に見ても後世に大きな影響を及ぼすことにもなった。」(小室直樹『日本人のための宗教原論』)

「キリスト教の本質として、物事の倫理規範は人間の外面ではなく内面にあるとしている。内面において、労働は救済だと念じて行うかどうかが大事なのであり、その結果は問われない。秘蹟や免罪符をルターが否定したのは、内面的な動機と関係なしに、儀礼によって救済されるとしたからで、金を取った、という結果を責めているわけではない。

 この内面的、外面的という二分法的思考法が、キリスト教と資本主義を語るうえでのキーポイントである。

 パウロはキリスト教において最重要人物の一人であるが、最大の功績は、人間の内面と外面は全く違うということ、すなわち、内面と外面の二分法を明らかにしたことである。パウロのこの大独創がなければ、キリスト教は世界宗教たりえないどころか、生き残ることすらできなかったと、マックス・ヴェーバーはいっている。

 原始キリスト教は、ローマの法律に反するとの理由で大弾圧を被った。生き残るためにパウロが採った方策が、この二分法である。ローマの市民は、外面的にはローマの法律どおりに行動し、内面においてはキリスト教徒たれ、と人間の内面と外面、すなわち信仰と行動を峻別した。

 キリスト教には法も規範もないので、こういう側面を元々持っているのだが、特に強調して誰でもわかる形で解説したのがパウロである。それゆえに、キリスト教はパウロ教だともいわれている。

 キリスト教が資本主義を生み出す原動力になった理由は、まさにこの二分法にある。

 キリスト教では、この二分法によって、信仰と人間の行動を全く別個にしているため、信仰を変えることなく、外面的行動を変えることができた。

 資本主義を成立させるための、法律、規範、人々の行動様式(エトス)は、すべてこの外面的行動だけを規制している。例えば、資本主義国の「憲法」は「良心の自由」を確実に保証し、国家権力や、それ以外の権力が人間の内面に侵入することを絶対に拒否している。このゆえに、宗教の自由は確保されているのである。

 しかし、イスラム教のように人間の内面と外面が密接に絡みあっているような宗教ではこうはいかない。イスラム法が資本主義と矛盾したときにはどうなる。イスラム法が優先されれば、資本主義の法律は機能しなくなるかもしれない。現に、トルコにおいてはケマル・アタチュルク以前のイスラム法で、一日に五回もの拝礼を要求していた。これでは、資本主義の活動は著しく阻害される。

 また、「イン・シャー・アッラー(アッラーの思し召しによって)」という思想は、資本主義的約束不履行のための慣用句のように、資本主義諸国ビジネスマンには思われているだろう。

 人間同士の契約が絶対でなければ、資本主義は機能しえない。ビジネスの場で、「イン・シャー・アッラー」が資本主義法に優先されれば、商品と資本は流通しなくなり、企業は動けなくなる。

 このように、資本主義とデモクラシーと近代法とが成立し、機能するためには、パウロ的な、人間の外面と内面、行動と内心とを峻別する二分法がどうしても必要だったのである。

 欧米諸国の真似をして近代法を作っても、キリスト教的な法律やキリスト教的な政治制度は、イスラム法と衝突して動かなくなってしまう。

 まさにこのことが、中世を制覇したイスラム教が資本主義全盛の現代社会で遅れをとった理由なのである。」(小室直樹『日本人のための宗教原論』)

⑤『世界の宗教と民族紛争』(ひろさちや監修、主婦と生活社)

⑥『真宗二十二派七十五学者述 真実の宗教』(福原亮厳編、永田文昌堂)

「親鸞自身を始め(曇鸞も道綽、善導、法然いずれも)明治に至るまで(大乗経典が)釈尊に全く関係ない経典群であった事を知る由も無かった。疑念を持つ必要もなかった。知る必要もなかった。大乗経典は悉く釈迦直説と信じていたからである。…

 私が安住から一躍奈落のどん底に落ち、悩み続けた動機は、大学へ入って教授から大乗経典は悉く釈尊の直説ではない、世尊滅後紀元前一~二世紀から最終的に成立した親近密教に至る一千余年間に、それも名もなき法師と言われる人々によって、創作された言わば文芸作品であった、(と教えられたことである)次に仏教は無霊魂説である、三には釈尊に或る比丘が未来浄土の有無について尋ねた時、そう言う仮説は無記で答えられた。つまり無言の態度を取られた。そうした事によって、私は幼児から育て上げられた阿弥陀信仰は、足下から崩壊し奈落のどん底に落ち苦しみ出した。ああ大学に入らねばよかった、聞かねばよかった、教授が講義した内容は間違っていた、実は在ると言って呉れればよいが、そうであって欲しい、教授達に聞いて廻ったが、誰も真剣に答えて呉れなかった。併しそれが事実とするなら如何しよう、納得今まで通り平穏安住の境涯にもどれるであろうか。そこで釈尊直説とされる阿含の経典群と取り組んだ。私には解決への糸口は見い出せなかった。…又それ以来現在まで、トップと言われる学者達のアミダ仏や浄土に関する著書を可能な限り蒐集し、真剣に読み漁ったが、例外なく何れも従来から説かれて来たお噺がらみで、真理に体当りした学説はなく、納得出来るものは一つも無かった。苦節四〇年に及ぶ。」(釋雄顕~浄土真宗寺院の次男に生まれ、現在、浄土真宗系教団に属する学僧)

⑦『死後の世界の観光案内 天国へ昇るか地獄へ落ちるか!あなたが選ぶ七つのコース』(ひろさちや、ゴマビジュアル)

⑧『宗教と科学の接点』(河合隼雄、岩波現代文庫)

「人間のたましいに関する研究を通じて、心理療法の在り方が根本的に変わってきた。フロイトの考えによれば、治療者は明確な理論と技法によって、患者の症状の「原因」を探り、その原因に対する何らかの対処の方法を見出してゆくのであった。しかし、治療者は人間の「たましい」を扱っていると自覚するかぎり、彼は原因結果の因果的連鎖のなかにおいて、その症状を理解しようとするのではなく、たましいのはたらきの不思議に身をゆだねることが大切となってくる。患者はおそらく、自らのたましいのはたらきをどこかで歪ませているのであろう。従って、治療者は患者のたましいが自然にはたらく場を提供すること、そこに生じる現象を注意深く見守ることが大切である。人間の心とか身体とか、心のなかのどこか一部に焦点をあてるのではない。たましいに注目するということは、人間の全存在に対して開かれた態度で接することである。」(河合隼雄『宗教と科学の接点』)



【ユダヤ教】

➀『世界宗教史叢書4 ユダヤ教史』(石田友雄、山川出版社)

②『聖書に隠された日本・ユダヤ封印の古代史 失われた10部族の謎』(ラビ・マーヴィン・トケイヤー著、久保有政訳、徳間書店)

③『聖書に隠された日本・ユダヤ封印の古代史2 仏教・景教編』(久保有政、ケン・ジョセフ、徳間書店)

④『ユダヤ解読のキーワード』(滝川義人、新潮選書)

 イエスはモーセの十戒の「殺してはならない」という戒めについて、実際に殺さなくても、他者に対して腹を立てれば、それは人を殺したのと同じになると述べ、律法を真に内面化することが本来の信仰のあり方だとしました。「姦淫をしてはならない」という戒めについても、行為をしなければ罪にならないのではなく、内面が問題だとしました。これが「外的規範の内的規範化」であり、キリスト教が世界化する一因となりました。日本文化においても、仏教の戒律(外的規範)をどんどん骨抜きにして肉食妻帯したり、本来先祖崇拝の宗教であった儒教を学問・教育として受容したりしていますが、食物タブーなどの強固な外的規範を持つユダヤ教・イスラーム教が入りにくいのに対して、内的規範が主のキリスト教は受容しやすかった面もあります。



【キリスト教】

➀『聖書の世界・総解説』(自由国民社)

②『聖書の常識 聖書の真実 日本人は「旧約・新約」を誤解している』(山本七平、講談社+α文庫)

「話を民主主義に戻せば、ヨーロッパやアメリカでロックの社会契約説が広く受け容れられたというのは、こうした聖書の文化が欧米に根付いていたからに他なりません。

 すなわち、「神との契約は絶対に守るべきものである」という概念が、聖書を通じて教えられていたからこそ、欧米の人たちは人間同士が結ぶ契約についても、やはり同じように守らなければならないと考えたというわけです。

 また、聖書においてモーゼに与えられた律法などを見て、「契約とは言葉で定義するものだ」という考えを持つようになった。

 企業同士が契約書を交わす際に、とても読み切れないほど詳細な規定を設けるというのも、その模範は聖書に書いてあるというわけです。

 こうした聖書の文化が根底にあるからこそ、欧米人は人間関係を結ぶ際にも、まず契約を作ろうと考えるようになった。そしてまた、国家と人民の間でも憲法という契約を作ることにした。

 聖書に書かれている神と人間との契約は、言うなれば「タテの契約」ですが、それを人間対人間の「ヨコの契約」に応用しようと考えた。

 中世の騎士たちが、王と契約を結ぶことにしたのも、聖書というお手本があったからなのです。

 ちなみに、17世紀初頭にアメリカ大陸に移住したピルグリムたちもまた、アメリカに渡る船の中で契約書を交わしています。

 いわゆる「ピルグリム・コンパクト」と呼ばれるものですが、この契約において、最初の植民者たちは新天地アメリカでのルールを定めたというわけですが、これなどは、まさに社会契約の元祖とも言うべきものでしょう。」(小室直樹『日本人のための憲法原論』)

③『聖書 新改訳』(日本聖書刊行会)

④『新約聖書外典』(荒井献編、講談社学芸文庫)

⑤『キリスト教を学ぶ人のために』(武藤一雄・平石善司編、世界思想社)

⑥『基督教全史』(E・E・ケァンズ、聖書図書)

⑦『キリスト教思想史入門』(金子晴男、日本基督教団出版局)

⑧『世界宗教史叢書1 キリスト教史Ⅰ』(半田元夫・今野國雄、山川出版社)

⑨『世界宗教史叢書2 キリスト教史Ⅱ』(半田元夫・今野國雄、山川出版社)

⑩『世界宗教史叢書3 キリスト教史Ⅲ』(森安達也、山川出版社)

●三位一体論~父なる神・子なるイエス・聖霊は一体であるという考え。アタナシウス派が唱え、325年のニカイア公会議で正統な教義と認められました。これに疑義を唱えたアリウス派は異端とされ、ローマ帝国周辺のゲルマン民族に布教していきました。三位一体説には、イエス自身がゲッセマネの祈りで神に痛切祈祷を捧げているように、「神が自分自身に祈るのか」といった問題や、神が十字架につくという「天父受苦説」といった問題がありますが、これは「罪人を救えるのは全知全能である神のみ」という贖罪論的要請から生まれたもので、イエス自身の言説にあるものではありません。ニカイア公会議で採択され、コンスタンティノポリス公会議で修正されたものをニカイア・コンスタンティノポリス信条と言います。

●キリスト論~三位一体論によってイエス=神という図式が確立され、さらにイエスにおいて神性と人性はどのように統合されているのかというキリスト論の問題が起こり、カルケドン公会議において、イエスにおいて神性と人性は一体不可分というカルケドン信条が採択されました。ちなみに、エフェソス公会議でもキリスト論が問題となり、イエスにおける神性と人性を分離し、マリアを「神の母」ではなく、「人の母」としたネストリウス派が異端とされたので、ネストリウス派はシリアから東方に伝わり、唐代中国に至って景教(秦教)と呼ばれるようになり、大秦景教流行中国碑(大秦=ローマ)に記録されているように、祆教(けんきょう、ゾロアスター教、拝火教)、摩尼教(マニ教、明教)と共に西方伝来の三夷教として栄えます。かくして、このニカイア・コンスタンティノポリス信条とカルケドン信条を受け入れるものが正統、疑義をさしはさむのが異端とされてきました。キリスト教における正統か異端かは、実はイエスの言説に合致するかどうかではなく、宗教会議で神学的に決定されてきたのです。

⑪『聖マラキ・悪魔の預言書 法王庁不出の謎の秘伝書』〈ダニエル・レジュ、二見書房〉

⑫『世界の名著16 ルター』(松田智雄、中央公論社)

⑬『世界の名著24 パスカル』(前田陽一、中央公論社)

⑭『近代文化の構造 キリスト教と近代』(中村勝己、講談社学術文庫)

⑮『ギリシア正教』(高橋保行、講談社学術文庫)

 東方教会の伝統はローマ、第二のローマであるコンスタンティノープル(コンスタンティノポリス、ビザンチウム、現在のイスタンブル)に次ぐ第三のローマとしてモスクワを位置づけ、東ローマ帝国を継承したモスクワ大公国により、ロシア正教に受け継がれています。ロシア正教にはローマ・カトリックの制度的信仰ともプロテスタントの倫理性とも違う、素朴で情緒的な信仰があり、トルストイの童話やドストエフスキーの内面をえぐるような作品にもロシア正教の世界が伺えます。

 日本ではなじみが薄いようですが、明治維新以後、プロテスタントと共にロシア正教が浸透し、ローマ・カトリック、プロテスタントに次ぐ第三教派を形成しました。ローマ・カトリックが典礼問題を起こして、その排他的独善性が問題になったのに対し、ロシア正教は鐘が無ければ寺の梵鐘を使い、乳香が無ければ線香を使うなどして、キリスト教の定着という点で画期的な成果を収めました。また、トルストイやドストエフスキーの小説を通して、文学から知識人に浸透したという特徴もあります。与謝野晶子が日露戦争で戦地に向かった弟に対する思いを歌った詩「君死に給ふことなかれ」も、トルストイが英紙「タイムズ」に発表した日露戦争批判の長大な論文への「返歌」だとされます。

 しかしながら、世界初の共産主義革命であるロシア革命により、ロシアからの人的供給が絶え、日本におけるロシア正教の勢力は激減します。



【イスラーム教】

➀『世界の名著15 コーラン』(藤本勝次、中央公論社)

②『世界宗教史叢書5 イスラム教史』(島田襄平、山川出版社)

③『新書イスラームの世界史① 都市の文明イスラーム』(佐藤次高・鈴木董編、講談社現代新書)

④『新書イスラームの世界史② パクス・イスラミカ』(鈴木董編、講談社現代新書)

⑤『新書イスラームの世界史③ イスラーム復興はなるか』(坂本勉・鈴木董編、講談社現代新書)

⑥『イスラームとは何か』(小杉泰、講談社現代新書)

 イスラーム教徒(ムスリム)にとって「六信五行」は基本的義務であり、「六信」とは神・天使・啓典・預言者・来世・天命の6つを信じることで、「五行」とは信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼の行いをすることです。これに対して、キリスト教徒にとっては内面的な「信仰」のみが問題とされ、外面的行動に対する「規範」が無いのです。

 ちなみにユダヤ教徒・キリスト教徒はこの「六信」を受け入れるはずで、イスラーム教の観点からすればユダヤ教徒・キリスト教徒は信仰的には全員ムスリムということになりますつまり、「五行」という生活実践にまでは至っていない段階とみなしているのです。イスラーム教ではアダム・ノア・アブラハム・モーセ・イエス・ムハンマドが六大預言者として位置づけられ、自らを「最後の預言者」と位置づけたムハンマドは先行するユダヤ教・キリスト教を実によく研究していたとされます。

 また、イスラーム教では徹底した平等主義を取っており、聖職者階級はありません。こうした神の前に国王も乞食も等しく同じという平等主義は、伝統的身分制差別が激しい国(カースト制のあるインドなど)にイスラーム教が浸透する要因ともなりました。

⑦『日本人のためのイスラム原論』(小室直樹、集英社インターナショナル)

 学問、文化、商業などほとんど全ての分野において、イスラーム圏はヨーロッパを凌駕していましたが、「近代ヨーロッパ」の出現によって、立場は完全に逆転しました。しかし、「近代ヨーロッパ」がその特徴として持つ「近代国家」「近代法」「近代民主主義」「近代資本主義」のいずれもイスラーム教になじまないのです。

 「伝統主義」社会では「永遠の昨日」が今も生き続けています。例えばイスラーム社会では、アッラーが預言者ムハンマドに語った日の如く、イスラーム法が民衆の心をしっかりとつかんで離さないのです。そして、イスラーム社会のみならず、「持続の帝国」中国も、「封建制と資本主義と社会主義の混交経済」とされる日本でも、「伝統主義」の力は無視出来ないのです。したがって、こうした伝統主義の変革がイスラーム社会、中国、日本などでは大きなカギを握ると言えるでしょう。

「イスラム諸国は、ヨーロッパ先進国を手本にして、いくたびも近代化を試みた。しかし、そのたびに失敗を繰り返した。

 失敗の理由は、近代化の改革において徹底を欠くからである。ヨーロッパの近代資本主義、憲法はじめ近代法、代議政体はじめ近代政治制度などは、すべてキリスト教文明が産み出したものである。ゆえに、近代化を徹底させるためには、イスラムの諸制度をキリスト教化しなければならない。キリスト教が生んだ諸制度と同型(isomorphic)なものに大改造しなければならないのである。

 この諸制度のキリスト教化という大手術は、無宗教国家である日本のような国ならばできる。が、イスラム教国では、諸制度のキリスト教化は途方もなく困難、あるいは不可能である。なぜなら、イスラム教国においては、法律も社会倫理、道徳もすべて宗教に由来する。経済も社会・政治の諸制度も、宗教と分かちがたく絡みあっているのである。

 ゆえに、諸制度のみをキリスト教的に改造することは絶望的に困難である。」(小室直樹『日本人のための宗教原論』)

⑧『イスラムの法 法源と理論』(アブドル=ワッハーブ・ハッラーフ著、中村廣治郎訳、東京大学出版会)



【仏教】

➀『仏教経典の世界・総解説』(自由国民社)

 いずれもダイジェスト版で、概略をつかんだり、調べものをするのに便利です。

②『世界宗教史叢書7 仏教史Ⅰ』(奈良康明、山川出版社)

③『世界宗教史叢書8 仏教史Ⅱ』(玉城康四郎、山川出版社)

④『インド・中国・日本 仏教通史』(平川彰、春秋社)

⑤『世界の名著1 バラモン教典、原始仏典』(長尾雅人、中央公論社)

⑥『世界の名著2 大乗仏典』(長尾雅人、中央公論社)

⑦『阿含経』(友松圓諦、大東出版社)

⑧『原初経典 阿含経』(増谷文雄、筑摩書房)

⑨『般若心経講話』(鎌田茂雄、講談社学術文庫)

⑩『天台思想入門』(鎌田茂雄、講談社学術文庫)

⑪『華厳の思想』(鎌田茂雄、講談社学術文庫)

⑫『華厳経物語』(鎌田茂雄、大法輪閣)

⑬『維摩経講話』(鎌田茂雄、講談社学術文庫)

⑭『玄奘三蔵 西域・インド紀行』(慧立・彦悰、長澤和俊訳、講談社学術文庫)

⑮『世界の名著(続)3 禅語録』(柳田聖山、中央公論社)

⑯『中国の禅』(鎌田茂雄、講談社学術文庫)

⑰『東洋叢書① 朝鮮仏教史』(鎌田茂雄、東京大学出版会)

⑱『日本仏教思想史』(大野達之助、吉川弘文館)

⑲『日本仏教史 思想史としてのアプローチ』(末木文美士、新潮文庫)

⑳『日本の名著2 聖徳太子』(中村元責任編集、中央公論社)

㉑『行基の時代』(金達寿、朝日新聞社)

㉒『曼荼羅の人 空海求法伝』上・下(陳舜臣、TBSブリタニカ)

㉓『徳一と最澄 もう一つの正統仏教』(高橋富雄、中公新書)

㉔『八宗綱要』(凝然大徳、鎌田茂雄全訳注、講談社学術文庫)

㉕『元亨釈書』(虎関師錬、今浜通隆訳、教育社新書)

㉖『名僧列伝(一) 明恵・道元・夢窓・一休・沢庵』(紀野一義、講談社学術文庫)

㉗『名僧列伝(二) 良寛・盤珪・鈴木・正三・白隠』(紀野一義、講談社学術文庫)

㉘『Books Esoterica3 禅の本 無と空の境地に遊ぶ悟りの世界』(学研)

㉙『はじめての禅』(竹村牧男、講談社現代新書)



【ヒンドゥー教】

➀『世界宗教史叢書6 ヒンドゥー教史』(中村元、山川出版社)

②『Books Esoterica12 ヒンドゥー教の本 インド神話が語る宇宙的覚醒への道』(学研)



【儒教】

➀『世界宗教史叢書10 儒教史』(戸川芳郎・蜂屋邦夫・溝口雄三、山川出版社)

②『孔子』(金谷治、講談社学術文庫)

③『孔子』全3巻(講談社漫画文庫)

④『世界の名著3 孔子・孟子』(貝塚茂樹、中央公論社)

⑤『世界の名著(続)4 朱子、王陽明』(荒木見悟、中央公論社)

⑥『イエズス会士中国書簡集』(矢沢利彦編訳、東洋文庫)

⑦『中国思想のフランス西漸』(後藤末雄、東洋文庫)

⑧『清代学術概論 中国のルネッサンス』(梁啓超、東洋文庫)

 儒教は周代の周公旦による礼学思想、春秋戦国時代の孔子・孟子の儒家思想、漢代の馬融・鄭玄による訓詁学、宋代の宋学・朱子学、明代の明学・陽明学、清代の黄宗羲・顧炎武らによる考証学と変遷し、発展していきました。これはイエズス会士らによってフランスをはじめとするヨーロッパに伝えられ、モンテスキューやヴォルテールらに多大な影響を及ぼします。そして、変法運動を推進した春秋公羊学派の康有為の弟子に当たる梁啓超は当代一級の学者であり、こうした学術・思想をものの見事にまとめ上げています。



【道教】

➀『世界宗教史叢書9 道教史』(窪徳忠、山川出版社)

②『老荘思想を学ぶ人のために』(加地伸行編、世界思想社)

③『老子』(金谷治、講談社学術文庫)

④『老子・荘子』(森三樹三郎、講談社学術文庫)

⑤『世界の名著4 老子・荘子』(小川環樹、中央公論社)

⑥『丹 TAN』(金正彬著、武田嵩元訳、八幡書店)

 儒教が男性原理、家庭・社会原理であるとすれば、道教は女性原理、自然・世界原理であり、両者は補完的関係にありました。道教は老荘思想、養生法、民間信仰をベースにして成立したものですが、不老長寿を目指したり、仏教の受け皿の役目を果たしたり、武道にも通じる気功法が発達したりするなど、歴史の中で見逃せない働きを示してきました。なお、東洋では教養人であれば、仏教・儒教・道教の三教に通じているのが普通で、これを「三教一致」と言いますが、一種の「東洋のエキュメニカル運動(超教派・超宗教運動)」と言ってもよい伝統でしょう。



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(4)心理学

➀『〈意識〉とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯誤』(下條信輔、講談社現代新書)

②『無意識と精神分析』(ジャン・ポール・シャリエ著、岸田秀訳、せりか書房)

③『意識は実在しない――心・知覚・自由』(河野哲也、講談社選書メチエ)

④『自己成長の基礎知識① 深層心理学』(R・フレイジャー、J・ファディマン著、吉福伸逸訳、春秋社)

⑤『自己成長の基礎知識② 身体・意識・行動・人間性の心理学』(R・フレイジャー、J・ファディマン著、吉福伸逸訳、春秋社)

⑥『自己成長の基礎知識③ 東洋の心理学』(R・フレイジャー、J・ファディマン著、星川淳訳、春秋社)

●第一の心理学=精神分析学~マイナスからゼロへのアプローチ

●第二の心理学=行動主義心理学~動物としての人間観

●第三の心理学=人間性心理学~ゼロからプラスへのアプローチ

●第四の心理学=トランスパーソナル心理学~限りなく100を目指す超越的心理学

⑦『フロイト その思想と生涯』(ラッシェル・ベイカー著、宮城音弥訳、講談社現代新書)

⑧『フロイト』(小此木啓吾、講談社学術文庫)

⑨『フロイト』(アンソニー・ストー著、鈴木晶訳、講談社選書メチエ)

⑩『世界の名著49 フロイト』(懸田克躬、中央公論社)

⑪『フロイト以後』(鈴木晶、講談社現代新書)

 フロイト思想は極端な所もありますが、彼に始まる精神分析学の与えた影響は甚大です。東洋思想でこれに匹敵するもの(ある意味では上回るもの)と言えば、唯識思想(これは仏教思想の頂点なので超難解です)ぐらいでしょう。

⑫『世界の名著(続)14 ユング、フロム』(懸田克躬、中央公論社)

⑬『ユングとキリスト教』(湯浅泰雄、講談社学術文庫)

 ユングは日本では非常に好まれてり、日本は世界でも有名なユング研究大国です。

⑭『性格の本』(別冊宝島編集部編、宝島文庫)

⑮『エニアグラム入門 性格の9タイプとその改善』(P・H・オリアリー、M・ビーシング、R・J・ノゴセック著,堀口委希子・鈴木秀子訳、春秋社)

⑯『増補改訂版 性格のタイプ 自己発見のためのエニアグラム』(ドン・リチャード・リソ、ラス ハドソン著、橋村令助訳、春秋社)

⑰『性格タイプの分析 エニアグラムの実践ガイド』(ドン・リチャード・リソ著、橋村令助・俵晶子訳、春秋社)

⑱『性格タイプの見分け方 エニアグラム・タイプ質問表』(ドン・リチャード・リソ著、橋村令助・田中きよみ訳、春秋社)

⑲『エニアグラム進化論 グルジエフを超えて』(前田樹子、春秋社)

⑳『性格タイプの分析』(ドン・リチャード・リソ、春秋社)

 心理学で日本人好みの分野は、深層心理学、人間性心理学、性格類型学などが挙げられますが、特に性格類型学の分野での新しい動きとして、エニアグラムの出現が挙げられるでしょう。これは南米出身のオスカー・イチャーゾに始まり、イエズス会が独自に育み、さらに心理学・精神医学・統計学で洗練していった新しいタイプ論ですが、日本エニアグラム学会も組織され、ユニークな潮流を作り出しています。

㉑『運命心理学入門 ソンディ・テストの理論と実際』(佐竹隆三、黎明書房)

 ソンディはハンガリー出身のユダヤ人精神科医で、フロイトの個人的無意識、ユングの集合的無意識の間を埋めるものとして家族的無意識に注目し、衝動心理学・運命心理学・運命分析学を創始しました。無意識の欲求や衝動を明らかにするためのソンディ・テストでも知られています。ソンディは人間がどのような振る舞いをしても回避することの出来ない決定論的な運命を強制運命と呼び、人間が決定論に抗う自由意志によって克服することが可能な可変的な運命を自由運命と呼んでいます。ソンディは自らの体験を元に、ドストエフスキーなどの遺伝的家系研究をふまえ、個人の無意識の中に抑圧されている祖先の欲求が、恋愛、友情、職業、疾病、および死亡における無意識的選択行動によって運命を決定していることを示していますが、これはまさに「親の因果が子に報い」的な仏教的因果応報論を裏付けるような心理学だと言えるでしょう。

 ソンディが最初にそのことに注目したのは、ソンディがまだブタペストの高等学校を卒業して間もない頃、ブタペストの大学に入学する以前、ドストエフスキーに没頭していたことに始まります。『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』などを読み進むうち、彼には次のような疑問がわいて来たといいます。すなわち、ドストエフスキーは何故、「殺人者」を主人公に選ぶのか、ということです。そして、ソンディはその答えとして、「ドストエフスキーの心の中には、殺人者と同じ欲求が潜伏しているのではないか」と考えたのでした。

 彼はドストエフスキーの家系を調べて行き、その家系に殺人者や、一見それとは正反対に見える、宗教家をも見出したのですが、そこからさらに髪や眼や肌の色や鼻やあごの形や足の長さなど、形質の遺伝ばかりでなく、「欲求」にも遺伝があり得るのではないか、との考えを持つに至ったのでした。

 そして、この考えは従軍の後、ブタペスト大学からウィーン大学に移り、ワーグナー・ヤウレッグ教授の下で精神医学を学び、実際の症例に基づいて、詳しい家系研究に携わる頃には確信に近いものになったというのです。「衝動」の集合である「心」は、「家族的無意識」の遺伝として先天的に形成されるものであるとする立場に立つと、ある家族においては「運命」もまた繰り返されるということになります。そして、いろいろな世代において何回も何回も似たような恋愛の相手や結婚の相手、似たような職業、似たような死に方さえも無意識に選ばれるのかも知れないのです。

 これにはソンディ自身にも「原体験」があり、23歳の頃、軍医中尉だった彼がわずかな休暇を利用してウィーン大学で熱心に心理学の聴講していた時、初恋の女性と巡り会い、彼女と是非結婚したいと思って、何とか休暇をもう少し延ばそうとしていたそうです。彼女は語学教師をしており、ブロンド髪のアーリアン系美人で、ザクセン出身でしたが、ある夜、彼の両親が彼の異母兄の悲惨な運命について、悲しげに語り合っているという夢を見て、ソンディは衝撃を受けることとなります。ちなみにソンディは異母兄の死の3年後に生まれています。実は以前に彼の異母兄は彼と同じようにウィーン大学で医学を勉強しており、これまた同じようにブロンド髪のアーリアン系美人で、ザクセン出身の語学教師の女性を愛してしまったのです。彼の異母兄はその女性と結婚しましたが、結局、医師国家試験の受験を断念しなければならなくなり、結婚は完全に失敗で、悲惨と言ってもよかったと言います。この時、ソンディは「これは偶然の暗号ではない!自分は無意識のうちにこの異母兄の運命を反復しようとしているのだ!」と直感し、強い意志と理性を働かせて断ち難い愛着を断ち切り、直ちにウィーンを去ったのでした。

㉒『唯識のすすめ 仏教の深層心理学入門』(岡野守也、NHK出版)

㉓『唯識の心理学』(岡野守也、青土社)

㉔『認識と超越<唯識>』(服部正明、上山春平、角川文庫ソフィア)

 「深層意識」の中にキリスト教的「神性」「原罪」、仏教的「仏性」「業」、儒教的「本性」、ユング的「元型」などが存在し、「潜在意識」の中にフロイト的「抑圧」「トラウマ」、「ウォンツ」などが存在し、「表層意識」の中に「自我意識」「ニーズ」「嗜好性」などが存在していると思われます。自覚的な「私」(表層意識)は10%にも満たず、氷山の一角であるといいます。

 仏教において、初期大乗の中心思想「空」を体得するため、深層意識を本格的に分析したのが中期大乗の「唯識思想」で、理論的には「阿頼耶識」思想と「如来蔵」思想の二本柱からなります。「阿頼耶識」思想は人間の「矛盾性」「罪性」の分析から生まれたもので、儒教で言えば「性悪説」の精緻な分析です。「如来蔵」思想は人間の「本性」「仏性」「神性」の分析から生まれたもので、儒教で言えば「性善説」の精緻な分析です。やがて、この両者は中期大乗の『楞伽経』(りょうがきょう)で融合・統合され、儒教で言えば「性善・性悪説」となるのですが、さらに「瑜伽」(ゆが、ヨーガ)実践の見地から『瑜伽師地論』(ゆがしっちろん)において修行過程が編成され、「唯識思想」の誕生となります。

 これにより大乗仏教の根本的再編成が行われ、その実践的側面は続く後期大乗・密教によってさらに強化されることとなりました。

㉕『スーパー・ネイチャア』(ライアル・ワトソン著、牧野賢治訳、蒼樹書房)

㉖『スーパー・ネイチャアⅡ』(ライアル・ワトソン著、内田美恵・中の恵津子訳、日本教文社)

「コロラド大学のニコラス・シードは、ハツカネズミの脳を取り出し、それを処理してバラバラな細胞にした。彼はこれらを試験管内の培養液中に入れ、数日間、静かに振り動かした。すると最後に分離した細胞は再び集合し、脳の小片を形成したが、そこでは細胞が正常なシナプスでつながり、正常の生化学的反応を示し、自然の髄鞘を発達させていた。

 どういうわけか、細胞は元のパターンを再構成することが出来る。細胞は分子記憶を持っており、分子記憶が一つの細胞から別の細胞へと伝えられるので、新しい細胞が親細胞の行動を再現出来るのである。変化、つまり突然変異が生じると、これもまた子孫に忠実に複製される。死んだものが時間を無視して再び生き返るのである。生命の循環のパターンは、物質は決して滅びず、後日、再現するために系に戻って来ることを意味している。生物は再生の過程で同じ行動パターンを持った同じ形態を生じる。」(ライアル・ワトソン『スーパーネイチャア』)

㉗『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』(岡田尊司、光文社新書)

㉘『パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか』(岡田尊司)

㉙『カウンセリングを学ぶ人のために』(播磨俊子・佐藤眞子・澤田瑞也編、世界思想社)

 カウンセリングの3大原則は「傾聴・受容・共感」ですが、これは人間関係の基本であるとも言えます。



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(5)教育学

➀『0歳児がことばを獲得するとき 行動学からのアプローチ』(正高信男、中公新書)

②『幼児教育と脳』(澤口俊之著、文春新書)

③『非行の火種は3歳に始まる 親が泣かない25の鉄則』(相部和男、PHP文庫)

④『問題児は問題の親がつくる すこやかな子に育てる20の提言』(相部和男、PHP文庫)

 これらは衝撃の書です。筆者は少年院法務教官、保護観察官などを歴任し、少年院で1万人以上の非行少年少女達の矯正教育に携わってきた人物で、その実体験に裏打ちされた識見には圧倒されます(子供を持つ親はまず間違いなく打ちのめされます)。教育に関心がある人、教育分野に進む人は必読の文献と言えるでしょう。

「教育は、こどもに裏切られたときが、こどもの心をつかむ最大のチャンスなのである。

 このとき、教育者自身がとり乱してはならない。三度裏切られ、五度裏切られても、なおかつこどもの中に宿る善なる本性のみをみつめ得る人でなければ、非行少年の味方になることはできないであろう。愛には限りない忍耐が必要とされる。しかし、叱りたいけれどもがまんするのであってはほんものではない。自然に叱らなくなる心境にならなければ、問題児の再教育は困難である。

   急いではいけない!

   構えてもいけない!

   待つことだ!

   祈ることだ!

 これはあるケースワーカーの言葉である。」(相部和男『非行の火種は3歳に始まる 親が泣かない25の鉄則』)

⑤『人にはなぜ教育が必要なのか』(小室直樹・色摩力夫、総合法令)

⑥『人をつくる教育 国をつくる教育』(小室直樹・大越俊夫、日新報道)

⑦『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』(小室直樹、ワック出版)

 犯罪の低年齢化が顕著になってきており、少年法の議論が活発になった結果、厳罰化の方向に改正されました。いわゆる「人権」と「特権」の区別、「アノミー」と「病気」の区別、「父親の内在化による超自我の形成」と「法律による強制」など、重要であるにもかかわらず、理解があいまいになっている視点・概念について有益な情報をもたらしてくれます。

⑥『教職のための教育史 西洋編』(溝口貞彦、東研出版)

⑦『西洋教育通史』(皇至道、玉川大学出版部)

⑧『教育思想史』(中野光・志村鏡一郎編、有斐閣新書)

「ヒトの赤ちゃんは本来よりも生理的早産の状態で、この世に生まれて来ている。」(ポルトマン『人間はどこまで動物か』)

「植物は恐らくひとりでに成長し、全然実を結ばないか、野生の実を結ぶ。馬はたとえ役に立たないとしても、この世に生まれて来る。しかし、人間は人間として生まれて来るのではなく、人間に形造られるのだ。」(エラスムス『幼児教育論』)

「人間は教育されなければならない唯一の被造物である。」(カント「教育学講義」)

「生活が陶冶する。」(ペスタロッチ『白鳥の歌』)

「教育の最大の秘訣は教育しないことである。」(エレン・ケイ『児童の世紀』)

「なすことによって学ぶ。」(Learning by Doing)(デューイ『学校と社会』)

⑨『ユダヤ人はなぜ優秀か その特性とユダヤ教』(手島佑郎、サイマル出版会)

 ユダヤ人の持つ伝統の中で、恐らく最も参考になるのは「教育」の伝統でしょう。著者は日本人で初めてヘブライ文学博士となった人物で、この本によって一躍有名となりました。ユダヤの研究をする人で、この本を読まない人はいないでしょう。ユダヤ人は2000万人前後で、日本人の6分の1しかいないにもかかわらず、ノーベル賞の5人に1人はユダヤ人であると言われますが、その優秀さの秘密がまさに教育にあることがよく分かります。

「普通のユダヤ人の中にも、旧約聖書全部をヘブライ語で朗々と暗誦できる者が少なくない。タルムード学者の中には、あの膨大なタルムードを全巻暗記している者さえいる。彼らは明らかにリズムと朗詠によって膨大な量のテキストを頭脳にプリントしたのだ。だから、記憶の糸をたぐる時には、適当な章句の区切りから暗誦し始めて、お目当ての特定の句や文が出てくるまで聖書なりタルムードなりを唱詠し続ける。こういう芸当のできる者が二、三人もいれば、聖書が手もとになくても、正確なテキストがいつも入手できる。

 私の恩師へシェル博士も、そういう卓越した記憶力の持ち主だった。ある時、弟子の一人が非常に貴重な本を持ってきた。相次ぐ迫害のためにユダヤ教の多くの典籍が失われてきたが、その中から残った数少ない貴重本だったのである。ブルックリンの古本屋はそれを譲ってくれと申し出た。イーストサイドの本屋は、それを写真に撮って再版しようと持ちかけてきた。へシェル博士は、その本を弟子から二、三日借り受けた。そして読み終わると、『いや、どうも有難う。もう全部頭にはいったよ』と、先生は丁寧に礼を言った。彼にはその本を所有することも複写することも必要なかったのだ。」(手島佑郎『ユダヤ人はなぜ優秀か その特性とユダヤ教』)

「ルリエ氏は今ではエルサレムに大邸宅を構えている富豪だ。彼が一六歳になった時、父親は彼をロンドン留学に出した。出発に際して、父親は息子に百ポンドを留学費用として渡しながら、こう言った。『いいかね、これが君の留学を賄う全費用だ。ただし、留学中にこの百ポンドを使ってしまわないことだ。四年後に君が帰ってくる時には、そっくり百ポンド返してくれ

 ルリエ少年はどうしたであろうか。彼はロンドンに着いて、しばらくあれこれと名案を考えた。やがて彼はその金の一部を投資して株に手を出した。四年後にロンドン大学経済学部を卒業する時には、彼はもう株式市場の専門家になっていた。」(手島佑郎『ユダヤ人はなぜ優秀か』)

⑩『ギリシア人の教育 教養とは何か』(廣川洋一、岩波新書)

 教養の基本である自由七科は、「言語」に関する基礎知識「三学」(文法・論理・修辞学)と「自然」に関する学問「四科」(天文学・算術・幾何学・音楽)からなっており、これが「教養」の中心となります。

「我々は人間と呼ばれている。だが、我々のうち、人間性にふさわしい学芸によって教養を身に付けた人々だけが人間なのだ。」(キケロ)

⑪『古代アレクサンドリア図書館 よみがえる知の宝庫』(モスタファ・エル=アヴァディ著、松本慎二訳、中公新書)

 古代ギリシアは「学校」「教師」の発祥地であり、プラトンのアカデメイアとイソクラテスの修辞学校が学校のルーツであり、ソフィストが金を取って授業をする教師のはしりでした。その遺産は最後の古代ギリシア世界であるエジプト・アレクサンドリアに受け継がれていました。最終的にはイスラームによって滅ぼされます。

⑫『適塾と松下村塾 凡才を英才に変えた二大私塾の教育法』(奈良本辰也、高野澄、NON BOOK)

⑬『吉田松陰』(池田諭、大和書房)

 日本で注目すべき教育機関としては、やはり幕末の私塾を挙げなければなりません。人材輩出という点から見て、これらは驚異的な存在でした。中でもイデオローグを育て、倒幕の人材を輩出した松下村塾、テクノクラートを育て、近代化の人材を輩出した適塾の教育方法は、知っておいて損はありません。

⑭『現代教育学シリーズ10 世界の学校』(沖原豊編、有信堂)

⑮『世界の学校 グローバル化する教育と学校生活のリアル』(二宮晧、学事出版)

⑯『教科書から見た世界の教育〈第1〉 世界の道徳教育』(唐沢富太郎、中央公論社)

 アメリカの小学校の教室正面に掲揚されている星条旗に対して、小学生は毎朝、授業が始まる前に起立して敬礼し、右手を胸に当てながら次の忠誠宣誓を行います。

「私はアメリカ合衆国の国旗に対して、並びにそれが代表する共和国、すなわち神の下にあり、不可分にして、万人のための自由と正義を有する1つの国家に対して忠誠を誓います。」

 また、アメリカの音楽の教科書には次のような歌が載っています。

「私の国よ。お前は自由な美しい国だ。私はお前を歌おう。祖先の人々が眠っている国と。ピルグリムの誇りの国と。」

「我が祖国アメリカ、美しき自由の国、その栄光を我は歌う。・・・我らが祖国、聖なる自由の光をもって永久に栄えあれ。偉大なる我らが主なる神よ、我らを守れ。」

⑰『ことばを鍛えるイギリスの学校 国語教育で何ができるか』(山本麻子、岩波書店)

⑱『パブリック・スクール 英国式受験とエリート』(竹内洋、講談社現代新書)

「ウォータールーの勝利はイートンの校庭で得られた。」(ナポレオンの軍隊を破ったウェリントン)

⑲『日本の教育 ドイツの教育』(西尾幹二、新潮選書)

⑳『フランス産エリートはなぜ凄いのか』(橘木俊詔、中公新書)

「2014年から15年にかけて『21世紀の資本』が飛ぶように売れた。原書のフランス語版は1000ページを超え、日本語版も700ページを超える大著にもかかわらず、である。その著者トマ・ピケティはフランスを代表する知性ともてはやされ、将来のノーベル経済学賞候補という呼び声も高い。

 ピケティは、18歳で名門グランゼコールのエコール・ノルマル・シュペリウール(ENS、高等師範学校)に入学し、22歳の若さで博士号を取得。アメリカの名門大学MIT(マサチューセッツ工科大学)で教え始めた。彼の早熟な才能を開花させることにおいて、フランスのエリート主義が果たした役割は小さくない。

 そう、ピケティの経歴が象徴しているように、フランスほどエリート主義や学力中心主義を徹底している大国はないのだ。

 世界を席巻するアングロサクソンにも、イギリスのオックスブリッジ(オックスフォード大学とケンブリッジ大学)やアメリカのハーバード大学といった名門校はある。だが、それら以上にエリート主義をフランスは徹底しているのである。その結果、フランスの高等教育はENS出身のピケティのみならず、エコール・ポリテクニク(理工科学校)出身の経営者カルロス・ゴーンや、エコール・ナショナル・ダドミニストラシオン(ENA、国立行政学院)出身の政治家シラク、ジスカール・デスタン、そして現大統領のオランド(注、2012年~17年)らの逸材を輩出し続けているのである。…

 例えば、ENAは卒業生全員が中央官庁に進む。学校自らエリートの養成を前面に出しており、社会の側もそのエリート主義を公認しているのだ。

 では、なぜフランスでは、エリート主義が生まれたのだろうか?

 それは、隣国ドイツの存在が大きい。ビスマルクやヒトラーらが率いるドイツから常に脅かされてきたため、教育によって人材を育成し、強国をつくって対抗しようという社会的合意があったのだ。ポリテクニクをつくったのはナポレオンであるが、そのことからも、軍事的文脈で官僚が求められた歴史的背景がうかがえよう。

 また、フランスは小説、音楽、絵画、そして学問を大切にする文化大国であることも大きいだろう。日本では「ガリ勉猛者」や「ひ弱な文弱の徒」は軽視される風潮があるが、フランスにおいては学歴エリートは文化エリートと同様に人々から尊敬されているのである。

 もっとも、フランスの学歴エリートは日本で言う「学校秀才」とは同一視できない面がある。

 フランスでは知識の詰め込みや暗記よりも、哲学や数学といった論理・思考能力が重視されているのだ。特に哲学に関しては、日本の高等学校においてはほとんど授業が行われていないといっていいが、フランスではバカロレア試験(高等学校卒業資格ないし大学入学資格試験)の初日に哲学の試験が課されるほどである。そして、このバカロレアの哲学で一等を取った論文は、高級紙『ル・モンド』に掲載される習わしがある。それほど哲学の優秀者は社会的に高い評価を受けているのである。

 哲学というと日本では文系のイメージが強い。だが、フランスのエリートにおいては理工系の素養も大切である。理工系の重視も、フランスの特徴として強調しておきたい。…

 フランスでは、例えばカルロス・ゴーンは先ほどエコール・ポリテクニク(理工科学校)出身と触れたが、同時にパリ鉱業学校の出身でもある。伝統的に鉱業学校の威信が高いのだ。

 やや誇張すると、フランスは「技術者王国」なのである。」(橘木俊詔『フランス産エリートはなぜ凄いのか』)

㉑『アメリカ 最強のエリート教育』(釣島平三郎、講談社+α新書)

「アメリカのエリートは勉強をあまりしなくても断然よくでき、先生が困るほどの天才肌の人が多い。クリントン元大統領のようなスポーツ音痴の例外もあるが、勉強だけでなくスポーツも万能なことが当然のエリート条件であった。頭がよいだけでなく、リーダーシップが強く存在感のある人が多かった。

 個性が強烈で、ビル・ゲイツが小さいときからコンピューターの天才であったように何か他人と違う一芸に秀でた人が多く、日本の勉強がよくできた秀才とは違っている。

 彼らは確固たる倫理観や宗教観をもっており、教養がにじみ出ており、なによりも品格がある。

 本業の仕事の他に杖に社会奉仕の精神が旺盛で、最近欧米で流行の企業の社会的責任=CSR(Corporate Social Responsibility)は、彼らがいい出したのではないかと思う。いざという時のノーブレス・オブリージュも身についている。

 一方で逆境や苦境に強く、自分が不利になっても信念を曲げない強さがあり、大衆迎合ではなく、一般大衆の不興を気にせず強いリーダーシップを発揮する。」(釣島平三郎『アメリカ 最強のエリート教育』)

㉒『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』(岩竹美加子、新潮新書)

「フィンランドでは、教育の無償と平等が強調される。人は、決して平等には生まれてこないし、平等は実現することのない理想かもしれない。しかし、だからこそ、国が平等で無償の教育を提供する。貧富、性別、宗教、年齢、居住地、民族、性的指向などの違いによって差別されることのない、等しい出発点を一人一人に保証する。そうした違いのために教育を受けられなかったり、断念したり、差別されたりする事がないよう、教育の平等を保障、一人ひとりの充足度を高めていくことが出発点である。」(岩竹美加子『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』)

㉓『格差と貧困のないデンマーク』(千葉忠夫、PHP新書)

「デンマークに住んでいて日本を思うと疑問に感じることがあります。それは、なぜ誰もが高校に進学しなくてはいけないのかということです。高校は高等教育を必要とする人が受ければいいと思うのです。

 日本の高校への進学の一般化は、「高校くらい卒業していなければ……」という考えが社会全体にあるからです。しかし、高校とは誰もが進学できる場所ではありません。そのことに誰も気がつかないのです。

 もしかしたら気づいているのかもしれませんが、高校を卒業しないと就職ができない。だから「高校くらいは出ておけ」になるのかもしれません。

 日常生活で必要な数学は、足し算、引き算、かけ算、割り算、パーセンテージくらいです。微分や積分、三角関数というものは、日常生活には不必要です。それらの数学を必要とする人は、測量士、エンジニア、建築士……、そういう職業になりたい人が学べばいいのです。

 デンマークでは高等学校へは、将来高等学校の教育を基盤にして、さらに上級学校へ進む人のみが進学します。上級学校、つまり大学へ進学する理由は、「将来自分がなりたい職業が大学を卒業しなければなれない」からです。

 将来の目的や希望を叶えるために高等学校、大学への道をたどるのです。

 一方、美容師になりたい、自動車の整備士になりたい、料理人になりたいという人は、国民学校(日本の小・中学校)を卒業後、自分がなりたい職業の専門教育を受けられる職業別専門学校へと進みます。そこでだいたい三年間の専門教育を受け、技術を身につけるのです。」(千葉忠夫『格差と貧困のないデンマーク』)

㉔『学びへの挑戦 学習困難児の教育を原点にして』(小笠毅、新評論)

 心身にハンディがある子供のための「遠山真学宿」(東京都武蔵野市)の主宰者と講師が、日本の社会と教育制度のあり方を問い直し、スウェーデンの教育制度や「子供の権利条約」を丁寧に読み解いています。障害の有無に関係なく、誰もが地域の学校に通う「統合教育」へ、さらに不登校児やストレート・チルドレンなども含め、全ての子供達の学ぶ権利を保障する「インクルージョン(混在)」教育へという世界的な流れを紹介し、それらをふまえての「20人学級」の実現、教育内容と授業時間を削減する新しい学習指導要領に対する批判などの提言を行っています。

 ちなみに、障害を持つ子供が健常児と一緒に学校教育を受けるインクルージョン(包括教育)は、多くの国で重要な政策目標となっており、OECD(経済協力開発機構)もインクルージョンが教育を受ける子供達全体に等しく利益をもたらすと結論づけています。

㉕『「学力」の経済学』(中室牧子、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

㉖『子どもの脳を傷つける親たち』(友田明美、NHK出版新書)

㉗『いじめとは何か 教室の問題、社会の問題』(森田洋司、中公新書)

㉘『ハーバードでいちばん人気の国・日本 なぜ世界最高の知性はこの国に魅了されるのか』(佐藤智恵、PHP新書)

㉙『ハーバードの日本人論』(佐藤智恵、中公新書ラクレ)

㉚『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(佐藤智恵、日本経済新聞出版)

㉛『なぜ日本人は、一瞬でおつりの計算ができるのか』(川口マーン惠美、PHP研究所)

「中国と韓国の母親たちは子供の勉強、学力に対する執着度が相当高く、いつでもどこでも『一等』をとらねばならず、他人に負けてはならないという『第一主義』、絶対的期待が強い。反面、日本の母親たちは学力や勉強よりも日常生活の習慣、とくに公衆道徳、礼儀礼節、独立能力の育成に力を注ぐといえる。」(金文学『日本人・中国人・韓国人―新東洋三国比較文化論』) 



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(6)美学・芸術論

➀『美学を学ぶ人のために』(吉岡健二郎編、世界思想社)

②『年表要説 西洋の美術』(坂崎乙郎・野村太郎共編、現代教養文庫)

 ルネサンス時代に解剖生理学や遠近法などを駆使した「リアリズム」による第1次美術革命が生じました。さらに印象派の登場によって、前期は絵具の開発により屋外で「光」をふんだんに取り入れることにより、後期は写真の影響から、「心の眼」に映った「心象風景」を描くことにより、第2次美術革命が生じました。

③『世界の都市の物語13 フィレンツェ』(若桑みどり、文藝春秋)

④『世界の名著続15 近代の芸術論』(中央公論社)

⑤『音楽の聴き方 聴く型と趣味を語る言葉』(岡田暁生、中公新書)

⑥『西洋音楽史 「クラシック」の黄昏』(岡田暁生、中公新書)

⑦『音楽のヨーロッパ史』(上尾信也、講談社現代新書)

⑧『バロック音楽』(皆川達夫、講談社現代新書)

 音楽は美術に比べてやや遅れますが、ルネサンス期にポリフォニー(多声音楽)が生じ、通奏低音の考え方が発達してバロック時代にホモフォニー(和声音楽、主旋律+伴奏)へ移行します。いわゆるコード理論(和声理論)の誕生です。さらにルネサンス期に鍵盤音楽やリュート音楽ではリチェルカーレ、ティエント、トッカータ、合奏音楽ではカンツォン、ソナタといった形式が生まれ、バロック音楽におけるオルガン、チェンバロやヴァイオリンなどの器楽の隆盛のきっかけとなります。かくして「音楽の父」バッハ、「音楽の母」ヘンデルが登場します。さらに古典派に至って楽器の性能が向上し、音楽の場が宮廷や劇場から市民へと広がった結果、「交響曲の父」ハイドン、「神童」モーツァルト、「楽聖」ベートーヴェンらが出て来ます。

「すべての芸術の中でもっとも神に近いものは、もちろん音楽である。ギリシアで芸術の霊感を与える女神は『ムーサイ』(単数はムーサ。英語ではMuseミューズ)と呼ばれた。この名前からmusic、museum(美術館)という英語が生まれている。」(ピーター・ミルワード『英語の名句・名言』)

⑨『J・S・バッハ』(宇野功芳、講談社現代新書)

⑩『バッハ 生涯と作品』(ヴェルナー・フェーリクス著、杉山好訳、講談社学術文庫)

⑪『クラシックのあゆみ①バロック/古典派の音楽 バッハからベートーヴェンまで』(岩井宏之、音楽之友社)

⑫『クラシックのあゆみ②前期ロマン派の音楽 シューベルトからリストまで』(岩井宏之、音楽之友社)

⑬『オーケストラ楽器別人間学』(茂木大輔、新潮文庫)

●ヴァイオリン~陰影に富んだユニバーサルな人。奏者をそつのない、誰に接しても常に人当たりのいい、常識のある、安定した人格に導く。奏者は忍耐と客観性に長け、仮面をつけて集団に同化することのできる匿名性を身につけていく。

●ヴィオラ~しぶとく、しぶとく、「待ち」に強い。奏者に包容力、余裕、寛容といった人間的に愛すべき性格をもたらし、ややスロースターターな、自己充足的で幸福な人間に変化させる。やや大ざっぱで、競争心などの少ない、温和な性格。

●チェロ~包容力とバランス感覚に優れた、ゆらぎのない人間性。奏者を正々堂々たる、表裏のない誠実な性格に導く。

●コントラバス~泰然自若、唯我独尊。奏者に年齢不詳の奇妙な落ち着きと、もの静かな印象を与え、自己アピール、競争、独善などとは無縁の、きわめて余裕のある、健全で誠実で楽観的な精神状態に導く。

●ハープ~夢見がちな深窓の令嬢。奏者はおしなべて素直で、夢見るような性格になっていき、ストレスの少ない、ややのんびりとした、満ち足りた人間像へと導かれる。

●フルート~冷たさも軽みも備えた貴族的エリート。人当たりがよく、やや優柔不断。冷静で客観性を伴った学者肌の性格。ストレスが少なく、開放的で大変に口説の達者な、頭の回転の速い人物を作り出す。忍耐強さ、長期的展望などは育たない。

●オーボエ~ストレスに苦しみ、くよくよと細かい?奏者から鷹揚さや余裕を奪い、常に緊迫したぎりぎりの場所で生きているかのような、切羽詰った雰囲気を与える。挑戦的な姿勢、皮肉なユーモアを与え、奏者は環境の変化に敏感で、怒りっぽく、細かいことに病的にまでうるさい性格になりがち。

●クラリネット~複雑さを秘めた万能選手。争いごとを嫌う性格、感情の安定を作り出す一方、他者との感情的な共感の持ちにくさを与える。奏者の性格に幅と余裕を与え、決して単純な性格にさせることはない。優越感とプライド、負けず嫌いの性格を作り出し、強い好奇心と素早い適応能力、ロマンティックな包容力、孤独を好む哲学的嗜好、深いコンプレックスとそれを隠そうとする本能を与え、開放的になりきれない部分を残させる。

●サクソフォン~一点こだわりナルシスト。全てを都合よく修正して考え、自己陶酔的なナルシズムの傾向があり、現実逃避を好む。一方、コントロールのきかない、きわめて野生的で粗野な一面を有しており、どこか垢抜けない印象を残す。総合的には楽観的で、ストレスの少ない、やさしい性格なので、大変付き合いやすい人間像と言ってよい。奏者を闊達、敏捷にし、余裕と現実への楽観を与え、夢見る世界に導くが、哲学的思考からは遠ざけ、視野の固定化、一点へのこだわりを余儀なくさせる。奏者同士の結束を強め、他に対するコンプレックスを育て、閉鎖的になる傾向がある。

●ホルン~忍耐強い寡黙の人。奏者の性格に幅と余裕、冷静さと内向性、強い意志力、若干のサディスト的傾向を与え、寡黙な、言葉をよく吟味してからでなくては発言しない姿勢をもたらす。また、単純なことも複雑に考えずにはおれないという、熟考癖のある人間になりやすい。

●トランペット~単純明快、やる気満々のエース。関心の対象がきわめて限定された、不器用な人間になりがちだが、常に限界に挑戦し続ける、あくなき探究心とチャレンジ精神を与える。対人関係においても無駄を嫌い、回り道を避けるストレートな性格を作り出し、強い自尊心も養う。

●トロンボーン~あけっぴろげな酒豪、いつも上機嫌。奏者を哲学的苦悩や闘争心から遠ざけ、人当たりのよい好人物、落ち着いた貫禄のある人物像へ導く。高い自己管理能力、アウトドア指向がある。

⑭『芸術家たちの精神史 日本の近代化を巡る哲学』(伊藤徹、ナカニシヤ出版)



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第3章 社会科学

(1)社会科学全般

①『社会科学入門 知的武装のすすめ』(猪口孝、中公新書)

②『社会科学における人間』(大塚久雄、岩波新書)

③『社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス―』(大塚久雄、岩波新書)

 近代において、今日の民主主義社会を産み出した「市民革命」と資本主義社会を大きく前進させた「産業革命」は決定的な転換点と言えます。近代における国家観としては、国家は軍事・外交など最小限の機能に限定されるべきで、特に国民の経済生活に干渉すべきではないという「夜警国家論」が主流となります。これは古典派経済学の「自由放任」(レッセ・フェール)に対応するものです。ところが、この自由放任の政治・経済は必然的に弱肉強食の世界観となるため、「帝国主義」を産み出して「世界大戦」を引き起こし、いつまで経っても最適解に移行しない「世界恐慌」に行き着いたのです。

 現代においては、戦争のあり方や国際システムから時代精神に至るまで、全てを塗り替えたと言っても過言ではない「世界大戦」と、従来の古典派経済学をミクロ経済学として、新たにマクロ経済学を産み出して、国家による経済政策の重要性を理論化したケインズ経済学の契機となった「世界恐慌」が決定的な転換点と言えます。

 「現代」社会は「近代」社会の直系です。近代は「ナショナリズム」を生み出し、「理性」に基づく個人主義を根本に持ちます。現代は「グローバリズム」を生み出し、「共感」に基づく共生主義への可能性を持っています。

④『マックス・ヴェーバー入門』(山之内靖、岩波新書)

 社会科学の原点はヴェーバーにあることは言うまでもありませんが、日本におけるヴェーバー理解は「キリスト教的視点」に立っていることが多いのに対して、本書では従来無視されていたニーチェとの親縁性に目を向けています。これは大評判となったアラン・ブルームの『アメリカン・マインドの終焉』とも一脈通ずる視点であるので、読んでおくにこしたことはないでしょう。

⑤『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(マックス・ヴェーバー、岩波文庫)

 社会科学の最重要古典にして基本書です。



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(2)法学

➀『日本人のための憲法原論』(小室直樹、集英社インターナショナル)

 まさに「目からウロコ」の「憲法読本」です。おそらくこれを読まずして、「憲法を理解した」というのはおこがましいでしょう。必読、一見の価値ありです。例えば、「憲法違反」が出来るのは「国家」だけです。憲法が保障する「言論の自由」を侵害出来るのも「国家」だけで、親が子供の口を封じようと、上司が部下の発言を禁じようと、右翼が言論妨害しようと、憲法とは無関係なのです。

「近代民主主義が出てくるまで、地球上のどこにも「人権」などという概念はなかった。

 人権がまったく存在しなかった代わりに、それこそ腐るほどあったのは「特権」です。…

 ところが、予定説を信じる人々が登場したことによって、そうした特権は「人権」へと変貌した。一部の人だけが特権を持つのではなく、誰もが同じ特権を持っている。それを人権と呼ぶようになったわけです。だから、「少年の人権」などという言葉を使うのは、歴史の歯車を反対に回す暴挙としか言いようがない。

 人権とはあくまでも誰もが等しく持っているもの。一部の人しか持っていない人権は、中世の特権と何ら変わることがないのです。」(小室直樹『日本人のための憲法原論』)

②『憲法とは国家権力への国民の命令である 民主主義の主権は在民にあり』(小室直樹、ビジネス社)

③『アメリカ合衆国憲法を英文で読む 国民の権利はどう守られてきたか』(飛田茂雄、中公新書)

 比較法学、比較法制史の視点を持つことができます。

④『日本法制史』上下(瀧川政次郎、講談社学術文庫)

 日本の法制史を見る上では、この本が一番便利です。

⑤『日本人の法意識』(川島武宜、岩波新書)

 日本を代表する第一級の法学者であり、日本特有の法意識、契約意識などをよく論証しています。日本社会の特異性が、「法」という視点から浮き彫りにされることでしょう。

⑥『日本の司法文化』(佐々木知子、文春新書)

⑦『日本人を動かす原理 日本的革命の哲学』(山本七平、PHP文庫)

 日本法制史上、特筆すべきは御成敗式目による日本的革命(孟子型易姓革命ではなく、限定的西洋型革命)の実現ですが、この一大事件に深い論考を加えたのが本書です。法制史をやる人なら読まざるを得ません。

⑧『「天皇」の原理』(小室直樹、文藝春秋)

 日本における「法不在」、日本人における「法の心(リーガル・マインド)の欠如」の分析にはびっくりさせられます。

⑨『江藤新平』(毛利敏彦、中公新書)

 意外に知られていない、評価されていない人物として江藤新平がいますが(何となく「明治初期の反逆者」というイメージがあるようです)、実は彼こそが近代日本の司法権を確立した人物であり、明治政府中、第一級の才能を持った人物でした。この人物に対する評価は改めるべきですが、その実像を知る上で本書は最適です。



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(3)政治学

①『悪の民主主義 民主主義原論』(小室直樹、青春出版社)

②『政治無知が日本を滅ぼす 近代国家の政治倫理を理解せよ』(小室直樹、ビジネス社)

 近代民主主義の原点はロックの思想にありますが、それについて本格的な解説をしています。実は近代法、近代民主主義、近代資本主義は「三位一体」としてとらえる必要があり、社会科学全般にわたる視野が必要になってきます。著者はそうした視野を持つ、数少ない識者の1人です。

「ロックの時代には事実としての私有財産はもちろん普通のことであったが、財産正当化の根拠を人間が労働を加えたことに求めたのは画期的なことであった。」(福田歓一『政治学史』)

「民主主義をめざしての日々の努力の中に、はじめて民主主義は見いだされる。」(丸山眞男)

③『近代の政治思想』(福田歓一、岩波新書)

④『近代民主主義とその展望』(福田歓一、岩波新書)

⑤『政治学史』(福田歓一、東京大学出版会)

 イギリスではチューダー朝のヘンリー8世がジェントリーの力を活用したことによって、「議会」の地位と重要性が確実なものとなりました。ヘンリー8世は絶対君主でありながら、重要な決定は全て議会を通したのです。ここに、議会の協賛なくして王はその絶対権力を振るうことができないという「議会の中の王」(King in Parliament)という原則が確立したのです。これを「チューダー統治革命」と言います。

 また、ゲルマン社会では「全員一致」が原則でした。中世ヨーロッパの相続においては、古代ゲルマンの慣習に由来する「サリカ法」が絶対の権威を有しており、サリカ法に定められた相続順位は国王ですら変えることができませんでした。こうした状況が変わったのが次期ローマ法王を決定する会議「コンクラーベ」においてで、全会一致の原則を適用していたら、いつまで経っても決まらないため、ローマ教会で12世紀に「多数決」が導入されたのです。ここで重要なことは、「多数決で認められたことは全体の総意と見なす」という原則は、元々「民の声は神の声」「神意は民意に現れる」と考えられていたことに由来するということです。

「現代では「多数が賛成したから正しいとはいえない」という議論がある。新聞などにもしばしば現れる議論で、*1前記の「合点状」でも、四十一対二十三だから四十一の方が正しい決定とは、必ずしもいえないだろう。ではなぜそれが、反対二十三を含めて全員の決定とされるのか。実をいうと「多数が賛成したから正しいとはいえない」という前記の言葉は、多数決原理発生の原因を忘れてしまった議論なのである。

 この原理を採用した多くの民族において、それは「神慮」や「神意」を問う方式だった。面白いことにこの点では日本もヨーロッパも変わらない。古代の人びとは、将来に対してどういう決定を行なってよいかわからぬ重大な時には、その集団の全員が神に祈って神意を問うた。そして評決をする。すると多数決に神意が現れると信じたのである。これは宗教的信仰だから合理的説明はできないが、「神意」が現われたら、それが全員を拘束するのは当然である。これがルール化され、多数決以外で神意を問うてはならない、となる。

 そしてこれはあくまでも神意を問うのだから、「親が…、親類が…、師匠が…」といったようなこの世の縁に動かされてはならない。それをすれば「親の意向…、親類の意向…、師匠の意向…」を問うことになってしまうから、神意は現われてくれない。もちろん賄賂などで動かされれば、これは赦すべからざる神聖冒瀆となる。これらは日本でも厳しく禁じられている。そして、*2延暦寺の異形・異声とか、高野山の「合点」とかは、こういう考え方の現われである。おそらく、異形・異声になったとき、別人格となったのであろう。このような信仰に基づけば、多数決に現われたのは「神慮」「神意」だから当然に全員を拘束し、これに違反することは許されない。

 多くの国での多数決原理の発生は、以上のような宗教性に基づくものであって、「多くの人が賛成したから正しい」という「数の論理」ではない。コンクラーベという教皇の選挙は、今では多くの人に知られている。だがこれは決して枢機卿(カーディナル)が教皇を選出するのではなく、祈りつつ行われる投票の結果に神意が現われるのだという。従って教皇は神の意志で教皇になったので、「当選御礼」などを枢機卿にする必要はない。」(山本七平『日本人とは何か。』(上巻))

*1 前記の合点状…高野山違犯衆起請文(1384年)。年貢を滞納した荘官罷免に関する評定で、「荘官罷免」に四十一票、「罷免せず年貢取り立て」に二十三票が入りました。「合点」は元来は少人数の表決の結果すなわち「点の合計」を意味する言葉でした。

*2延暦寺の異形・異声…『平家物語』に詳しく記されているところによると、延暦寺には「多語毘尼」(たごにび)と呼ばれる原始仏教以来の議決方法があり、「満寺集会」という宗徒全員が参加する会で「大衆僉議」(だいしゅせんぎ)と呼ばれる評決を行なっていましたが、参加者は異形・異声で誰が誰だか分からないようにした上で参加しなければならりませんでした。

⑥『世界の名著16 マキアヴェリ』(会田雄次、中央公論社)

⑦『世界の名著23 ホッブズ』(永井道雄、中央公論社)

⑧『世界の名著27 ロック、ヒューム』(大槻春彦、中央公論社)

⑨『世界の名著28 モンテスキュー』(井上幸治、中央公論社)

⑩『世界の名著30 ルソー』(平岡昇、中央公論社)

⑪『世界の名著33 フランクリン、ジェファソン、ハミルトン、マディソン、トックヴィル』(松本重治、中央公論社)

⑫『世界の名著34 バーク、マルサス』(水田洋、中央公論社)

⑬『世界の名著42 プルードン、バクーニン、クロポトキン』(猪木正道・勝田吉太郎、中央公論社)

⑭『世界の名著56 オルテガ・イセー、マンハイム』(高橋徹、中央公論社)

⑮『世界の名著60 バジョット、ラスキ、マッキーヴァー』(辻清明、中央公論社)

⑯『世界の名著52 レーニン』(江口朴郎、中央公論社)

⑰『世界の名著63 ガンジー、ネルー』(蝋山芳郎、中央公論社)

⑱『図解 国連のしくみ 〝巨大組織〟の神話と現実』(吉田康彦、日本実業出版社)

⑲『国連改革―「幻想」と「否定論」を超えて』(吉田康彦、集英社新書)

⑳『新版 国際協力論を学ぶ人のために』(内海成治編、世界思想社)

㉑『平和学を学ぶ人のために』(君島東彦、世界思想社)

㉒『世紀末・戦争の構造 国際法知らずの日本人へ』(小室直樹、徳間文庫)

㉓『国民のための戦争と平和』(小室直樹、ビジネス社)

㉔『国民のための戦争と平和の法 国連とPKOの問題点』(小室直樹・色摩力夫、総合法令)

 ドイツ三十年戦争(1618~1648年)後のウェストファリア条約によって、主権国家の概念や国際秩序が初めて形成されますが、こうした中で自然法とローマ法の伝統の中から国際法が発達していきます。この理論を体系化したのは、『戦争と平和の法』を著したオランダのグロティウス(1583~1645年)です。「国際法」の中心は「戦時国際法」であり、戦争の惨禍を少しでも軽減することを目的として発達し、各主権国家は国際法を手段として相手国の戦争行為を批判するようになります。すなわち、国際法は国家間の国際的論争の方法として盛んに用いられるようになるのです。古代ギリシャのアテネではデモクラシーと裁判が発達したため、「論争の技術」として討論が普及し、論理が完成されて「形式論理学」に至りましたが、ヨーロッパでは「近代国際法」がこれを受け継いで、論争の技術をさらに発達させていくのです。

 ちなみに慣習法である国際法では「事情変更の原則」が適用されます。これに対して、国際法以外の法律は廃止になるまで有効です。例えば、日独伊三国軍事同盟は成文化された条約なので、明確な国際法として各国を当然法的に拘束するわけですが、廃棄手続きを一切取っていません。しかし、これが戦後も有効だと考えている人は一人もいないでしょう。国際法は慣習法であり、「条文に書いてあるからといって有効とは限らない」ということの証左です。その法的精神(リーガル・マインド)が国民の間に浸透し、定着していないと、条文に書いてあっても現実的には意味がないわけです。ちなみに「憲法」も「国際法」同様、「慣習法」なので、条文が事実上空文になることがあります。日本国憲法第9条が良い例でしょう。

㉕『富国と強兵 地政経済学序説』(中野剛志、東洋経済新報社)

「ティリーは、千年の国家形成の歴史をたどり、国家形態が「資本化強制」型国家あるいは主権国家、さらには国民国家へと収斂していった要因は、戦争であったことを明らかにした。戦争が国家を生み、国家が戦争を生むのである。…

 戦争や戦争準備を起源とし、戦争目的の資源動員の中で生み出された技術や制度あるいは思想は、戦争終結後も*経路依存性に従って持続し、「民政化」あるいは「スピン・オフ」 されて、平時における資源動員に活用されることとなる。

 「民政化」という現象の技術における典型例は、原子力エネルギーである。原子力エネルギーは、元来、核兵器として開発されたものであるから、原子力発電は「原子力の平和利用」と称されるのである。ならば、大量生産方式、鉄道、航空機、人工衛星、コンピューター、インターネットもまた、軍事技術の「平和利用」なのであろう。

 あるいは福祉国家は、強壮な兵士の育成という戦時中の政策が、戦後に民政化されたものであった。福祉国家とは、国家総動員体制の「平和利用」なのである。

 経済政策というのもまた、戦争目的の資源動員の民政化あるいは平和利用であると言える。とりわけケインズ主義的なマクロ経済政策とは、二つの世界大戦における国家による大規模な資源の総動員が、物価水準に影響を与え、失業を劇的に解消したという経験を経て誕生したものであった。」(中野剛志『富国と強兵 地政経済学序説』)

*経路依存性…キーボードの配列、鉄道の線路の幅などのような既存の環境が、後代の社会に影響を与えること。

㉖『岡崎久彦自選集 1 アジアの中の日本』(岡崎久彦、徳間文庫)

㉗『岡崎久彦自選集 2 新「戦略的思考」アングロ・サクソンとロシアの狭間で』(岡崎久彦、徳間文庫)

㉘『アメリカの逆襲 宿命の対決に日本は勝てるか』(小室直樹、光文社)

㉙『日本官僚史 驚きのエピソードで綴る官僚たちの歴史』(広見直樹、ダイヤモンド社)

㉚『自ら国を潰すのか 「平成の改革」その盲点を衝く』(小室直樹・渡部昇一、徳間書店)

㉛『日本政治のウラのウラ』(森喜朗、講談社)

㉜『私を通りすぎた政治家たち』(佐々淳行、文藝春秋)

 楽天的な政治家(えてして「大ボラ吹き」と言われることになります)には、その人の能力をはるかに超えるブレーンがいたりするものですが、中でも筆頭格は池田勇人元首相でしょう。彼が「所得倍増論」を打ち上げた時、誰も信じる者がいなかったと言います。それはそうでしょう、敗戦国家で焼け野原から出発した日本がいくら戦後復興の波に乗っているとはいえ、そこまでハイレベルな「高度経済成長」を実現できるとは誰も考えられなかったのです。ところが、池田の経済ブレーン「木曜会」に集まるメンバーはそうそうたるもので、在野の経済評論家として名高い高橋亀吉、「下村理論」で有名な下村治ら「七人の侍」がおり、その叡智を結集した政策を実行に移したのが池田だったのです。

 ところで、実はこの池田の人生はとても順風満帆とは言えたものではなく、一高受験で2度落ち、やっと五高に入って京大法学部から大蔵省に入るも、これは決して主流派とは言えないコースでした。さらに彼はここで天然痘に似た奇病である皮膚病にかかり、医者から絶望を宣告されます。この看病疲れで、最初の妻は病死するほどで、見かねた母親が誘って四国八十八カ所の巡礼に出かけています。皮膚がボロボロのために草履がはけず、板を足に紐で結んで歩く状態で、大の男が母親に手を引かれてという有様でしたが、この難行による運動が効いたのか、発病して5年後に初めて風呂に入ることができるまでになります。やがて、完治し、2番目の妻と駆け落ち同然で上京し、税務署の用務員にでも雇ってもらえればいいと思っていたところ、大蔵省の課長の口利きで復職を果たしています。彼はその後もせいぜい国税課長を目指していたぐらいですが、戦後のレッド・パージで省内の地位が上がり、ついに事務次官から政界に打って出て、首相にまでなっていくのです。

 政界に出てからも池田の失言癖は有名で、「中小企業の1つや2つつぶれても」「貧乏人は麦を食え」といった失言を繰り返していますが、これらは激昂して口走ったのではなく、彼自身の実感の中から生まれた言葉であったと言います。実際、資本主義市場経済の第一原則は「失業と破産による淘汰」にあり、「自己責任」の原則も当然重視されますから、池田の言葉には一理あります。池田は知性的でも教養あふれるわけでもなく、都会人らしい繊細さもなかったようですが、素直に「オレは頭が悪いから助けてくれ」と言うので、周りの者は「それなら助けてやろうか」と思ったようです。そして、皆が知恵をふりしぼって案を練り上げると、池田は大真面目にそれを実行し、うまくいけば「どうだ、オレだってうまくできるだろう」と胸を張っているので、誰も彼を憎めなかったのです。そうでなければ、「知性の塊」のようなあの宮沢喜一元首相が池田のために粉骨砕身するなどということはなかったでしょう。



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(4)経済学

①『マンキュー入門経済学』(N・グレゴリー・マンキュー著、足立英之・石川城太 ・小川英治・地主敏樹訳、東洋経済新報社)

②『マンキュー経済学Ⅰミクロ編』(N・グレゴリー・マンキュー著、足立英之・石川城太 ・小川英治・地主敏樹訳、東洋経済新報社)

③『マンキュー経済学Ⅱマクロ編』(N・グレゴリー・マンキュー著、足立英之・石川城太 ・小川英治・地主敏樹訳、東洋経済新報社)

  経済学の教科書の定番と言えば、昔はポール・サミュエルソンで、今はグレゴリー・マンキューでしょう。

④『経済学セミナール』(西村和雄、実務教育出版)

 公務員試験や各種資格試験など、経済原論が出される分野ではひっぱりだこの本です。著者は数理経済学のプロで、日本における複雑系経済学研究の第一人者です。

⑤『Q&A1分間経済学』(西村和雄、日本経済新聞社)

⑥『21世紀学問のすすめ1 経済学のすすめ』(西村和雄編、筑摩書房)

⑦『思想としての近代経済学』(森嶋通夫、岩波新書)

⑧『経済学とは何だろうか』(佐和隆光、岩波新書)

 これらも経済学の入門書としてはよく取り上げられ、引用もよくされます。必読文献でしょう。

⑨『経済思想ゼミナール 経済学をめぐる巨匠たち』(小室直樹、ダイヤモンド社)

「一つの学問領域が「科学」として社会の認知を受け、研究の裾野を広げるには、その領域における理論の基礎と分析の手法を体系的に編んだテキストが不可欠である。先人達が生み出した理論の一つ一つ、そこで戦わされた議論の数々。その本質と真価を見極め、根幹と枝葉とに再構成し、大樹の輪郭を入門者にも分かり易く提示する――。これは新しい理論を生み出す事にも匹敵する(否、それ以上の)難業と言っても過言ではない。

 その難業を、経済学の分野で成し遂げたのが天才サムエルソンである。サムエルソン博士が『経済学』の初版を上梓したのは一九四八年。経済学は二〇〇年以上の歴史を持つが、入門者が体系的なテキストで学べるようになったのは、実はここ半世紀の事なのである。」(小室直樹『経済思想ゼミナール 経済学をめぐる巨匠たち』)

⑩『日本人のための経済原論』(小室直樹、東洋経済新報社)

 近代資本主義、近代経済学の基本を理解する上で有益です。一般的に、ヨーロッパに「近代資本主義」が生れたのはキリスト教離れのおかげだと信じられてきたのですが、マックス・ヴェーバーは「事実はそれと逆で、宗教改革によって世の中が徹底的にキリスト教的になったからこそ、ヨーロッパは近代の扉を開けることが出来た」と主張したのです。すなわち、プロテスタントは中世のキリスト教から呪術的要素を徹底的に追放し、キリスト教に「合理性」を取り戻したのですが、この「合理性」の追求がそのまま「資本主義の精神」へとつながっていくと考えました。実際、「近代資本主義」は「合理的経営」なくして成り立ちません。

 カネが資本主義を作るのではなく、エートスの変換こそが資本主義を作る。これがウェーバーの言いたかったことです。マックス・ヴェーバーによれば、「エートス」とは「行動様式とそれを背後で支える心的態度」のことです。「近代資本主義」が誕生するためには、まず「プロテスタンティズムの倫理」から予定説に基づき、「労働は救済の手段であり、隣人愛の実践である」という労働観の転換が起きます。さらに「利潤最大化」のために「目的合理性」が生まれ、伝統主義から完全に脱却して「資本主義の精神」が確立されるといった、2段階の「エートスの変換」が必要だったというのです。

⑪『日本経済破局の論理 サミュエルソン「経済学」の読み方』(小室直樹、KAPPA BUSINESS)

⑫『日本資本主義崩壊の論理 山本七平“日本学”の預言』(小室直樹、KAPPA BUSINESS)

⑬『国民のための経済原論Ⅰ バブル大復活編』(小室直樹、KAPPA BUSINESS)

⑭『国民のための経済原論Ⅱ アメリカ併合編』(小室直樹、KAPPA BUSINESS)

⑮『資本主義経済の歩み――封建制から現代まで』上下(レオ・ヒューバーマン著、小林良正・雪山慶正訳、岩波新書)

⑯『経済の倫理 宗教に見る比較文化論』(芹川博通、大修館書店)

⑰『恋愛と贅沢と資本主義』(ヴェルナー・ゾンバルト著、金森誠也訳、講談社学術文庫)

⑱『二十一世紀の資本主義論』(岩井克人、ちくま学芸文庫)

⑲『経済学の歴史 いま時代と思想を見直す』(J・K・ガルブレイス著、鈴木哲太郎訳、ダイヤモンド社)

⑳『入門経済思想史 世俗の思想家たち』(ロバート・L・ハイルブローナー著、八木甫・松原隆一郎・浮田聡・奥井智之・堀川治男訳、ちくま学芸文庫)

㉑『経済思想の巨人たち』(竹内靖雄、新潮文庫)

㉒『現代経済学の巨人たち 20世紀の人・時代・思想』(日本経済新聞社)

㉓『近代経済学の群像』(都留重人、現代教養文庫)

 これらはいずれも読みやすい入門書です。ここで興味を覚え、接点を持った経済学者の思想に深く入っていくのがよいでしょう。

㉔『ノーベル経済学賞の40年 20世紀経済思想史入門』上下(トーマス・カイリー著、小坂恵理訳、筑摩書房)

 ノーベルの遺言には経済学賞はなく、1968年にスウェーデン国立銀行が創立300周年を記念して、ノーベル賞に経済学賞を加えるように提案し、特別規約が制定されました。正式名称は「アルフレッド・ノーベル記念経済学賞」となっており、ノーベル財団のスタッフの中でも「経済学賞はノーベル賞ではない」「経済学賞をノーベル賞から外すべきである」といった主張はかなり強いと言います。ちなみに経済学のほとんどの領域で優れた業績を打ち立てたサミュエルソンは第2回授賞者ですが、ノーベル経済学賞は彼のために作られたとまで言われたものです。

 「数学は科学の女王、数論は数学の女王」(ガウス)と言われるのに対し、経済学は物理から「質点の力学」を導入して、モデル・ビルディングを駆使し、さらに数学的洗練を経た結果、「経済学は社会科学の女王」と呼ばれるに至りました。およそ社会科学の中で、数学的手法によって成功を収めたとされるのは経済学と心理学のみです。さらにこうした経済学的思考・分析を他の社会科学分野に及ぼして、「経済学帝国主義」と呼ばれるほど幅広い影響を与えるようになるのです。例えば、経済学の分析対象を人間の行動様式や相互作用といった非市場分野にまで革新的に広げたのが、1992年経済学賞受賞のベッカーです。

㉕『ケインズ―“新しい経済学”の誕生―』(伊藤光晴、岩波新書)

㉖『ケインズ革命の群像 現代経済学の課題』(根井雅弘、中公新書)

㉗『ケインズを学ぶ 経済学とは何か』(根井雅弘、講談社現代新書)

㉘『近代経済学の誕生 マーシャルからケインズへ』(根井雅弘、ちくま学芸文庫)

㉙『シュンペーター 孤高の経済学者』(伊藤光晴・根井雅弘、岩波新書)

㉚『ガルブレイス 制度的真実への挑戦』(根井雅弘、丸善ライブラリー)

㉛『二十世紀の経済学 古典から現代へ』(根井雅弘、講談社学術文庫)

㉜『20世紀のエコノミスト 生涯と学説』(根井雅弘編著、日本評論社)

㉝『現代の経済学 ケインズ主義の再検討』(根井雅弘、講談社学術文庫)

㉞『現代経済学の生誕』(根井雅弘、名古屋大学出版会)

㉟『現代経済学への招待』(根井雅弘、丸善ライブラリー)

㊱『21世紀の経済学 市場主義を超えて』(根井雅弘、講談社現代新書)

㊲『経済学のたそがれ』(根井雅弘、講談社)

㊳『経済学のことば』(根井雅弘、講談社現代新書)

 経済学史、経済思想史の分野では、知る人ぞ知る「俊英中の俊英」が根井雅弘です。29歳にして著書多数(大学院生の時からです)、そのまま京大経済学部助教授に就任しました。アメリカでは決して珍しくありませんが、日本では大変なことです。

㊴『世界の名著31 アダム・スミス』(大河内一男、中央公論社)

㊵『世界の名著38 ベンサム、J・S・ミル』(巽嘉彦、中央公論社)

㊶『世界の名著57 ケインズ、ハロッド、カレツキー』(宮崎義一・伊藤光晴、中央公論社)

㊷『複雑系の選択 「カオスの縁」の自然科学と経済学』(田中三彦・坪井賢一、ダイヤモンド社)

㊸『複雑系の経済学 入門と実践』(週刊ダイヤモンド編集部、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部、ダイヤモンド社)

㊹『複雑系の経済学』(週刊ダイヤモンド編集部、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部、ダイヤモンド社)

㊺『増補 複雑系経済学入門』(塩沢由典、ちくま学芸文庫)

 近代経済学を少しでもかじった人なら誰でも、その理論的前提に疑問を持ち、その非現実性に違和感を感じることでしょう。そういう人であれば、複雑系経済学の論理がよく理解できます。「複雑系」は社会科学から自然科学に至るまで、幅広く研究されている学際的な概念ですが、「社会科学の女王」と呼ばれてきた経済学も、この複雑系の導入によってどのように変わっていくのでしょうか。楽しみなところです。

㊻『自己組織化の経済学 経済秩序はいかに創発するか』(ポール・クルーグマン著、北村行伸・妹尾美起訳、東洋経済新報社)

㊼『中国共産党の経済政策』(柴田聡・長谷川貴弘、講談社現代新書)

㊽『人民元は覇権を握るか アジア共同体通貨の実現性』(中條誠一、中公新書)

㊾『日本経済の基礎知識』(金森久雄、中央経済社)

㊿『日本資本主義の形成者 さまざまの経済主体』(東畑精一、岩波新書)

「日本の経済発展の秘密を解く鍵は全く国民教育の普及にある。・・・これを国力の未だ整っていない時に見抜いて、早くも義務教育を強行したのは、経済史にとっても極めて重要な点である。」(東畑精一『日本資本主義の形成者 さまざまの経済主体』)

51『国際観光学を学ぶ人のために』(堀川紀年・石井雄二・前田弘編、世界思想社)

 観光業は交通・流通・宿泊・物販など裾野が広い産業で、「21世紀型産業」として位置付けられ、「観光立国」政策として訪日外国人数であるインバウンドを2030年までに6000万人まで持っていこうとしており、非常に注目されています。



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(5)社会学

➀『社会学を学ぶ人のために』(仲村祥一編、世界思想社)

②『文化人類学を学ぶ人のために』(米山俊直・谷泰編、世界思想社)

③『文化人類学の思考法』(松村圭一郎・中川理・石井美保編、世界思想社)

④『社会とは何か システムからプロセスへ』(竹沢尚一郎、中公新書)

⑤『逆システム学――市場と生命のしくみを解き明かす――』(金子勝・児玉龍彦、岩波新書)

⑥『多文化世界』(青木保、岩波新書)

⑦『存亡の条件 日本人を動かす原理』(山本七平、講談社学術文庫)

⑧『比較文化論の試み』(山本七平、講談社学術文庫)

 比較文化論は学問の中でも重要な分野です。

⑨『世界の名著36 コント、スペンサー』(清水幾太郎、中央公論社)

⑩『世界の名著(続)8 オウエン、サン・シモン、フーリエ』(五島茂・坂本慶一、中央公論社)

⑪『世界の名著43 マルクス、エンゲルスⅠ』(鈴木鴻一郎、中央公論社)

⑫『世界の名著44 マルクス、エンゲルスⅡ』(鈴木鴻一郎、中央公論社)

⑬『世界の名著47 デュルケーム、ジンメル』(尾高邦雄、中央公論社)

⑭『世界の名著50 ウェーバー』(尾高邦雄、中央公論社)

⑮『現代文明論講義――ニヒリズムをめぐる京大生との対話』(佐伯啓思、ちくま新書)

⑯『観光客の哲学 増補版』(東浩紀、ゲンロン叢書)

「国民国家(ネーション)は、国家と市民社会、政治と経済、上半身と下半身、意識と無意識のふたつの半身からなっている。カントとヘーゲルは、この前提のうえで、国家が市民社会のうえに立ち、政治の意識が経済の無意識を抑えこんで国際秩序を形成するのが、人倫のあるべきすがただと考えた。

 ナショナリズムの時代においては、国家と市民社会、政治と経済、公と私のふたつの半身が合わさり、ひとつの実体=ネーションが構成されていた。だからこそネーションがすべての秩序の基礎となりえた。けれども、二一世紀の世界ではまさにその前提こそが壊れているのである。そしてここで重要なのは、けっしてネーションそのものが壊れたのではなく、ただネーションの統合性が壊れただけだと理解することである。

 いまもネーションは生き残っている。政治はいまだにネーションを単位に動いている。政治家は国民から信任を集め、国民のために働いている。そこには厳然とネーションの感覚がある。けれども経済はネーションを単位としていない。商人は世界中の消費者に商品を売り、世界中の消費者から貨幣を集めている。大企業だけでなく、驚くほど小さな企業や個人さえ、いまや国境を越えて商売をしている。そこにネーションの感覚はない。政治の議論はネーション単位で分かれているが、市民の欲望は国境を越えてつながりあっている。それが二一世紀の現実である。

 言い換えれば、ぼくたちが生きるこの二一世紀の世界においては、国家と市民社会、政治と経済、思考と欲望は、ナショナリズムとグローバリズムというふたつの原理に導かれ、統合されることなく、それぞれ異なった秩序をつくりがえてしまっているのだ。グローバリズムはナショナリズムを破壊したのではない。それを乗り越えたのでもない。ましてその内部でナショナリズムを生みだしたのでもない。それは、単純に、既存のナショナリズムの体制を温存したまま、それに覆いかぶせるように、まったく異質な別の秩序を張りめぐらせてしまったのである。」(東浩紀『観光客の哲学』)

⑰『2100年の世界地図 アフラシアの時代』(峯陽一、岩波書店)

「政策としての多文化主義は終わったかもしれない。しかし、統合を求めない多文化主義、あるいは、規模の大小を問わず文化的な集団が互いを尊重して共存する「状態」としての多文化共生を想定することはできないものだろうか。…

 西洋世界の多文化主義は終わったかもしれないが、アフリカやアジアの国民国家のレベルでは、「よそよそしい共存」が成立している空間がある。抽象的な個人の社会契約にもとづいて制度を設計しようとするガバナンスの伝統は、著しく西洋的なものである。ひるがえって非西洋世界の国民国家には、良かれ悪しかれ、移民政策のグランドセオリーは存在しない。恭順しない者は追い出そうと威嚇するが、本当に追い出すとは限らない。そこで生まれる共存の状態は、壊れやすい均衡だとも言える。すなわち平和的な共存も暴力的な排除も、行き当たりばったりなのである。

 このような状態の積極的な側面を理念型として描き出すことはできないだろうか。つまり、抽象的な個人ではなく、多様な人間の存在を前提として、そのような人々が自由に参入し退出するような社会の仕組みを、思考実験として提案することはできないものだろうか。それは、ルソーの野生人の世界に対応するガバナンスの秩序を考えることでもあるだろう。」(峯陽一『2100年の世界地図 アフラシアの時代』)

⑱『ユダヤ民族経済史』(湯浅赳男、新評論)

⑲『小室直樹の中国原論』(小室直樹、徳間書店)

 中国の歴史的社会分析において、すぐれた成果を挙げています。

⑳『タテ社会の人間関係 単一社会の理論』(中根千枝、講談社現代新書)

㉑『勤勉の哲学 日本人を動かす原理』(山本七平、PHP文庫)

㉒『日本資本主義の精神 なぜ一生懸命働くのか』(山本七平、PHP文庫)

㉓『国貧論 日本的資本主義のすすめ』(松本道弘、徳間書店)

㉔『崩壊か沈没か 日本の選択 国際社会でアリが生き残る道を探る』(松本道弘、KKベストセラーズ)

㉕『孤独病 寂しい日本人の正体』(片田珠美、集英社新書)

㉖『社会脳とは何か』(千住淳、新潮新書)

㉗『暇と退屈の倫理学』(國分功一郎、新潮文庫)

㉘『家族論を学ぶ人のために』(中川淳編、世界思想社)

㉙『家族関係を学ぶ人のために』(中川淳編、世界思想社)

㉚『家族関係を考える』(河合隼雄、講談社現代新書)

「夫婦はその共通部分を関係の維持のために必要とし、対立する部分をその発展のために必要としているのである」(河合隼雄『家族関係を考える』)

㉛『家族の復権』(林道義、中公新書)

㉜『江戸の親子』(太田素子、中公新書)

㉝『共生保障<支え合い>の戦略』(宮本太郎、岩波新書)

㉞『「利他」とは何か』(伊藤亜紗・中島岳志・若松英輔・國分功一郎・磯崎憲一郎著、集英社新書)

 コロナ禍によって世界が危機に直面するなか、いかに他者と関わるのかが問題になっており、「利他」というキーワードが浮上しています。なぜなら他者のために生きるという側面なしに、この危機は解決しないからです。しかし、道徳的な基準で自己犠牲を強い、合理的・設計的に他者に介入していくことが果たしてよりよい社会の契機になるのか、この問題に日本の論壇を牽引する執筆陣が根源的に迫っています。

㉟『世界の社会福祉』(仲村優一・一番ケ瀬康子、旬報社)

 世界45カ国の社会福祉の歴史・現状・将来展望を網羅し、欧米ばかりでなく、アフリカ、中南米、アジアの実情も紹介しています。本書では欧米先進福祉国に偏りがちだった従来の研究とは一線を画しており、知られることの少なかったアフリカの福祉や、社会主義が崩壊した後のロシア、ポーランドの実態などにも言及しているところに意義があります。

㊱『老人力全一冊』(赤瀬川源平、ちくま文庫)

 筆者は、「老人力=物忘れ、繰り言、ため息等、従来、ぼけ、ヨイヨイ、耄碌(もうろく)として忌避されてきた現象に潜むとされる未知の力」なる概念を提唱し、話題を呼びました。「老人力」の特色は、物を忘れる、体力を弱めるといったもので、物を覚えたい、体力をつけたいというプラス志向の時代には忌避された「力」だと言います。若い者は自然には力が抜けないが、老人になると自然に力が抜ける。また、若い頃は自分の実力が分からないから、何にでも手を出し、失敗したりするが、老人になれば自分の実力も見えてくる。そこで無駄な力を使わず、かえって小さな事柄でも奥行きの深いことができるようになるというのです。まさに「老人力をばかにしてはいけない」(赤瀬川)のであって、こうした「有効資源の有効利用」(東海林さだお)が老人力だというのです。

㊲『夫のかわりはおりまへん 前高槻市長の介護奮戦記』(江村利雄、徳間書店)

 高槻市の現役市長であった著者が、任期満了の前に公職を捨てて、寝たきりの妻の介護を選び取り、その奮戦ぶりを記したものです。その決断はテレビ、新聞などで紹介されて大反響を呼び、深い共感を呼びました。

㊳『「寝たきり老人」のいる国いない国 真の豊かさへの挑戦』(大熊由紀子、ぶどう社)

 朝日新聞論説委員の著者によるもので、「高齢者福祉のバイブル」と定評を得ています。

㊴『学習まんがスペシャル レーナ・マリア 障害をこえて愛と希望を歌い続ける女性シンガー』(あべさより漫画、菅谷淳夫シナリオ、小学館)

 1998年の長野オリンピック開会式で熱唱したスウェーデンのゴスペル歌手・レーナ・マリアは生まれつき両腕が無く、左足の長さも右足の半分ですが、1988年のパラリンピックに水泳で出場したこともあります。

㊵『どんぐりの家』全7巻(山本おさむ、小学館)

 『ビッグコミック』連載の漫画で、大宮市と入間郡毛呂山町に実在する聴覚障害者や知的障害者のための共同作業所がモデルとなっていて、障害のある少女がコミュニケ-ションに苦しみながら、障害を乗り越え、家族と共に成長していくという実話に基づいた作品です。全国の福祉団体などからの寄付でアニメ映画が制作され、手話サ-クルなどが主体となって全国で上映されていますが、自主上映でありながら観客動員100万人を超えています。

㊶『五体不満足』(乙武洋匡<おとたけひろただ>、講談社)

 乙武洋匡は1976年に先天性四肢切断という状態で生まれ、小学校から普通学級に通い、中学校ではバスケットボール部に入って、手のない腕でドリブルの練習を重ねて試合に出ました。都立高校ではアメリカン・フットボール部に入り、戦略担当としてパソコンを使って対戦相手の分析で活躍しています。受験では予想以上の寒さにトイレに行きたくなって失敗し、一浪後、早稲田大学政治経済学部に入学しました。本書はこうした家族や友達との交流を中心に述べられており、1年間で420万部を越える大ベストセラーとなり、予想を超えた㊷『チャレンジ 身体的障害のある米国青年の物語』(デビッド・ホランド著、遠藤恵美子・野村かず訳、ブレーン出版)

 本書は、脳性小児まひに似た難病で、話すこともできない車いす生活のアメリカ人大学院生の著者が、同じ大学院の留学生だった遠藤恵美子・北里大学看護学部教授らの協力により、日本で出版したものです。2人はミネソタ大学の食堂で出会い、筆談などで始まった交流はユーモアにあふれています。好奇心の強い著者が日本旅行をすることになりますが、成田空港の身障者に対する配慮の無さに苛立ち、鎌倉で大仏の像を買い、長崎、広島で被爆の実像に感銘を受けています。アメリカの大学での「生き残るための苦闘」も詳しく語られており、打ち込んだ内容を電子音に変換するコンピュータを使って、修士終了の口頭試問を受けたり、次の大学院では入学を断られても再挑戦するなど、障害をハンディとしてではなく、チャレジととらえる姿が題名にも反映されているのです。

㊸『僕にできないこと。僕にしかできないこと。』(春山満、幻冬舎)

 著者はハンディネットワーク・インターナショナル社長。四肢全廃で命の期限が決められたにもかかわらず、寝たきりで死を待つより、残された時間をビジネスマンとして燃やし尽くすことにかけたと言います。

大反響を呼び、台湾版、中国版も発行されました。

㊹『娘より三日間長生きしたい』(礒野優雄、日本図書刊行会)

 これは障害を持つ一人娘の成長を記した自費出版本で、1999年7月16日の参院予算委員会で西川きよし(二院クラブ・自由連合)が小渕元首相に感想を求めたことがあります。元首相が同書を取り寄せて読んだこと、著者の自宅に電話を入れて家人と話したことなどを明らかにし、娘の生涯を最後まで見届けてやりたいという親心を込めたタイトルの説明に及んだ時、こらえきれずに泣いたため、答弁が終わると議場には拍手が起こり、感動を呼びました。

㊺『子供不足に悩む国、ニッポン なぜ日本の女性は子供を産まなくなったのか』(ミュリエル・ジョリヴェ著、鳥取絹子訳、大和書房)

 本書は、日本人男性と結婚したフランス人女性が、なぜニッポンの女性は子供を産まなくなったのかという事情を、自らも体験しながら調査した子減り白書です。フランスでは、子供を産む理由は「楽しいから」だと言いますが、日本の女性で育児を楽しみとしたのは26%にすぎません。著者が参照した女性達の聞き取り調査や身の上相談などには、子育てをしている女性達の孤独と疎外がすさまじいまでに浮かび上がっています。

㊻『男を消せ!ノルウェーを変えた女のクーデター』(三井まり子、毎日新聞出版)

 ノルウェーでは、国会、地方議員共に3人に1人が女性議員ですが、30年前は地方議会の女性比率はわずか6%で、今の日本と変わらない状況でした。その国がどうやって生まれ変わったのかを、女性議員を増やす運動を続けている筆者が現地取材で伝えています。

㊼『新版 女性の権利 ハンドブック女性差別撤廃条約』(赤松良子監修、国際女性の地位協会編、岩波ジュニア新書)

 本書は1979年に国連で採択され、1985年に日本も批准した「女性差別撤廃条約」をジュニア新書の形で分かりやすく解説したものです。

㊽『アメリカにおけるセクシュアル・ハラスメント 訴訟・救済システムから米国三菱の和解まで』(柏木宏、解放出版社)

 米国三菱自動車のセクシュアル・ハラスメント事件が論議を呼びましたが、その背景にある米国のセクハラ訴訟の歴史、被害者救済システム、米国三菱自動車製造事件の和解の経過などを幅広く解説しています。

㊾『夫・恋人からの暴力 国境のない問題・日本と各国のとりくみ』(ドメスティック・バイオレンス国際比較研究会編、教育史料出版会)

 米国では1970年代からDV被害の実態が報告され、出版当時までに2000近くのシェルターなどが開設されています。対応が悪かった警察に対する損害賠償請求が認められたこともあって、DVは犯罪との認識が広がりました。

 ニカラグアでは女性の2人に1人は虐待されているという研究発表を契機に、体だけでなく、心の傷を与えることも犯罪になり得るという法律が制定されました。

 ジンバブエでは、生計を支える夫が妻に対する暴力で禁固刑を受けると、刑務所から通勤させ、給料を妻に支払う。オレンジ色のつなぎを着せて地域社会奉仕もさせます。「夫が殴るのは妻にも非があるから」という社会の「常識」を修正するため、警察や司法関係者、医療関係者などに認識変革を迫るプロジェクトも1988年から始まっています。

 この他、女性警官で構成する女性警察署を設置したブラジル、多民族の伝統文化の垣根を越えて女性が運動を展開、DV法を制定したマレーシアなどを紹介しています。

㊿『モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない』(マリー=フランス・イルゴイエンヌ著、高野優訳、紀伊国屋書店)

 「モラル・ハラスメント」とは「精神的虐待」のことで、言葉や態度による暴力のことを指しています。夫婦関係や親子関係における加害者と被害者の暴力的関係は如何にして生まれるのか。著者はこのテーマに対して、それは肥大した自我を持った「自己愛的な変質者」である加害者が、隠れた劣等感を持つ被害者をまず支配関係に置いて、自分なしでは生きられないようにしてから、その他者をモノのように扱って傷つけることで、自己を満足させようとする試みであるとしています。著者は、振り回され、傷つけられ、侵食され、自由を奪われて死にそうなのに、どうしても逃げられないという共依存の理論を、家族を超えて、職場の人間関係にまで拡張しており、その対策まで触れている所に特徴があります。

51『失われた森 レイチェル・カーソン遺稿集』(レイチェル・カーソン著、リンダ・リア編、古草秀子訳、集英社文庫)

 本書はアメリカの環境史の教授リンダ・リアが編んだカーソンの遺稿集です。カーソンの『沈黙の春』は余りにも有名で、「不気味な沈黙が漂っていた。そういえば鳥たちはどこへ行ったのか」「春の声を沈黙させたのはいったい何だろう」というくだりは忘れ難いところです。ここから化学物質による環境汚染が本格的に告発されたのであり、今日の環境保護活動のきっかけとなり、エコロジーへの関心も一気に高まっていきました。歴史を動かした力作の底にあるのは、地球のすばらしさは生命の輝きにあるという強い思いと、生命に対する畏敬の念であり、その思いを支えているのが「センス・オブ・ワンダー」(sense of wonder、神秘や不思議に目を見張る感性)です。カーソンは自然を間近から隅々まで丁寧に観察することで、いつも新鮮な驚きを感じ、そこから生命の輝きを捉えているのであり、この感性を子供達に期待しようと述べています。

52『レイチェル~レイチェル・カーソン 沈黙の春の生涯』(リンダ・リア著、上遠恵子訳、東京書籍)

 自然科学者として科学の毒性に直面し、技術文明に警告を発したレイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、今や環境保護運動のバイブルとなっていますが、本書はここに至るレイチェルの公私こもごもの苦闘の跡を、年代記的克明さで追っています。レイチェルは相次ぐがんの転移に見舞われつつ、政府、産業界、同僚からの露骨にして陰湿な無視、妨害、時としてセクハラと言える嫌がらせを受けながら、『沈黙の春』を完成させたのでした。著者は米ジョージ・ワシントン大学研究教授(環境史専攻)で、レイチェル研究の第一人者です。

53『増補改訂版 奪われし未来』(シ-ア・コルボ-ン著、 長尾力・堀千恵子訳、翔泳社)

 いわゆる「環境ホルモン」問題は、1996年に米国で出版された本書の告発から全て始まっています。環境問題の古典として欠かせないのが、1962年に米国の女性科学者レイチェル・カ-ソンが著わした『沈黙の春』で、DDTなどの農薬によって野生動物や人間に影響が出ていることを初めて警告し、大変な反響を呼んだため、学校の教科書などにも多く取り上げられるようになりましたが、『奪われし未来』はこれに次ぐ、「第二の『沈黙の春』」と評価されています。

54『エコ・エコノミー』(レスター・ブラウン著、北濃秋子訳、家の光協会)

 ワールドウォッチ研究所を設立した著者が、地球環境の異変を紹介しており、世界が持つべき共通の明確なビジョンとして「エコ・エコノミー」(Eco-economy)、つまり「環境的に持続可能な経済」(Environmentally Sustainable Economy)の実現を強調しています。

 著者は営利中心の経済ではなく、自然の生態系と調和する「環境コスト」(Environmental Cost)を織り込んだ経済に向かうしかないと述べ、所得税を減税し、環境に負荷の大きい生産と消費に課税する税制改革を訴えています。



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(6)歴史学

【世界史概説】

①『これでいいのか世界史教科書 人類の転換期に問う』(謝世輝、光文社)

「たとえば、高校世界史教科書の市場の三三パーセントのシェアを誇る『詳説世界史』(山川出版社)は、目次を見ればすぐわかるように、ヨーロッパ中心史観を貫徹している。『要説世界史』(山川出版社)に至っては、『世界史イコール、ヨーロッパ史・プラス・アルファ』という時代錯誤とも言うべきヨーロッパ中心史観を死守している。他の教科書はこの二冊より『公平』ではあるが、依然としてヨーロッパの比重があまりにも大である。」(謝世輝『これでいいのか世界史教科書』)

②『漫画版 世界の歴史』全10巻(集英社)

③『世界の歴史』全30巻(中央公論社)

 これらはすぐれた歴史読本ですが、急いでそろえるとお金がかかるので、古本屋でのんびりとそろえるとよいでしょう。

④『世界地図で読む 五大帝国の興亡 時代を読む鍵 大国興亡の原理を探る』(湯浅赳男、日本新書)

⑤『世界の名著5 ヘロドトス・ツキュディデス』(村川堅太郎、中央公論社)

⑥『世界の名著61 トインビー』(蝋山政道、中央公論社)

⑦『世界の名著45 ブルクハルト』(柴田治三郎、中央公論社)

⑧『世界の名著55 ホイジンガ』(掘込庸三、中央公論社)



【ヨーロッパ史】

➀『読んで旅する世界の歴史と文化 エジプト』(新潮社)

②『読んで旅する世界の歴史と文化 ギリシア』(新潮社)

③『古代ギリシアの旅――創造の源をたずねて――』(高野義郎、岩波新書)

④『ギリシア人――その歴史と文化――』(ロイド・ジョーンズ編、三浦一郎訳、岩波書店)

⑤『ローマと長安 古代世界帝国の都』(若山滋、講談社現代新書)

⑥『生き残った帝国 ビザンティン』(井上浩一、講談社現代新書)

「ローマは三度世界を統一した(一度は武力で、二度目はキリスト教で、三度目はローマ法によって)。」(イェーリング)

⑦『世界人名ものがたり 名前でみるヨーロッパ文化』(梅田修、講談社現代新書)

⑧『物語 アイルランドの歴史』(波多野裕造、中公新書)

⑨『イギリス名宰相物語』(小林章夫、講談社現代新書)

「イギリスの長い民主主義史の中で、最も立派な首相は誰かというアンケートをイギリス人に行なえば、おそらく第1位に当選するのはディズレーリでしょう。その次に来るのが、サッチャーかチャーチルかは意見が分かれるでしょうが、およそまともな教養人ならディズレーリをトップにすることは、まず間違いない。

 では、いったいディズレーリのどこが偉かったのか。…

 それは彼こそが、イギリス議会政治の基本ルールを確立した人物だからです。」(小室直樹『日本人のための憲法原論』)

⑩『大英帝国』(長島伸一、講談社現代新書)

⑪『東インド会社』(浅田實、講談社現代新書)

⑫『ハプスブルク家』(江村洋、講談社現代新書)

⑬『ハプスブルク家の女たち』(江村洋、講談社現代新書)

⑭『物語 ドイツの歴史』(阿部謹也、中公新書)

⑮『ドイツ統一戦争 ビスマルクとモルトケ』(望田幸男、教育社新書)

⑯『ドイツ参謀本部――その栄光と終焉』(渡部昇一、祥伝社新書)

⑰『ベルリン物語 都市の記憶をたどる』(川口マーン惠美、平凡社新書)

⑱『読んで旅する世界の歴史と文化 北欧』(新潮社)

⑲『物語 北欧の歴史』(武田龍夫、中公新書)

⑳『サガとエッダの世界 アイスランドの歴史と文化』(山室静、現代教養文庫)

㉑『ソビエトとロシア』(森本良男、講談社現代新書)

㉒『ロシア精神の源 よみがえる「聖なるロシア」』(高橋保行、中公新書)



【アメリカ史】

➀『物語 アメリカの歴史』(猿谷要、中公新書)

②『アメリカの逆襲 宿命の対決に日本は勝てるか』(小室直樹、光文社)

③『ハワイの歴史と文化』(矢口祐人、中公新書)

④『ハワイ・南太平洋の神話 海と太陽、そして虹のメッセージ』(後藤明、中公新書)



【中国史】

➀『中国通史』(堀敏一、講談社学術文庫)

②『中国の歴史』全7巻(陳舜臣、講談社文庫)

③『中国五千年』上下(陳舜臣、講談社文庫)

④『世界の名著11 司馬遷』(貝塚茂樹、中央公論社)

⑤『史記』全15巻(横山光輝、小学館ビッグ・ゴールド・コミックス)

⑥『史記』全10巻(講談社漫画文庫)

 ヨーロッパ統合にも匹敵する古代における中国統一を実現した秦が滅んだ後、項羽と劉邦の2人が天下の覇権を争ったことは有名ですが、項羽は西方の大国だった秦に対抗し得る南方の大国楚の名門出身で、誰もかなわないほど能力に秀でた将軍だったのに対して、劉邦は飲み屋のおばあさんにツケで飲ませてもらっているような飲んだくれのオヤジでした。ところが、天下を取ったのは劉邦であり、漢の高祖として、歴代皇帝がモデルとして仰ぐ人物となるのです。

 実は劉邦の下には、「漢の三傑」と呼ばれる張良・韓信・蕭何をはじめ、劉邦をはるかにしのぐ人材が多数いました。軍師張良は中国最大の軍師太公望呂尚の流れを汲む者で、後の諸葛亮孔明も憧れた人物です。将軍韓信は項羽に匹敵する軍事力を持ち、主君である劉邦はせいぜい10万人の兵の将にすぎないが、自分は「多々ますます弁ず」(多ければ多いほどよい。数十万人だろうが、100万人だろうが動かして見せる)と豪語した人物です。ちなみに日本でも最も軍事動員した人物は小田原攻めで20万人を動かした豊臣秀吉でした。これに対して、ムッとした劉邦は「じゃあ、なぜお前はわしの下にいるんじゃ?」と聞くと、韓信は「私は兵の将たる器ですが、陛下は将の将たる器なのです」と答えたと言います。後に宰相となる蕭何は劉邦を見出したことでも知られていますが、劉邦が秦の都咸陽を占領した時には他の者が宝物殿などに殺到する中、ただ一人、秦の歴史書や法律、各国の人口記録などが保管されている文書殿に走り、項羽による破壊の前に全て持ち帰ることに成功し、これが漢王朝の基礎作りに役立ったと言われています。

⑦『三国志』(吉川英治、六興出版)

⑧『三国志』全10巻(講談社漫画文庫)

⑨『諸葛孔明』(竹川弘太郎、講談社漫画文庫)

⑩『中国英雄伝』全3巻(講談社漫画文庫)

 日本古代史研究の最有力史料は、中国の正史に出てくる倭国の記録です。本書はそれらを1冊にまとめたものなので、手元にあると便利です。「徐福伝説」や「扶桑国」の存在、「倭国」と「日本国」の区別など、興味深い内容がつまっています。

⑪『騎馬民族史 正史北狄伝』1・2・3(内田吟風・田村実造他訳注、東洋文庫)

⑫『アジア超帝国の興亡と謎 草原と砂漠を制した騎馬帝国の興亡史』(佐治芳彦、日本文芸社)

⑬『東アジア民族史 正史東夷伝』1・2(井上秀雄他訳注、東洋文庫)

⑭『中国正史の古代日本記録』(いき一郎編訳、葦書房)

⑮『新訂中国正史日本伝(1)魏志倭人伝・後漢書倭伝・宋書倭国伝・隋書倭国伝』(石原道博編訳、岩波文庫)

⑯『新訂中国正史日本伝(2)旧唐書倭国日本伝・宋史日本伝・元史日本伝』(石原道博編訳、岩波文庫)

⑰『古代中国と倭族』(鳥越憲三郎、中公新書)

⑱『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』(森安孝夫、講談社)

⑲『シルクロード』(長澤和俊、講談社学術文庫)

⑳『新書東洋史⑧ 中央アジアの歴史』(間野英二、講談社現代新書)

㉑『元朝秘史』(小澤重男、岩波新書)

㉒『パックス・モンゴリカ チンギス・ハンがつくった新世界』(ジャック ウェザーフォード著、星川淳・横堀冨佐子訳、NHK出版)

㉓『草原の国モンゴル』(ダムディンジャヴィン・マイダル著、加藤九祚訳、新潮選書)

㉔『クビライの挑戦 モンゴル海上帝国への道』(杉山正明、朝日新聞社)

㉕『大モンゴルの世界 陸と海の巨大帝国』(杉山正明、角川選書)

㉖『世界の歴史9 大モンゴルの時代』(杉山正明・北川誠一、中央公論社)

㉗『モンゴル帝国の興亡』上下(杉山正明、講談社現代新書)

㉘『モンゴル帝国の歴史 巨大帝国の興亡』(ディウヴィッド・モーガン著、杉山正明・大島淳子訳、角川選書)

㉙『モンゴル帝国史』全6巻(ドーソン著、佐口透訳、東洋文庫)

㉚『モンゴルVS西欧VSイスラム 13世紀の世界大戦』(伊藤敏樹、講談社選書メチエ)

㉛『モンゴルの西征 ペルシア知識人の悲劇』(勝藤猛、創元新書)

㉜『モンゴル帝国の興亡』(岡田英弘、ちくま新書)

 元来シャーマニズムを信仰してきたモンゴルは、初代チンギス=カンの時代より多宗教の共存を許し、いずれも1つの天神(テングリ)を祀るものとして保護してきました。モンゴル高原のいくつかの部族で信仰されていたネストリウス派のキリスト教は元代でも依然として信者が多く、またローマ教皇の派遣した宣教師が大都に常設の教会を開いて布教を行っていたのです。

 第5代カーンにして元朝を創始したクビライはチンギスが結集させた「草原の軍事力」を支配の根源として保持しつつ、「中華の経済力」を管理し、「ムスリムの商業力」を再編成して、遊牧と農耕の世界を融合し、「モンゴル世界連邦」を創設しています。東西ウルスの融和により、モンゴル帝国は大カーンを頂点とする緩やかな連合として結びつき、いわゆるシルクロード交易の活況ぶりは空前となり、この状況を指して「パックス・モンゴリカ」(モンゴルの平和)と呼ばれることがあります。元の首都大都は全モンゴル帝国の政治・経済のセンターとなり、マルコ=ポーロなど数多くの西方の旅行者が訪れ、その繁栄はヨーロッパにまで伝えられました。江南の港湾都市では海上貿易が隆盛し、文永・弘安の役以来公的な国交が途絶していた日本からも、私的な貿易船や留学僧の渡来は続き、活発な交流が続いたことが明らかになっています。

 ところで、銅銭不足により、北宋代には「交子」、南宋代には「会子と呼ばれる紙幣が流通していましたが、モンゴル帝国も第2代オゴデイ=カーンの時代には既に金や南宋で使われていた紙幣を取り入れ、帝国内で使用する事が出来る「交鈔」(こうしょう)と呼ばれる紙幣を流通させていました。交鈔は金銀との兌換(交換)が保証されており、包銀の支払いも交鈔で行うことができるようにして、紙幣の流通を押し進めるのです。絶えず紙幣の増刷が行われたために紙幣価値の下落は避けられませんでしたが、元では塩の専売制を紙幣価値の安定に寄与させてこれを解決しています。すなわち、生活必需品である塩は専売制によって政府によって独占販売されますが、政府は紙幣を正貨としているため、紙幣でなければ塩を購入することはできません。これは紙幣は政府によって塩との交換が保証されているということであり、絶対量の増加がほとんど起こらない金銀に対し、消費財である塩は常に生産され続けるので、塩の販売という形で紙幣の塩への「兌換」をいくら行っても、政府の兌換準備額は減少しないのです。こうして、専売制とそれによる政府の莫大な歳入額を保証として紙幣の信用は保たれ、金銀への兌換準備が不足しても紙幣価値の下落は進みにくい構造が保たれました。

 さらに中国では、政府の製塩所で生産された塩を民間の商人が購入するには、「塩引」(えんいん)と呼ばれる政府の販売する引換券が必要とされましたが、塩引は塩と交換されることが保証されているために、紙幣の代用に使うことができました。元はこれを発展させ、宋では銭貨によって販売されていた塩引を、銀・交鈔によって販売したのです。このようにして、塩引は国際通貨である銀と交換される価値を獲得し、しかも一枚の額面額が高いために、商業の高額決済に便利な高額通貨ともなったわけです。

 かくして、塩との交換で保証された交鈔・塩引を銀に等しい通貨として流通させることによって銀の絶対量の不足を補いつつ、塩引の代金と商税を銀単位で徴収したことにより、元の中央政府、皇帝の手元には、中国全土から多量の銀が集められました。

㉝『マルコ=ポーロ 東西を結んだ歴史の証人』(佐口透、清水新書)

㉞『マルコ・ポーロ 東方見聞録』(青木富太郎訳、現代教養文庫)

㉟『東方見聞録』1・2(マルコ・ポーロ著、愛宕松男訳注、東洋文庫)

 モンゴル帝国史がなかなか正当に評価されなかった理由として、それが真の「世界史」であるがゆえに史料が東西にわたり、それらを総合的に扱える専門家がいなかったということも大きいと言えます。モンゴル帝国史研究の基礎となる文献は、漢文・ペルシア語の2大史料群の他、20数カ国語に及び、研究論文も10数カ国語にわたるため、全てに通暁した専門家はおらず、かろうじて「東方史料群」の専門家、「西方史料群」の専門家がいるのみでした。

 フレグ・ウルス(イル・ハン国)第7代ハンのガザンの命令で宰相ラシード=アッディーンが編纂した「モンゴル帝国の正史」『集史』に至って、人類史上、最大の歴史書と称されています。例えば、『集史』の「世界緒族史」の部分に対応し、特にその中の4つの部分を抜き出して、本篇に当たる「モンゴル史」の部分と合わせる形で支配者達の系譜として仕立てられた『五族譜』の構成は次のようになっています。

●『旧約聖書』の世界から、イーサー(イエス)を経て、アラブ・イスラーム出現に至るまでのユダヤ史。

●最後の預言者とされるムハンマドから、様々なイスラーム王朝を経て、1258年にモンゴルに滅ぼされたアッバース朝最後の第37代カリフ、ムスタースィムに至るまでのイスラーム史。

●伝説のモンゴル王ドブン=メルゲンから始まり、光(ヌール)に感じて身籠ったアラン=ゴアを経て、世界帝国の創業者チンギス=カンを起点に一気に世界の支配者となった全モンゴル王族の系譜。

●ローマ皇帝・神聖ローマ皇帝とローマ教皇を二頭立てに並列した、モンゴル時代までのフランク史。

●伝説の人祖盤古(ばんこ)から始まる、中国(ヒタイ)史の歴代統治者の系譜。

㊱『チムール シルクロードの王者』(川崎淳之助、朝日選書)

㊲『康熙帝伝』(ブーヴェ著、後藤末雄訳、矢沢利彦校注、東洋文庫)

 ヨーロッパでプロテスタント運動が起こり、人口の3分の1を失ったため、ローマ・カトリックは失地回復の新天地としてアジアや中南米に盛んに宣教を行い、特に明・清代の中国ではカトリック系修道会であるイエズス会がイタリアの大学で近代科学を学んで、まず西学としてこれを伝え、その天文暦学・地理学・医薬学・兵器などの威力を知らしめた上で、自らを西方の儒者である西儒として、西学の背景としてのキリスト教を西教(天主教=カトリック。プロテスタントは基督教と表記します)として教えたため、爆発的に広がりました。清朝黄金時代を現出した康熙帝に至っては、自らユークリッド幾何学を学んで、皇子達に講義するほどで、キリスト教に対する理解もあり、そのまま行けば、人口1億人のキリスト教国家が誕生する可能性がありました。

 ところが、イエズス会が中国の祭天の儀や孔子礼拝、祖先崇拝の儀式(典礼)を尊重したのに対し、同じくカトリック系修道会であるドミニコ会やフランシスコ会が「これは偶像崇拝である」とローマ教皇に訴えたため、中国の伝統文化を真っ向から否定することとなり、「典礼問題」が発生しました。かくして、康熙帝はイエズス会以外の布教を禁止し、続く雍正帝のキリスト教の全面禁止となり、中国のキリスト教化は挫折します。キリスト教中国となる次のチャンスは、清朝末期の洪秀全による太平天国運動ですが、これも清朝の利権につられた英米軍によってつぶされ、やがて、太平天国運動に革命運動を学んだ毛沢東によって、中国は唯物無神論的共産主義の国となります。

㊳『客家』(高木桂蔵、講談社現代新書)

㊴『日本人・中国人・韓国人―新東洋三国比較文化論』(金文学、白帝社)

㊵『日中韓 表の顔 裏の顔 これでいいのか?』(金文学、祥伝社黄金文庫)

 金文学は、中国の瀋陽で朝鮮族3世として生まれ、東北師範大学日本文学科を卒業し、同志社大学大学院・広島大学大学院に留学した後、日本の大学で教えている日韓中の三国の歴史・文化に通じた比較文学・文化学者です。



【朝鮮・韓国史】

➀『図説 韓国の歴史』(金両基監修、姜徳相・鄭早苗・中山清隆編)

②『物語 韓国史』(金両基、中公新書)

③『韓国の神話・伝説』(黄泪江、東方書店)

④『新書東洋史⑩ 朝鮮史 その発展』(梶村秀樹、講談社現代新書)

⑤『朝鮮正史日本伝1 三国史記倭人伝他六篇』(佐伯有清編訳、岩波文庫)

⑥『朝鮮正史日本伝2 高麗史日本伝』上下(武田幸男編訳、岩波文庫)

⑦『古代朝鮮と倭族』(鳥越憲三郎、中公新書)

⑧『渤海国の謎 知られざる東アジアの古代王国』(上田雄、講談社現代新書)

⑨『日本渤海交渉史』(上田雄・孫栄健、六興出版)

⑩『海東諸国紀』(申叔舟著、田中健夫訳注、岩波文庫)

⑪『西洋と朝鮮 その異文化格闘の歴史』(姜在彦、文藝春秋)

 韓国史は日本と最も関係が深い隣国史なので、通史として把握しておきたいところです。

⑫『三・一独立運動と堤岩里事件』(小笠原亮一・姜信範・飯沼二郎・李仁夏・池明観・土肥昭夫・澤正彦・飯島信、日本基督教団出版局)

⑬『別冊宝島39 朝鮮・韓国を知る本』(JICC出版局)

⑭『誰でも知りたい 朝鮮人の日本人観 総解説』(琴秉洞・高柳俊男監修、自由国民社)

⑮『朝鮮人女性がみた「慰安婦問題」 明日をともに創るために』(尹貞玉他、三一新書)

⑯『板門店 パンムンジョム 韓国民族分断の現場』(ウェイン・A・カークブライド、ハンリム出版社)



【日本史】

➀『中公文庫版 日本の歴史』全26巻+別巻1(中公文庫)

②『日本の歴史』全26巻(講談社学術文庫)

③『日本人とは何か。神話の世界から近代まで、その行動原理を探る』上下(山本七平、PHP文庫)

④『外国人による日本論の名著 ゴンチャロフからパンゲまで』(佐伯彰一・芳賀徹編、中公新書)

⑤『世界の日本人観総解説 各国の“好意と憎悪”の眼が日本を見ている!』(自由国民社)

⑥『日本書紀』(一)~(五)(坂本太郎・家永三郎・井上光貞・大野晋校注、岩波文庫)

⑦『日本書紀全現代語訳』上下(宇治谷孟、講談社学術文庫)

⑧『日本書紀』上・中・下(山田宗睦訳、教育社新書)

⑨『臨時増刊歴史と旅 歴代天皇総覧』(秋田書店)

⑩『別冊歴史読本 不老不死の超古代史』(新人物往来社)

⑪『日本原記 天皇家の秘密と新解『日本書紀』(朴炳植、情報センター出版局)

⑫『物語日本史』上中下(平泉澄、講談社学術文庫)

⑬『海を越えた縄文人』(テレビ東京編、祥伝社)

⑭『謎の出雲帝国 天孫一族に虐殺された出雲神族の怒り』(吉田大洋、徳間書店)

⑮『真説「徐福伝説」 謎に包まれた「日本人の祖先」の実像』(羽田武栄・広岡純、三五館)

⑯『「邪馬台国」はなかった』(古田武彦、朝日文庫)

⑰『失われた九州王朝』(古田武彦、朝日文庫)

⑱『盗まれた神話 記・紀の秘密』(古田武彦、朝日文庫)

⑲『倭人伝を徹底して読む』(古田武彦、朝日文庫)

 日本古代史研究に衝撃を与えた古田史学の基本3書と、いわゆる「邪馬台国」(史料上は「邪馬壱国」)の記述が出てくる『三国志』魏志倭人伝(ちなみに『魏志倭人伝』という書物は存在しません)の徹底分析です。こういう史料批判を通過すると、中学・高校の日本史教科書が如何に問題をはらんでいるか、見えてきます。日本史の教師で教える内容に疑問を覚え、良心の呵責を感じる人は実は多いのです。学界では従来の「定説」を守る立場が主流となっていますが、これらの書物を通じて、多くの人が「古代史のロマン」を燃え上がらせていきました。

⑳『邪馬一国への道標』(古田武彦、角川文庫)

㉑『シンポジウム 邪馬壹国から九州王朝へ』(古田武彦編、新泉社)

㉒『「風土記」にいた卑弥呼』(古田武彦、朝日文庫)

㉓『日本列島の大王達』(古田武彦、朝日文庫)

㉔『法隆寺の中の九州王朝』(古田武彦、朝日文庫)

㉕『吉野ヶ里の秘密 解明された「倭人伝」の世界』(古田武彦、光文社)

㉖『古代史をひらく独創の13の扉』(古田武彦、原書房)

㉗『銅鐸の謎 この絵は何を物語るか』(大羽弘道、光文社)

㉘『飛鳥王朝の悲劇 蘇我氏三代の栄光と没落』(大羽弘道、光文社)

㉙『日本文化交流小史 東アジア伝統文化のなかで』(上垣内憲一、中公新書)

㉚『新書日本史② 律令制の虚実』(村井康彦、講談社現代新書)

㉛『日本史から見た日本人・古代編 「日本らしさの源流」』(渡部昇一)

㉜『日本史から見た日本人 鎌倉編 「日本型」行動原理の確立』(渡部昇一)

㉝『「道」―中世の理念』(小西甚一、講談社現代新書)

㉞『戦国武将ガイド』(米沢二郎・小山内新、新紀元社)

㉟『信長 近代日本の曙と資本主義の精神』(小室直樹、ビジネス社)

㊱『支倉常長 慶長遣欧使節の悲劇』(大泉光一、中公新書)

㊲『江戸時代の朝鮮通信使』(李進煕、講談社学術文庫)

㊳『ニコライの見た幕末日本』(ニコライ著、中村健之助訳、講談社学術文庫)

㊴『宣教師ニコライと明治日本』(中村健之助、岩波新書)

㊵『逆賊と元勲の明治』(鳥海靖、講談社学術文庫)

「明治三十一(一八九八)年十二月十八日、寒気が一段と厳しさを加えつつあるさなか、東京の上野公園は、時ならぬ賑わいで雑踏していた。数年来、上野公園に建設が進められてきた西郷隆盛の銅像がようやく完成し、この日、その除幕の式典が行われたのである。

 西郷死してすでに二十有余年。この長い歳月がすべてを恩讐の彼方に押し流してしまったのであろうか。

 とはいえ、よく考えてみると、やはりこれは、いささか奇妙な光景と言わなければならない。西郷はたしかに明治維新の最大の功労者の一人であり、死後その国民的人気はいっそう高まった感はあるとはいっても、仮にも士族暴動の指導者として政府に反旗をひるがえし、一切の官位・名誉を剥奪されて、「逆賊」として死んだ人物なのである。もちろん、明治二十二年の憲法発布によってその賊名は除かれ、正三位を追贈されていたものの、そうした人物の銅像が首都東京の玄関口に建設され、しかも、かつて西郷たちが打倒せんとした当の政府を代表する内閣総理大臣山県有朋が祝詞を述べたというのだから……。その山県は西南戦争に際して陸軍卿として、西郷軍討伐の総指揮をとった人物である。

 恐らく、こんな光景は日本以外の国ではめったにお目にかかることが出来ないのではあるまいか。例えば、トロツキーがいかにロシア革命に功労があったといっても、ソ連において、モスクワの中心部にトロツキーの銅像が建設され、その宿敵たるスターリンが除幕式で祝詞を読むなどといった光景が想像出来たであろうか。それだけに、西郷の銅像が建てられたことは、当時日本に住んでいた外国人には大きな驚きだったようである。

「欧州諸国では主権者に叛いた者は斬首したうえ、四肢を切断するのが習慣であった。日本では、明治大帝が西南の役における多数の謀叛人を赦されたうえに、その首領たる西郷の銅像を、上野に建てることを許された。それにはわれわれ外国人も驚いた」

 明治初年、大学南校(東京大学の前身)に奉職していたアメリカ人教師ウィリアム・グリフィスは、このように日本における反逆者に対する寛大な措置に、驚きの感想を洩らしている。」(鳥海靖『逆賊と元勲の明治』)

㊶『天皇恐るべし 誰も考えなかった日本の不思議』(小室直樹、ネスコ)

「日本の天皇は神である。」(明治4年、1871年に行なわれた廃藩置県を見て、英国駐日公使パークスが述べた言葉)

「ヨーロッパにおける憲法は、いずれも歴史の中で作られてきたものであって、どれも一朝一夕にできたものではない。しかるに、我が国ではそうした歴史抜きで憲法を作らなければならない。ゆえに、この憲法を制定するに当たっては、まず我が国の『機軸』を定めなければならない。……ヨーロッパにおいて、その『機軸』となったものは宗教である。ところが、日本においては『機軸』となるべき宗教がどこにもない。」(枢密院での帝国憲法草案審議の冒頭での伊藤博文の演説)

「さて、その伊藤は憲法を作るに当たって、宗教という機軸が必要だということに思い至ったわけですが、その機軸となるべき宗教とは何か。

 伊藤はその答えを、この枢密院会議で明確に述べています。

「我が国にありて機軸となすべきは、ひとり皇室あるのみ」

 すなわち、天皇教こそが近代日本を作るための機軸だというわけです。

 彼はこの演説で明確に「既存の仏教や神道、あるいは儒教は、日本の新しい憲法の土台にはなりえない」と述べています。

 これはまことに正しい指摘です。

 江戸時代、仏教はすでに葬式仏教になっていますし、伝統的な神道にはキリスト教のよな「神学」はありません。さらに中国の儒教は、日本では宗教性が抜けてしまっています。したがって、どうやっても既成の宗教では間に合わない。

 そこで伊藤は江戸幕末を風靡した尊王思想を、新政府の宗教にすることで日本を近代化、つまりデモクラシー化、資本主義化するというアイデアを思い付いた。

 この伊藤のもくろみは、見事に的中しました。

 すでに述べたように、教育勅語などを通じて、日本人は挙げて「天皇の赤子(せきし)」という意識を持つようになりました。近代日本人は西洋人と同じように、「日本人は平等である」と信じるようになった。かくして日本は近代国家への道を歩むようになったというわけです。」(小室直樹『日本人のための憲法原論』)

㊷『福沢諭吉 国民国家論の創始者』(飯田鼎、中公新書)

㊸『明六社の人びと』(戸沢行夫、築地書館)

㊹『明治六年政変』(毛利敏彦、中公新書)

㊺『台湾出兵』(毛利敏彦、中公新書)

 近代史にはいわゆる「虚像」はそれほどないのかと言えば、大ありです。代表的なものが「征韓論」問題でしょう。毛利敏彦の2冊を読めば、「台湾問題」と「韓国問題」がリンクしていたことが分かり、さらに琉球―台湾―韓国―満州―中国本土という近代日本の対外戦略の軌跡がくっきりと浮かんでくることでしょう。

㊻『ヘボンの生涯と日本語』(望月洋子、新潮選書)

㊼『ベルツの日記』上下(トク・ベルツ編、岩波文庫)

㊽『日本の近代11 企業家たちの挑戦』(宮本又郎、中央公論新社)

㊾『渋沢栄一の思想と行動「近代の創造」』(山本七平、PHP研究所)

㊿『昭和天皇の研究 その実像を探る』(山本七平、祥伝社)

 日本社会の分析という点では、やはり山本「日本学」の功績を挙げざるを得ません。「空気(ニューマ)の発見」「御成敗式目研究」「鈴木正三の再認識」「崎門の学の再評価」などじっくりと掘り下げた論考には見るものがあります。ユダヤ教と日本教の研究がライフワークであったので、日本人がなかなか得難い視点を提示してくれており、日本の学問を実り豊かにしてくれたと言えるでしょう。

51『「大東亜共栄圏」の思想』(栄沢幸二、講談社現代新書)

 近現代史は歴史のポイント中のポイントです。



【西アジア史】

➀『西アジアとインドの文明』(岩村忍、講談社学術文庫)

②『中東を学ぶ人のために』(末近浩太・松尾昌樹編、世界思想社)

③『アラブの格言』(曽野綾子、新潮社)

④『オスマン帝国』(鈴木董、講談社現代新書)

「最盛期のオスマン帝国の領土は、アナトリアとバルカンを中核に、現在のイランとモロッコを除く中東のほぼ大部分におよんでいた。

 現在この地域は、民族紛争と宗教紛争の巣窟と化している。民族紛争のるつぼとなってしまった旧ユーゴスラヴィア、アラブ人とクルド人の抗争の場と化したイラク、宗派紛争の代表例となってしまったレバノン、そしてイスラエルとパレスチナ人の闘争の続くパレスチナ。これらはすべて、かつてはオスマン帝国の領土の一部であった。

 それにもかかわらず、少なくとも前近代のオスマン帝国は、決して激しい宗教紛争・民族紛争のるつぼではなかった。確かに当時も差別と反目もあったであろう。小さな紛争もまたあったであろう。しかし、そのような火種が果てしない紛争の連鎖へと拡大していくことを、防ぎうるような仕組が成立していたのである。

 それは、民族も宗教も異にする多種多様な人々を、ゆるやかに一つの政治社会の中に包み込む、統合と共存のシステムであった。

 そこでは、イスラム教徒だけではなく、キリスト教徒もユダヤ教徒もが、独自の宗教を信奉することが尊重されていた。町々には、イスラムのモスクのほかに、キリスト教会やユダヤ教のシナゴーグがそびえ立っていた。

 また、支配者の言葉であるトルコ語だけではなく、言語を異にする諸民族は自らの母語を使って生活し、著作し、出版することに何の差しつかえもなかった。

 民族紛争と宗教紛争の活断層のような地域をおおいながら、オスマン帝国が驚くほど長期にわたって存続しえた秘密の一半は、このゆるやかな統合と共存のシステムにあった。

 そのシステムがいかに優れていたものであったかは、オスマン家の支配が六百数十年も続いたことが証明している。ビザンツ帝国が一千年続いたといっても、内部では多くの王朝が交替している。

 イスラム世界の歴史においても、これほどの超大国で長期に存続しえたのは、アッバース朝の五〇〇年だけである。一四世紀イスラム世界の大歴史哲学者イブン・ハルドゥーンが「国家の寿命は、通例三代一二〇年をこえない」と喝破したほどに有為転変の激しいイスラム世界では、オスマン帝国は稀有の例外となっているのである。」(鈴木董『オスマン帝国』)

⑤『トルコ民族主義』(坂本勉、講談社現代新書)

⑥『遠くて近い国トルコ』(大島直政、中公新書)

 イスラーム世界における拠点国家は、「アラブの盟主」エジプト、聖地メッカ・メジナを抱え、世界中のムスリムにとって「信仰の祖国」であるサウジアラビア、シーア派の中心であるイラン、ケマル・アタチュルク以来、イスラーム世界の政治的指導者スルタンも宗教的指導者カリフも廃止して、近代西欧型の世俗化政策を取り、NATOに加盟して、EU加盟を目指すトルコ共和国の4つです。



【南アジア・東南アジア史】

➀『南アジア社会を学ぶ人のために』(田中雅一・田辺明生編、世界思想社)

②『読んで旅する世界の歴史と文化 インド』(新潮社)

③『物語 ヴェトナムの歴史』(小倉貞男、中公新書)

④『物語 フィリピンの歴史』(鈴木静夫、中公新書)



【アフリカ史】

➀『アフリカを学ぶ人のために』(内海成治・桑名恵・杉田映理編、世界思想社)

②『アフリカ社会を学ぶ人のために』(松田素二編、世界思想社)

③『新書アフリカ史 改訂新版』(宮本正興・松田素二編、講談社現代新書)

④『経済大陸アフリカ』(平野克己、中公新書)

⑤『物語 ナイジェリアの歴史 「アフリカの巨人」の実像』(島田周平、中公新書)



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第4章 自然科学

(1)科学論・科学史

➀『コペルニクス革命 科学思想史序説』(トーマス・クーン、講談社学術文庫)

 「天動説」の体系の様々なほころびが明確化するのは大航海時代です。この時代、航海術が大きく変わりました。それまでの航海は沿岸航海で、陸地の見える場所しか船を運航しませんでした。したがって、何も目印のない大海原では行き先が分からず、航海もできなかったのです。やがて、羅針盤がそれを可能にし、磁石と正確な星図があれば遠洋でも自分の緯度が正確に把握できるようになりました。しかし、当時の星表には問題がかなりあり、特に惑星の位置は数度単位での誤差が常にあったのです。

 さらにもう1つの問題が生じつつあり、1年の長さが当時使用されていたユリウス暦の1年よりわずかに短かったのです。この結果、暦の上の季節と実際の季節に約10日のずれが生じていました。キリスト教では春分の日が移動祝祭日の計算基準日になっており、10日もずれているのは問題がありました。この問題はロジャー・ベーコンによって提起されていましたが、1年の正確な長さが分からず、300年間放置されていたのです。当時使われていた「1年」(回帰年)の定義は、メソポタミア時代から現代に至るまでも根本的には変わらないものですが、「分点」または「至点」(春分、秋分、冬至、夏至のいずれか)から次の同じ「分点」または「至点」までの時間です。しかし、16世紀当時に信じられていたプトレマイオス体系では、「1年」という値は他の天文学的な値からは孤立した独立の量で、太陽の位置を数十年から数百年以上かけて測定する以外に、「1年」の値を決定する方法がありませんでした。クーンによれば、この観測には大変な困難が伴い、改暦問題は16世紀以前の天文学者たちを常に悩ませることになったのです。

 カトリックの司祭であったコペルニクスにとって、正確でない「1年」の長さが使われ続けることは重大な問題でしたが、それは主に宗教的な理由からでした。コペルニクスは「地動説」を新プラトン主義の太陽信仰として捉えていたとも言われています。コペルニクスはアリスタルコスの説を参考にして太陽を中心に置き、地球がその周りを1年かけて公転するものとして、1恒星年を365.25671日、1回帰年を365.2425日と算出しました。ここで1年の値が2種類あるのは、1年の基準を太陽の位置にとるか、他の恒星の位置にとるかの違いによります。1543年、その測定方法や計算方法を全て記した著書『天体の回転について』を刊行したのですが、誰でも同じ方法で「1年」の長さや各惑星の公転半径を測定し直せるようにしたことが、コペルニクスを「地動説」の創始者とする理由なのです。

②『近代科学を超えて』(村上陽一郎、講談社学術文庫)

③『新しい科学論 「事実」は理論を倒せるか』(村上陽一郎、講談社BLUE BACKS)

④『科学史の逆遠近法』(村上陽一郎、講談社学術文庫)

 日本を代表する科学史・科学哲学の専門家は村上陽一郎です。識見の確かさ、視野の広さには定評があります。入門書として使えるでしょう。

⑤『99.9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』(竹内薫、光文社新書)

⑥『科学者とキリスト教 ガリレイから現代まで』(渡辺正雄、講談社BLUE BACKS)

⑦『科学者は神を信じられるか クォーク、カオスとキリスト教のはざまで』(ジョン・ポーキングホーン著、小野寺一清訳、講談社ブルーバックス)

 キリスト教と近代科学は密接な関係があります。

●ガリレイ~イタリアの数学者・物理学者、『天文対話』。宇宙や自然を「第二の聖書」と考え、仮説を実験によって実証し、数学的に論証することで近代科学の方法を創始し、宗教と科学を分離します。天文学・力学分野で実験をもとに慣性の法則や自由落下の法則(落体の法則)を発見し、近代物理学の基礎を築きました。また、『天文対話』で地動説を支持しましたが、宗教裁判にかけられて自説を撤回しました。

●目的論的自然観~自然界の現象は一定の法則によって規定されているという見方。

●機械論的自然観~自然を機械のような存在としてとらえ、自然界の事象を物理的な因果関係のみによって説明する見方。デカルトの物心二元論やニュートンの力学はこの立場に立ち、ここから自然の支配・利用が進みました。

⑧『ケンブリッジの天才科学者たち』(小川慶太、新潮選書)

⑨『心にしみる天才の逸話20 天才科学者の人柄、生活、発想のエピソード』(山田大隆、講談社ブルーバックス)

 ある意味、天才達は奇人・変人です。

⑩『異貌の科学者』(小山慶太、丸善ライブラリー)

⑪『ノーベル賞 二十世紀の普遍言語』(矢野暢、中公新書)

⑫『ノーベル賞でつかむ現代科学』(小山慶太、岩波ジュニア新書)

⑬『ノーベル賞の発想』(三浦賢一、朝日選書)

⑭『ノーベル賞の光と陰』(『科学朝日』編、朝日選書)

⑮『ノーベル賞の100年 自然科学三賞でたどる科学史』(馬場錬成、中公新書)

 ノーベル賞の歴史は科学史を理解する上でかっこうの通史です。

「二〇世紀は物理学の世紀と言われている。一九世紀末から始まった物理学の新発見から新しい知見を得て量子力学が誕生し、その成果はたちまち応用研究へ発展する。第二次世界大戦後は半導体やコンピューター技術の研究開発へとつながり、今日の高度情報化社会を実現した。二〇世紀物理学の重要な業績は、ほとんどがノーベル賞に輝いている。ノーベル賞業績の歴史は、同時に二〇世紀物理学の歴史と言っていいだろう。

 二〇世紀物理学の新しい展開の先駆けとなったのは、一八九五年のエックス線の発見であり、一八九六年の放射能の発見であり、一九〇〇年の量子仮説の提唱である。まるで絵に描いたような重要な発見と提唱という胎動の中で二〇世紀が幕を開け、物理学は爆発的な発展につながっていくのである。」(馬場錬成)

「二〇世紀生物学の最大の発見は、遺伝子DNAの構造の発見である。二〇世紀前半の科学のエポックメーキングな出来事は、量子力学の誕生と発展である。理論的成果の集積が進むにつれてさまざまな現象の原理原則が明らかになり、電子工業を中心に工業化への応用研究が急速に進展した。DNAの構造の発見は、分子生物学という新しい学問を創造し、生物、化学、物理、医学など既成の学問領域を乗り越えた、インターディシプリナリー(異なった学問分野にまたがること)に広がり、『生命科学の世紀』とされる二一世紀へとつながった。」(馬場錬成)

⑯『エラノス叢書別巻 エラノスへの招待 回想と資料』(M.グリーン著、桂芳樹訳、平凡社)

⑰『複雑系入門 知のフロンティアへの冒険』(井庭崇、福原義久、NTT出版)

⑱『複雑系科学入門』(塩沢由典、生産性出版)

⑲『サイエンス・パラダイムの潮流 複雑系の基底を探る』(黒崎政男編、丸善ライブラリー)

⑳『「複雑系」とは何か』(吉永良正、講談社現代新書)

㉑『図解雑学 複雑系』(今野紀雄、ナツメ社)

㉒『複雑系 生命現象から政治、経済までを統合する知の革命』(M・ミッチェル・ワールドロップ著、田中三彦・遠山峻征訳、新潮社)

㉓『「複雑系」で、不可解な世の中を解く』(西山賢一、ごま書房)

㉔『複雑系の意匠 自然は単純さを好むか』(中村量空、中公新書)

 これらで「複雑系」の意義・経緯・全体像を大づかみにとらえることができるでしょう。



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(2)数学

①『数学嫌いな人のための数学 数学原論』(小室直樹、東洋経済新報社)

 いわゆる「数学」「数学的思考」が方法論としてどのような価値があるのか、知ることができます。数学に対する興味が湧いてくるでしょう。

②『数学の歴史』(森毅、講談社学術文庫)

③『魔術から数学へ』(森毅、講談社学術文庫)

④『数学的思考』(森毅、講談社学術文庫)

 著者は、学者の間では評価の高い人です。経済学が「社会科学の女王」なら、数学は「自然科学の女王」といったところでしょうか。通史として見ておけば、全体像がとらえやすくなります。

⑤『異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』(チャールズ・サイフェ著、林大訳、早川書房)

⑥『0の不思議 誕生からコンピュータ処理まで』(堀場芳数、講談社BLUE BACKS)

⑦『対数eの不思議 無理数eの発見からプログラミングまで』(堀場芳数、講談社BLUE BACKS)

⑧『円周率πの不思議 アルキメデスからコンピュータまで』(堀場芳数、講談社BLUE BACKS)

「数学は科学の女王、数論は数学の女王」(ガウス)

⑨『物理と数学の不思議な関係 遠くて近い二つの「科学」』(マルコム・E・ラインズ著、青木薫、ハヤカワ文庫)

⑩『中国の数学』(薮内清、岩波新書)

⑪『大数学者』(小堀憲、新潮選書)

⑫『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』(加藤文彦、中公新書)

⑬『数学をつくった人びと』Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(E・T・ベル著、田中勇・銀林浩訳、ハヤカワ文庫)

 数学史は実は文系の人もけっこう関心を持っています。

⑭『オイラーの贈り物 人類の至宝=-1を学ぶ』(吉田武、東海大学出版会)

⑮『ガロア 天才数学者の生涯』(加藤文彦、中公新書)

⑯『「集合」の話』(川尻信夫、講談社現代新書)

⑰『無限論の教室』(野矢茂樹、講談社現代新書)

⑱『無限の果てに何があるか 現代数学への招待』(足立恒雄、角川ソフィア文庫)

⑲『ゲーデル・不完全性定理 ”理性の限界”の発見』(吉永良正、講談社BLUE BACKS)

 20世紀における「数学上の最大の事件」は、記憶に新しいところでは「フェルマーの定理」の最終証明かもしれませんが、実はゲーデルの「不完全性定理」を第一に挙げなければなりません。これは思想的にも甚大な影響をもたらしました。少しでもかじっておくべきでしょう。

⑳『フェルマーの大定理が解けた!』(足立恒雄、講談社BLUE BACKS)

 「フェルマーの定理」の最終証明については多くの解説書が出ていますが、まずはこの本あたりで概略をつかんでおくとよいでしょう。日本人数学者も多大な貢献をしたことがよく分かります。

㉑『カオスとフラクタル 非線形の不思議』(山口昌哉、講談社BLUE BACKS)

㉒『数学・まだこんなことがわからない 素数の謎から森理論まで』(吉永良正、講談社BLUE BACKS)

 数式をどんどん読み飛ばしていくのが、読むコツです。現代数学界の「空気」が吸える、貴重な本です。ある意味ではノーベル賞以上の評価でありながら、認知度がはるかにそれに及ばないフィールズ賞(日本人のフィールズ・メダリストは3人います)について、あるいは残された数学上の難問について、これより分かりやすく説明している本はないかもしれません。

㉓『マンガでわかる 虚数・複素数』(相知政司、オーム社)

㉔『高校数学でわかる線形代数 行列の基礎から固有値まで』(竹内淳、講談社BLUE BACKS)

㉕『高校数学でわかるフーリエ変換 フーリエ級数からラプラス変換まで』(竹内淳、講談社BLUE BACKS)

㉖『図解雑学 フーリエ変換』(佐藤敏明、ナツメ社)

㉗『マンガでわかる フーリエ解析』(渋谷道雄、オーム社)



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(3)物理学

①『ゼロから学ぶ物理の1、2、3』(竹内薫、講談社)

②『物理学と神』(池内了、集英社新書)

③『物理の4大定数 宇宙を支配するc、G、e、h』(小谷太郎、幻冬舎新書)

④『物理学の歴史』(竹内均、講談社学術文庫)

⑤『高校数学でわかるマクスウェル方程式 電磁気を学びたい人、学びはじめた人へ』(竹内淳、講談社BLUE BACKS)

⑥『ノーベル賞で語る20世紀物理学』(小山慶太、講談社BLUE BACKS)

 ノーベル賞は1901年から受賞が始まり、その歴史を追うことはまさに20世紀のパラダイム・シフトを確認することに他なりません。物理学は「ノーベル賞の華」であり、20世紀は「物理学の世紀」とすら言われていますので、この本で概略をつかんでおきましょう。

⑦『物質をめぐる冒険 万有引力からホーキングまで』(竹内薫、NHKブックス)

⑧『図形雑学 相対性理論』(佐藤健二監修、ナツメ社)

⑨『光で語る現代物理学 光速Cの謎を追う』(小山慶太、講談社BLUE BACKS)

⑩『超光速粒子タキオン 未来を見る粒子を求めて』(本間三郎、講談社BLUE BACKS)

⑪『ヒッグス粒子と素粒子の世界 宇宙をつくる究極の粒子を求めて』(矢沢サイエンスオフィス、技術評論社)

⑫『量子力学入門 現代科学のミステリー』(並木美喜雄、岩波新書)

⑬『図形雑学 量子力学』(佐藤健二監修、ナツメ社)

⑭『現代物理学の父ニールス・ボーア 開かれた研究所から開かれた世界へ』(西尾成子、中公新書)

⑮『ハイゼンベルク 二十世紀の物理学革命』(村上陽一郎、講談社学術文庫)

⑯『10歳からの量子論 現代物理学をつくった巨人たち』(都築卓司、講談社)

⑰『量子力学の世界 はじめて学ぶ人のために』(片山泰久、講談社BLUE BACKS)

⑱『量子力学が語る世界像 重なり合う複数の過去と未来』(和田純夫、講談社BLUE BACKS)

「ノーベル賞の華」と言われる物理学賞は第1回受賞がレントゲンによるX線の発見であるように、目に見えない世界の解明から始まったことは実に象徴的です。電子のエネルギー量は不連続で、整数倍になっているというプランクによる「量子仮説」、物質には「粒子性」と「波動性」の二重性があるというド=ブロイによる「物質波」、物体は同時に観察したり、測定したりすることが不可能な、ある対の相補的な性質を備えていることを述べたボーアの「相補性原理」、量子力学的対象を扱うための数学的手法であるシュレディンガーの「波動力学」(ハイゼンベルクの行列力学と意味する所は同じです)、「観測」という行為自体が対象に影響を及ぼすことを明らかにし、ハイゼンベルクの「不確定性原理」に至って、「量子力学」の基礎が固まりました。

 「客観的な実在」が存在するという素朴な「存在論」が「認識論」によって覆され、現在では観測するまでは「波」だが、観測した瞬間、「粒子」に収束するという「波の収束」が起きていると考えられています。ここから物質を成り立たせる根本的粒子(素粒子)の解明(クォーク、ニュートリノなど)といったテーマが浮上し、「真空」とは空っぽではなく、負のエネルギーを持った電子がぎっしり詰まった状態であるとして、「相対論的量子力学」を確立したディラックの提唱した「反物質」が発見されるなど、驚異的な進展を示したのです。

 従来のニュートンの古典力学は「因果律」の基づく必然的「決定論」で、弾道計算や軌道計算なども「決定論」ゆえに可能なのでであり、この立場を推し進めると、今後どうなるかを全て知り尽くした存在「ラプラスの悪魔」を想定することも当然考えられる話です。これに対して、「量子力学」の発達は「確率」に基づく偶然的「非決定論」の意義を認識させました。「カオス理論」から発達した「複雑系」なども「非決定論」を組み込んだシステムであり、身近な所では保険でよく使われる「大数の法則」なども「非決定論」の立場に立ちます。これは個々のケースでは犬に噛まれたり、マンホールに落ちたり、それぞれにたまたま起きたことであるにもかかわらず、社会全体では毎年大体一定の割合で事故・病気・怪我が発生するということです。つまり、個々の事象は確率論的「非決定論」なのに、社会全体というマクロ・レベルでは一定の法則に収束して、因果律的「決定論」として取扱えるということを意味します。

 ちなみにアインシュタインはこうした「確率」に基づく「量子力学的解釈」が受け入れられず、「神はサイコロを振らない」と言って、量子力学を論破しようと「思考実験」をいくつもふっかけていきましたが、逆に悉く論破されていったことは有名です。

⑲『神さまはサイコロ遊びをしたか』(小山慶太、講談社学術文庫)

⑳『量子の謎をとく アインシュタインも悩んだ…』(F・A・ウルフ著、中村誠太郎訳、講談社BLUE BACKS)

 物理学の進展を考える上で、見逃せないのが「相対性理論」と「量子力学」の登場であり、両者の対決です。前者はアインシュタインに始まり、後者はボーア・シュレディンガー・ハイゼンベルクに始まります。両者の統一が21世紀物理学の課題であると言えるでしょう。本書は伝記風なので、読み易い入門書・解説書となっています。

㉑『「量子論」を楽しむ本 ミクロの世界から宇宙まで最先端物理学が図解でわかる!』(佐藤勝彦監修、PHP文庫)

 ビレンキンの量子宇宙論(1982年)によれば、宇宙創成のプロセスは次のようになります。

●無~時間も空間も無い状態です。

●量子的なゆらぎ~エネルギーが絶えず生成消滅する状態です。量子論と特殊相対性理論を結び付けようとした「ディラックの方程式」により、反物質の存在が導き出されましたたが、粒子と反粒子のペアが出現することを「対生成」と言い、粒子と反粒子が出会って消滅することを「対消滅」と言います。

●トンネル効果~そのうちの1つがたまたまエネルギーの壁を乗り越えることによって、宇宙が発生しました。

●インフレーション~一度発生した宇宙は光速をはるかに超える急激な膨張(インフレーション)を行いながら、ポテンシャル・エネルギーの安定な状態へ向かいます。

●相転移~十分に大きくなった宇宙の内部では、高いエネルギーを持った真空の状態が、低いエネルギーの真空へと変わります。「対称性の自発的破れ」と言います。

●ビッグバン~相転移によるエネルギーの差が一挙に開放されます。

㉒『宇宙像の変遷』(村上陽一郎、講談社学術文庫)

㉓『図形雑学 宇宙137億年の謎』(二間瀬敏史、ナツメ社)

㉔『宇宙の迷宮への挑戦 般若心経と最新宇宙論』(糸川英夫、青春出版社)

㉕『よくわかる宇宙論 ニュートンの無限宇宙からホーキングの最新理論まで』(金子隆一、日本文芸社)

 これは「宇宙論」の歴史を分かりやすく追ったものです。「宇宙論」は1980年代に大ブームとなり、今は鎮静化した感がありますが、物理学の中では最も親しみやすい分野です。ちなみに「宇宙論」という言葉が使われるのは、人間の体験できる範囲をはるかに超えた世界を扱うからで、宇宙に関して実験することも、再現することも、観察することも出来ないからです。これは生物の進化を扱う学問領域が進化学ではなく、「進化論」であるのと同じですが、最近では総合的・包括的な「宇宙科学」という言葉が一般的になってきました。

㉖『アインシュタイン・ロマン4 悪魔の方程式 宇宙創成への問い』(NHKアインシュタイン・プロジェクト、日本法放送出版協会)

㉗『相対論的宇宙論 ブラックホール・宇宙・超宇宙』(佐藤文隆・松田卓也、講談社BLUE BACKS)

 アインシュタインはニュートン以来の「絶対時間」(宇宙のどこに行っても流れる時間は同じ)と「絶対空間」(空間は独立していて何の影響も受けない)の概念を覆し、「相対時間」「相対空間」の概念を打ち出すと共に、そもそも「時間」と「空間」は「4次元時空」という統一的概念で捉えられることを明らかにしました。「重力」も「時空のゆがみ」で説明され、質量とエネルギーの変換公式も確立(Emc2E:エネルギー、m:質量、c:光速)しており、この応用から「原子力」が導き出されました。

 ここから「宇宙論」が急激に発展し、宇宙の始原における根元的な4つの力(弱い相互作用、電磁気力、強い相互作用、重力)の統一(「電弱統一理論」→「大統一理論」→「超大統一理論」)といったテーマが浮上したわけです。これはマクロな宇宙を扱う「相対性理論」も始原状態においてはミクロの領域となり、通常だと両立が難しい「量子力学」が適用される段階となることを意味します。

㉘『宇宙を測る 宇宙の果てに挑んだ天才たち』(キティー・ファーガソン著、加藤賢一・吉本敬子訳、講談社BLUE BACKS)

㉙『宇宙論の危機 新しい観測事実に揺れる現代宇宙論の最前線』(マイケル・D・ルモニック著、小林健一郎訳、講談社ブルーバックス)

●COBE(コービー)~1989年に打ち上げられたアメリカの人工衛星で、宇宙背景放射探査機(Cosmic Background Explorer)の頭文字を取ってCOBE衛星と呼ばれました。COBEの成果によって、宇宙論は頭のなかで考えるものから観測データを基に議論する「精密科学」に変わったとされ、宇宙の進化を研究するスティーブン・ホーキング博士は、COBEの成果を「20世紀最大の発見」と呼んでいます。

●WMAP~2001年にアメリカ航空宇宙局 (NASA) が COBE の後継機として打ち上げた宇宙探査機ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe、「ウィルキンソン」は「宇宙背景放射観測の父」と呼べる人物の名前)で、その任務はビッグバンの名残の熱放射である宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) の温度を全天にわたってサーベイ観測することです。こうしたWMAPの観測データにより、宇宙年齢が137億歳と精度良く求まり、さらに光子が電子に邪魔されずに進めるようになった「宇宙の晴れ上がり」の時点である宇宙年齢38万歳の宇宙の姿が明らかになってきました。また、現在の宇宙の大半を占めているダークマターやダークエネルギーの正体を解き明かす上で貴重な鍵となるとされています。

●ダーク・マター(暗黒物質)~宇宙における全物質(銀河や超銀河団)を分布し、集合させているエネルギーを現在の観測事実に矛盾することなく算出すると、宇宙の95%もの未知なる物質の存在を想定しなければならないのです。そのうちの1つががダーク・マター(暗黒物質)で、これは宇宙の所々に塊で存在し、見えないのに重力を持つ物質です。最近では、ダーク・マターの重力の影響でその背後にある銀河がゆがんで見える現象「重力レンズ効果」が発見され、ダークマターが宇宙にどのように分布しているのかという地図づくりも進められていますが、その正体はいまだに不明です。

●ダーク・エネルギー(暗黒エネルギー)~ダーク・マターとともに宇宙全体の95%を占めるとされている物質です。ダークエネルギーは宇宙全体に均等に分布していて、宇宙が膨張するスピードをどんどん速くする力を持っています。かつての宇宙論では、宇宙全体の重力でブレーキがかかり、膨張は遅くなっていくと思われていたのですが、遠くの超新星(ある星の一生の最後に起きる爆発現象)が、これまでの理論で予想される速度よりも速く遠ざかっていることが発見され、宇宙の膨張速度はどんどん速くなっていることが分かったのです。そのため、重力に逆らって加速しながら宇宙を押し広げる未知の力はダーク・エネルギーと名づけられました。この正体もいまだに不明です。

㉚『はじめての<超ひも理論> 宇宙・力・時間の謎を解く』(川合光、講談社現代新書)

㉛『イラスト「超ひも」理論 図解でいっきにわかる!宇宙論の最先端』(白石拓解説、宝島社)

㉜『入門超ひも理論 物理学の最終理論をやさしく解説!』(広瀬立成、PHP研究所)

㉝『超ひも理論と「影の世界」 見えない!さわれない!謎の世界』(広瀬立成、講談社BLUE BACKS)

㉞『エレガントな宇宙 趙ひも理論がすべてを解明する』(ブライアン・グリーン著、林一・林大訳、草思社)

㉟『現代物理の世界がわかる アリストテレスの自然哲学から超弦理論まで』(和田純夫、ぺレ出版)

㊱『超ひも理論とは何か 究極の理論が描く物質・重力・宇宙』(竹内薫、講談社BLUE BACKS)

 「相対性理論」と「量子力学」の統一理論(「万物理論」「最終理論」とも言います)は「質量無限大の特異点」の問題などを解決しなければならず、4つの力のうち、最も問題となる重力を担う「重力子」を巧みに取り込んだ「超重力理論」や「特異点の克服」というよりは「特異点の回避」から生まれてきた「超ひも理論」などがその候補の1つに挙げられていますが、21世紀物理学に持ち越された重要課題であると言えます。

㊲『宇宙には意志がある ついに現代物理学は、ここまで解明した』(桜井邦朋、クレスト選書)

㊳『宇宙は自ら進化した ダーウィンから量子重力理論まで』(リー・スモーリン著、野本陽代訳、NHK出版)

 宇宙」創成以前は「有りて有る」世界としか言いようがなく、時間・空間が誕生する以前に「時系列」を適用することはできないわけですが、いわゆる「輪廻宇宙論」はこの過ちをおかしています。聖書に神は「有りて有る者」として出てきますが、時間・空間も全てそこから出発したとしたら、まさにそのような表現をするしかないでしょう。

 あるいはまた、ビッグバン宇宙提唱後も、宇宙は収縮と膨張を繰り返してきたのではないかと考えられてきましたが、ホーキングとペンローズが1970年に、「現在の宇宙膨張の事実を認める限りにおいては、宇宙は必ず特異点からはじまらなければならない」という「特異点定理」を数学的に証明し、それによって「宇宙の始まり」が科学によって議論されることになりました。

 量子力学によると、「無」の状態においてもエネルギーは揺らいでおり、そのエネルギーの揺らぎにより、宇宙は創生されたとされます。この時の宇宙の生成は「量子力学的トンネル効果」によって説明されますが、ファインマンの経路積分法によれば、トンネル効果において、今我々が感じている時間を「実数時間」としたならば、時間は虚数になっており、ホーキングはこのことから「無境界仮説」を唱えました。

 これは「時間は宇宙の始まりにおいては虚数であった」とする仮説であり、時間が虚数ならば相対論的には時間と空間の区別がなくなり、それゆえ、時空を閉じたものとして考えることが出来るため、3次元球上の2次元曲面(たとえば地球表面)のように端が無い(すなわち、境界が無い)時空を考えることが出来るというのです。そうすると、地球上において「北極より北」というものを考えることが無意味なように、時空においても「時間が始まる前」というものを考えることが無意味となります。ホーキングはそのような「虚数時間」こそが「真の時間」だと言い、こうしてホーキングは自ら証明した特異点定理をうまく避けるようにして時間の始まりを議論することに成功したのです。

㊴『超常現象には”法則”があった!』(猪股修二、KKロングセラーズ)

㊵『超常現象には”絶対法則”があった!』(猪股修二、KKロングセラーズ)

㊶『よくわかる宇宙論の迷走と過ち ビッグバン理論は間違っていた』(コンノケンイチ、徳間書店)

㊷『超ミクロの空間は<意志>に満ちた<霊界の宇宙>だった 死後の世界を突き止めた量子力学』(コンノケンイチ、徳間書店)

 「虚時空」では「実時空」における因果律が適用できません。「無」(全てがある状態)→「複素時空」(広義の宇宙誕生)→「実時空」(狭義の宇宙誕生)という三段階のプロセスをたどったわけですが、結果的宇宙に「時間」「空間」「物質」「エネルギー」「意識」「精神」が存在しているということは、原因的無にも原存在があったと考えられます。したがって、「目に見えない世界」「霊界」「死後の世界」も含めた広汎な「総合的宇宙論」が必要となり、究極の「本体論」「存在論」は「宇宙論」であると言えるでしょう。



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(4)化学

➀『学問の創造』(福井謙一、佼成出版社)

②『暗記しないで科学入門』(平山令明、講談社BLUE BACKS)

③『暗記しないで科学入門 無機化学編』(平山令明、講談社BLUE BACKS)

④『熱力学で理解する化学反応のしくみ 変化に潜む根本原理』(平山令明、講談社BLUE BACKS)

⑤『化学ぎらいをなくす本 新装版』(米山正信、講談社BLUE BACKS)

⑥『化学・意表を突かれる身近な疑問』(日本化学会編、講談社BLUE BACKS)

⑦『元素111の新知識 第2版 増補版』(桜井弘編、講談社BLUE BACKS)

⑧『図解雑学 元素』(富永裕久、ナツメ社)

⑨『カオス 新しい科学をつくる』(ジェイムズ・クリック著、大貫昌子訳、新潮文庫)

⑩『カオス まったく新しい創造の波』(合原一幸、講談社)

⑪『複雑系は、いつも複雑 カオスの縁から<複雑適応系>を探検する編』(逢沢明、現代書館)

⑫『複雑系を超えて カオス発見から未来へ』(上田睆亮・西村和雄・稲垣耕作、筑摩書房)



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(5)生物学

➀『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一、講談社現代新書)

②『ゲノムが語る生命像』(本庶佑、講談社BLUE BACKS)

 本庶佑は「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」により、日本人としては5人目になるノーベル生理学・医学賞を2018年に受賞しています。ちなみにノーベル生理学・医学賞の日本人第1号となったのは利根川進で、免疫機構において抗体に関わる遺伝子が変化することで多様な抗体が生成されることを明らかにした研究が評価されました

 1976年にワトソンが所長を務めるコールド・スプリング・ハーバー研究所のシンポジウムで、後にノーベル生理学・医学賞を単独受賞することになる利根川進が「抗体の多様性の仕組み」について発表しました。ここに招かれて研究成果を発表するのは、分子生物学者として最高の名誉であるとされます。免疫の抗原抗体反応において、1つの抗原には1つの抗体が必要なため、抗原が1億あれば抗体も1億必要になりますが、人体が最初からそんな膨大な抗体を準備しているとは考えられないため、「免疫学最大の謎」の1つになっていたのですが、利根川はこれに取り組み、複数の遺伝子を使って組み換えを起こし、膨大な抗原に対抗する抗体を作り出すメカニズムを明らかにしたのです。利根川が制限時間を使い切ったため、司会者が発表を打ち切らせようとしたところ、会場の後ろにいた人物が「これは重要な発表だ。途中で止めさせるな」と叫び、30分以上も延長して発表を続けると、「発表を聞いている聴衆が、これは大変だと認識しはじめた。会場はシーンとし、誰もが畏敬の念を持って聞いているように感じた。聴衆の興奮がこっちにも伝わってきた。終わったらものすごい拍手だった」(利根川)と言います。実は叫んだのは、分子生物学のボスであるワトソンその人でありました。利根川の新しい発見の連続は「約二年間にわたって独走を続けた」と言われるように、他の追随を許さないものであり、ノーベル生理学・医学賞選考委員も「この業績は一〇〇年に一度の大発見だ」と絶賛し、選考委員会事務局長リンドステンも日本人の受賞者がなかなか出ないと嘆く日本人ジャーナリストに対して、「トネガワの単独受賞は、三人分に相当する。だから三年間はいいだろう」と冗談交じりに言ったほどでした。ちなみに利根川は実証実験においても、それまでの分子生物学の実験手法をガラリと変えるような最先端技術を次々と導入したことでも知られています。

●DNAを特異的に切断する制限酵素の利用~アメリカのスミス、ネイサンズが制限酵素を発見していますが、2人は1978年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

●コーエン=ボイヤーの遺伝子組み換え法~アメリカのコーエン、ボイヤーが制限酵素とプラスミドを用いて組み換え遺伝子を作る方法を開発しました。

●DNAのクローニング法~アメリカのポール・バーグが発明しました。1980年にノーベル化学賞を受賞しています。

●DNAの塩基配列を直接読めるマクサム・ギルバート法~アメリカのギルバートらが開発しました。ギルバートは1980年にノーベル化学賞を受賞しています。

③『新しい量子生物学 電子から見た生命のしくみ』(永田親義、講談社ブルーバックス)

④『易経の謎 2000年目に解けた「八卦」の秘密』(今泉久雄、光文社)

 生物の遺伝的形質を規定する「遺伝子」において、「遺伝情報」の実体は「DNAの塩基配列」であることが分かっています。DNAからRNAに情報が写し取られる「転写」と、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、リボソームRNAなどによってタンパク質が合成される「翻訳」によってタンパク質に変換される過程を「セントラル・ドグマ」(分子生物学の中心教義)と言いますが、これはワトソンとクリックによる「DNAの二重らせん構造」モデルの構築から確立されていきました。ここから「分子生物学」が発展し、「生命の神秘・謎」の探求が加速化されることとなるのです。

⑤『「地球のからくり」に挑む』(大河内直彦、新潮新書)

⑥『生命の起源論争』(長野敬、講談社選書メチエ)

⑦『カンブリア紀の怪物たち 進化はなぜ大爆発したか』(サイモン・コンウェイ・モリス著、松井孝典監訳)

⑧『「人類の起源」大論争』(瀬戸口烈司、講談社選書メチエ)

⑨『面白いほどよくわかる 進化論の不思議と謎 進化する「進化論」~ダーウィンから分子生物学まで』(小畠郁生監修、山村伸一郎・中川悠紀子著、日本文芸社)

⑩『生物はなぜ進化したか 現代進化論の盲点をつく』(浅間一男、講談社BLUE BACKS)

⑪『進化論が変わる ダーウィンをゆるがす分子生物学』(中原英臣、佐川峻、講談社BLUE BACKS)

⑫『遺伝子が語る人間の絆 イヴの七人の娘たち』(ブライアン・サイクス著、大野晶子訳、河出文庫)

⑬『遺伝子が語る人類の盛衰 アダムの運命の息子たち』(ブライアン・サイクス著、大野晶子訳、河出文庫)

⑭『アダムの旅 Y染色体がたどった大いなる旅路』(スペンサー・ウェルズ著、和泉裕子訳、バジリコ)

 生命史の観点からすると、最大の謎とされるのが、「生命誕生」「有性生殖の始まり」「人類創世」の3つです。



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(6)医学

➀『ヒューマン・ブレイン 生活・経営に直結する最新脳科学の成果』(ディック・ギリング、ロビン・ブライトウェル著、大井晴策訳、プレジデント社)

②『脳の人間学 脳研究と人間の可能性』(リチャード・M・レスタック著、河内十郎訳、新曜社)

③『脳のメモ帳 ワーキングメモリ』(苧阪満里子、新曜社)

④『右脳の冒険 内宇宙への旅』(コリン・ウィルソン著、中村保男訳、平河出版社)

右脳と左脳の対話』(杉下守弘、青土社)

⑤『脳の話』(時実利彦、岩波新書)

⑥『心と脳のしくみ』(時実利彦、講談社学術文庫)

⑦『心が脳を変える 脳科学と「心」の力』(ジェフリー・M・シュウォーツ、シャロン・べグレイ著、吉田利子訳、サンマーク出版)

⑧『心と脳――認知科学入門』(安西祐一郎、岩波新書)

⑨『「心」とは何か 精神生理学からのアプローチ』(高橋宏、講談社BLUE BACKS)

 「2人の私」がいるという感覚は誰でも持つことがありますが、例えば、「感情的になっている自分」=「右脳の心」を「冷ややかに眺めている自分」=「左脳の心」といったケースです。自分ではどうしようもないほど感情に流され、後で自己嫌悪に陥るというのは、「右脳」に対してこれは「本当の私ではない」と叫ぶ「左脳の心」であり、ひいてはその「左脳」の分析をふまえた「自我意識」の感覚と言ってもいいかもしれません。

 実はこの対立する「2つの心」は「私」そのものではなく、「私」という「自我意識」によって統轄される、それよりも下位の精神作用であると言わなければならないのです。したがって、人間の「心」には主体的部分と対象的部分があり、前者は本体とも言うべき「私」という「自我意識」、後者は「左脳の心」と「右脳の心」であるという心的構造が成立していることが分かるのです。

 「左脳」は時間性・収束性を持ち、論理を駆使しますが、「右脳」は空間性・発散性を持ち、イメージを駆使する存在で、両者は脳梁を通じて情報交換し、「私」という自我意識によって一つの「人格」として統一されます。すなわち、価値を追求したり、意味を与えたりする「私の心」に対して、価値や目的実現の道具として駆使されるのが「脳」なのです。人間の場合、「右脳」と「左脳」が両極端の機能を持つために、下手をすると、両者は主導権争いをして精神に異常をきたす場合があります。例えば、てんかんやどもりなどがそうです。こうした両脳を1つの「人格」として統合するためには、1つの「目的」を持って両脳を強力に統合する主体が必要であり、それが「私」という「自我意識」です。

 「右脳」は「空間」に縛られ、「左脳」は「時間」に縛られるのに対し、「私」は自由に時空を超越して駆け巡る存在であり、こうした「時間観念」「歴史意識」や「空間観念」「立体把握」を駆使出来るのは「万物の霊長」人間ぐらいのものです。両脳はただひたすら協力して科学理論や芸術作品などを創り上げ、「生きていく」だけですが、「私」という「自我意識」はその科学理論に「真理性」、芸術作品に「美的感動」、実践活動に「倫理的善」といった「価値」を見出し、人生に「意味」を与える存在となっているのです。そもそも、「脳」自体は「価値性」「意味性」とは無関係です。

 すなわち、「脳」は「価値」「意味」「目的」実現の「道具」であり、「私」という「自我意識」は「価値」「意味」「目的」追求の主体と言ってもいいのです。

⑩『医者ムラの現実』(榎木英介、ディスカヴァー携書)

⑪『あきらめない心――心臓外科医は命をつなぐ』(天野篤、新潮社)

⑫『手の倫理』(伊藤亜紗、講談社メチエ)

⑬『在宅老人に学ぶ 新しい医療の姿を求めて』(佐藤智、ミネルヴァ書房)

⑭『傍らにあること 老いと介護の倫理学の永遠の争い』(池上哲司、ナカニシヤ出版)

⑮『交わらないリズム 出会いとすれ違いの現象学』(村上靖彦、青土社)

⑯『胎児の複合汚染~子宮内環境をどう守るか』(森千里、中公新書)

 作用不明な合成化合物は日々大量に世界中で作り出され、環境に放出されていますが、単独では無害に見える、幾つもの異なる物質が混ざり合った時、初めて毒性が現われることもまれではないとされます。これが「複合汚染」(Compound Pollution)です。こうした物質に一番敏感なのは受胎間もない胎児であり、化学物質の安全基準は一番「強い」成人への毒性を基準にしていて、育ちつつある胎児への影響という視点がほとんど無いと指摘されています。そのため、「環境健康予防医学指導士」という制度を設け、胎児を環境ホルモンや汚染物質から守る予防医学の行政システムを築くべきであるというのです。

⑰『奇蹟の生還』(マ-ロン・ジョンソン、ジョセフ・オルシャン著、永井明訳、ソニ-・マガジンズ)

 自らもエイズ研究をする神経病理学者マ-ロン・ジョンソンのエイズとの闘いの記録です。1992年、エイズ患者の死体解剖をしていたジョンソンは、メスで指を切ってエイズに感染してしまいます。以後、自分の体を実験台にして独自の治療法を実践し、新薬を投与し、体を鍛え、自分の免疫力を監視する日々となり、薬の副作用が相当なものであるにもかかわらず、果敢に挑んでいった結果、ついにウイルスが検出されないという驚異的な結果が現われたのです。そして、それまで仕事一筋だった人生を悔い、人間としての幸せを探求し始めるのです。その切実な願いは女性と愛し合い、家庭を築くことでした。感染後のジョンソンは、人が変わったように積極的に周囲の人々と豊かな関係を持ち始めるのですが、そういった変化が彼に奇蹟を起こさせたのかもしれません。

⑱『死にゆく人の17の権利』(デヴィッド・ケスラー著、椎野淳訳、集英社)

 著者はキューブラー・ロス医師の弟子であり、アメリカのホスピス運動の専門家ですが、ここでは「生きている人間として扱われる権利」「看護に関するあらゆる決定に参加する権利」「孤独のうちに死なない権利」といった、死の淵にある人々の17の権利を紹介しています。

⑲『安楽に死にたい』(松田道雄、岩波書店)

 著者は、病院のベッドに囚人のごとく縛り付けられて「寝たきり」になることは、自由を失うことなので、そこで人生は終わったと考えています。現代では、病院で人間の尊厳を保てない形で生きることを強いられます。死期の近い患者には確かにケア(介護)は必要ですが、無駄なキュア(治療)をし続けるのは、薬を出さねば利益が出ず、数をこなさなければならない医療体制のためです。また、終末期医療(延命治療)は高額な医療になるのです。

 かつて人は家で生まれ、家で死にましたが、1960年代に自宅出産が激減し、1970年には96%が病院で生まれました。そして、1975年以降、自宅での死が5割以下となり、今おそらく7割以上が病院で死を迎えるようになりました。家で死にたくても死ねない、死なせてくれない。医師が死の決定権を握って、無意味に延命させるからだ、と著者は主張しています。安楽死に反対する人々は、年老いた病人の世話を長くしたことのない人々であり、延命治療が一種の拷問であることに気がつかないとも言います。治療内容も開示せず、むやみに権威主義的な医者から、患者の生と死に関する自己決定権を奪い返すべきだと力説するのです。

⑳『死を求める人々』(ベルト・カイゼル著、畔上司訳、角川春樹事務所)

 オランダの療養院を舞台に安楽死をめぐる人間ドラマを描き、世界10ヶ国でベストセラーとなりました。著者は首都アムステルダムの療養院に16年間勤務している内科医で、同院には常に280人ほどの入院患者がおり、年間約120人が息を引き取ると言います。この病院で安楽死を選択するのは、せいぜい1年に1人であり、著者自身が直接関わったのは16年間で11人です。著者が安楽死の現場にとどまり続けるのは、重い病気の人は自殺さえできず、患者がこれ以上生きていたくないと訴えた時、その気持ちを理解できるからだと言います。

㉑『操られる死――<安楽死>がもたらすもの』(ハーバード・ヘンディン著、大沼安史・小笠原信之訳、時事通信社)

㉒『医師はなぜ安楽死に手を貸すのか』(チャールズ・F・マッカーン著、杉谷浩子訳、中央書院)

 この2冊は、医師による「積極的安楽死」について、賛成と反対のそれぞれの立場から書かれた米国の書物の翻訳です。強いて医療措置を行なわないという「消極的安楽死」については、本人の意思表示が明確である場合には、両書とも問題が無いという立場を取っています。しかし、精神科医師であるヘンディンは米国自殺予防財団の医療責任者でもあり、安楽死に対しては深刻な憂慮をもって反対しています。安楽死を最初に合法化した「安楽死先進国」オランダの実情も丁寧に批判しており、「安楽死の合法化」は結局、「滑りやすい坂」を滑り落ちるだけであると言います。これに対して、ガン治療の専門医であるマッカーンは医師による安楽死に賛成の立場を表明しており、ヘンディンの言うような事態は起きないと主張します。

㉓『生と死の現在(いま)』(読売新聞北陸支社編、桂書房)

 読売新聞富山・石川両県版で、1996年6月から1年3ヵ月にわたって「生命の尊厳」をテーマに連載したものを、1冊にまとめたものです。

㉔『臨床死生学事典』(河野友信・平山正美編、日本評論社)

 執筆担当者には看護婦、カウンセラーら臨床の現場で働く人の他、主婦、高校教員、牧師もおり、年齢も20代から60代と幅広く、テーマも死生学概論、生命倫理、医療と死など、193項目にも及ぶものとなっています。

㉕『人体市場 商品化される臓器・細胞・DNA』(L・アンドルーズ、D・ネルキン著、野田亮訳、岩波書店)

 本書では、アメリカだけで1300の企業と170億ドルの資本を有するバイオ産業の急成長ビジネス分野、「人体ビジネス」が取り上げられています。



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